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0-5「幕開け」

 ハナには見えていたのだ。

 今にも笛塚の中へ還りそうだったウシャナの丹田に、刺線の花がようやく咲いたのを。


「ッッァァッッ……!?」


 投げ槍となったソレは、霧散直前のウシャナにぶっ刺さって墜落せしめた。

 実体へ戻った彼が地に激突……する前に、すでに風来姫は肉薄していた。

 今度はウシャナの喉笛に、今まで見たどれよりも絢爛な刺線の大花が咲いたのを見た。


「抜いたからには、死ぬまで納めないのが真剣勝負でしょうがッッ!!」


 ーー 致命(Fatal Hit) ーー ハナは刺さったままの無銘刀の代わりに、手刀を突き込んだ。


 ーー 『手刀』(素手) ーー


 喉笛を抉るとともに引き抜けば、血潮よりも鮮烈な妖気が噴き上がった。

 ウシャナの素っ首を、今度こそ狩り取ったのだった。


「……我が源よ……見つけたやも……しれ……」


 首が千切れかけながらも、膝を付きながらもくずおれることなく。呼び刀のウシャナは消滅していった……。

 そして呼応するかのごとく、笛塚も崩れてしまったのである。


「ちょっと!? せっかく真の姿っぽいの出してたのに、一撃で倒れることないんだけど!」


 もっともっと殺し合いたかった少女は妖気を掴もうとしたが、ソレらは山のような砂金となって手に入るばかりだった。


「……ま、いいけど。あたしの勝ち」


 それでもやはり、胸に込み上げてきたのは達成感と燃焼感。刀を納めたハナは強敵への敬意を以て一礼した。


(フェイタルヒットって、単なる強攻撃じゃなくてもしかして……)


 ウシャナがいた場所に何か突き立っていたので、手に入れる。


 ーー 『魂源こんげんの篭手』(腕装備) ーー

 ーー 『発狂』以外の状態異常を無効化する。ただし装備防御力が極めて低下する ーー


 火が逆巻くような牛皮を鞣した、ドレスグローブ風のしなやかな篭手だった。


「へえ、あたしにピッタリなんだけど。装備装備……って、え?」


 ーー 腕装備変更 ーー

 ーー 『古手の手甲』→『魂源の篭手』 ーー


 イキイキと装備してみせたところで、ようやく気づいたことが1つ。


「「「「「「「「わああああああああ!!」」」」」」」」


 熱狂の勝鬨をあげながら、湖外周のプレイヤーたちが小島へ渡ろうとしていたのだ。

 さながらベンチ席の選手がチームメイトを祝福しに飛び出したかのような光景だが……全員、目が血走っていた。


「フェイタルヒットだよウワァー!」「ホントにあるんだぁ!」「スゲェー! スゲェよーあんたー!」「ここのウシャナ先生って倒せんの!?」「こここ『魂源の篭手』ェ!?」「Wikiでしか見たことないよ!」「見せてぇ!」「ぜひ我々の同盟に入ってくださぁい!」「いやウチに!」「どけどけエンジョイ勢がぁ!」

