9-6「黄金の護り」
「しっっ!」
地に叩きつけられたシールドバッシュの硬直により、隠鬼の姿勢が低くなったのでハナは大ジャンプ。彼女の背中を越えながらうなじへ空中回転斬りを見舞った。
「おんす!」
(当然のように防ぐわよね!)
素直に狙える見込みは低かったものの、やはり盾が滑り込んできた。
シールドバッシュへ2枚の盾を振り分けておきながら、あと1枚の盾をほぼ真逆の背中側へ振り分けるという芸当である。やはり蛇ダマが柔軟すぎた。
ただ、斬りつけてやった盾はいとも容易くパッカンと割れたのだ。
(やわかっ?)
『金』は鉱物の中では非常に柔らかく加工しやすいと聞いたことがある、それにしても湿気った木板を叩き割るぐらいの手応えだった。
しかしその脆さの一方。左腕の蛇頭口内にジパング砂金がまた溢れ出し、約1秒で盾を再生成させた。
(はやっ! お金の力で盾をいくらでも、ってこと!?)
……そしてさらに、ハナの目は1つの“嫌な予感”を捉えていた。
割れた盾はジパング砂金へとほどけ、地面の一所へと落ちていた……、
それは当たり前といえば当たり前の光景だったが、
先ほどのジパング散弾もまた、地面に落ちたまま消えていなかったのである。
(まだ残ってる……?)
外れた飛び道具や破壊されたフィールドの破片が地面に残る、なんていうのはゲーム演出上珍しいことではない。しかし目障りにならない程度の秒数ののち、さりげなく消えていくのが常なのだが。
事実、けっこう投げられてきた瘡瘍クナイはもうどこにも無いというのに。
その差異に、何か意味はあるのか。
「裏当て……!」
隠鬼の背後へ着地していった刹那の中で、考えを巡らせられたのはそこまで。ハナは振り向きざまの斬り払いを隠鬼の尻へ送った。
「弾きっ殺しぃ!!」
(パリィ……!)
ーー 弾殺(Parry) ーー
対して、彼女も振り向きざまにぶつけてきたのは盾裏拳のパリィだった。
(やってきてもおかしくないって思ってたけど!)
ハナの戦法を学習された千方火最終形態戦でも、土壇場はパリィ合戦だったほどだ。自称護りの鬼が使ってこない道理は無い。
しかし、あの千方火を超えた身として学んだ事もある。
「御免!!」
「いーえ!!」
ーー 弾殺(Parry) ーー
相手のパリィで大硬直してしまったら、攻撃はもとより回避行動だっておよそ間に合わない……が、相手の反撃をさらにパリィすることはできる。
金棒風魔手裏剣の斬り払いを、ハナはリンボーよりのけぞりながら全身でパリィした。
(ああ……これよ、こういうの)
その煉獄じみた死中のチャンバラリズムが……フレーム回避では味わえない刃の打ち鳴りが、