「ちょ……まだいたのっ? いやあたしソロ専だから、ってか怖いんだけど!」


 死闘に集中しきっていたハナは、背景じみた彼らの声なんて今の今まで聞いてもいなかった。


「どんだけメンバー不足なのよっ、そんなおだてられても気味悪いんだけど!? チュートリアルボス倒したぐらいで!」


 どうしてそんなに興奮しているのか、ハナ本人は心底わからなかったし気味悪かったのだ。

 餓鬼の包囲を思い出す。逃げようにも全方位の舟の岩越しに湖面を渡ってきていて、あの強化外骨格たちの方がきっと速い。


「きみなあ……クールそうに見えてド天然だよな」


 その時、ハナのすぐ後ろに降ってきた影があった。

 振り向いた時には、足元からかっさらわれていた。


「一応訊くが、フェイタルヒットの発生条件って知ってるか?」


 ハナは、大太刀を帯びた青年武者にお姫様抱っこされていた。

 彼が装着した強化外骨格は他の暇人プレイヤーたちと比べても強力そうで。

 纏った陣羽織や武具にしても、例えば『勇者』の2文字を思い起こさせるような洗練されたものだった。

 ハナはお姫様抱っこからもがき出ようとしたが、状況が状況だったので青年武者の横っ面を押し退けるだけに留めた。


「知らないけど。村鞘」

「だろうな。あと本名はやめれ、イチって呼んでくれ看谷」


 村鞘 市郎しろうである。顔も体格もリアルの彼そのままに、『イチ』というネームを掲げた彼は苦笑した。

 直後。彼は強化外骨格の脚力で前へと跳び、プレイヤーたちを踏み台に湖を越えていった。


「ちょ……あんた!?」「イチ!?」「隠鬼城のイチか!?」「おい! その子は俺たちが……!」「横取りすんなしぃ!」


 何やら吠えていたが、ハナはもとより村鞘も……イチもまるで興味無さそうだった。


「どうしてそう一番ラクで一番難しいプレイをするんだ。ウシャナの喉笛握り潰したのなんて前代未聞だろうな」

「いつから見てたのよ」

「きみが生身で八双飛びを全パリィした辺りから」

「……? 生身以外に何があんのよ、あたしまだそのメカ貰ってないし」

「は?」

「は?」


 かき捨ての竹林へ逃げ込みながら、2人は顔を見合わせて。


「……言いたいことはいろいろあるが、とりあえず落ち着ける場所まで逃げるからな」

「ん。ありがと」

「あと言い忘れてた。チュートリアル突破おめでとう」

「ん。ありがと」


 ーー 初心者指南 達成 ーー

 ーー おめでとう そなたの旅はここから始まる ーー


 あのナビ鬼火が表示していた大きなウィンドウを頭上に。ハナは、青年武者の頬をぺしっと小突いてやった。

 彼がことさら大きく目を丸くしていたのは、その不意打ちのせいよりも……、


「楽しいねこのゲーム。もうちょっと続けてあげるけど」

「……どういたしまして。ようこそ稀人、日芙の大地へ」


 ハナが、満面に笑っていたからだろうか。

 死闘を愛する風来姫の旅が、ここから始まる。


  続く


  ◯ ◯ ◯ ◯


『……フェイタルヒットとは、全ての効果を無視して敵を即死させる技でございます。


 『意志力』なる隠しパラメーターを削りきり、不可視の急所『核心』を突くことでクリティカルヒットが変化すると云われております。


 意志力を削りきるとは、つまり敵の心身を支える魂の強さを削りきること。


 ゆえに、必ず殺す技。


 コレが考察班の間での通説です。


 例えばパリィが、意志力を削るのに最も効果的なアクションと考えられておりますね。


 攻防一体のいなしによって、敵の体幹もろとも意志を削ぐというわけです。


 とはいえ敵によって意志力の強さはピンキリ。名のある強敵の魂を折ろうというのなら、パリィでも数十回以上は成功させなければいけないようです。


 それでも見事成功したならば、敵が意志力を取り戻す前にクリティカルヒットを突き込みましょう。


 このゲームにおけるクリティカルヒットの発生条件とは、『核心へ理想的な一撃を与える』こと。


 核心は不可視の急所ではありますが、敵をよく“視る”ことこそが極意にございます。


 例えば、餓鬼(ゾンビ)の急所はどこでしょう?


 例えば、姑獲鳥(ハーピー)が自分より大切にしているモノは何でしょう?


 例えば、(ドラゴン)はどうして逆鱗に触れられると怒り狂うのでしょう?


 特殊モーション……霊気や妖気がより強く発せられる部位……背負った業……、


 敵には必ず、“視る”べき核心がございます。


 フェイタルヒットへ挑まれる皆様。“見えない”ことに魂折れず、どうか皆様だけに“視える”ゲーム脳と直感を信じてみてくださいませ。


 それでこそ可能になる不可能もあるのかもしれません。


 なにしろまだ誰も、このゲームにおける最強格の敵……4体の逢魔を倒せずにいるのでございますから』


  続く

 ーー 稀人 ーー

 ーー 異界より喚ばれた者たち。魔への対抗や世の事々の開拓により、日芙を救うことを願われている ーー

 ーー 彼らを喚んだ人間もまた世の救い主として称えられるべきだが、いまだ見出だされてはいないという。あるいは、それは人の業に拠らない御業なのかもしれない ーー

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これで負けたら負けたで面白かったかも笑
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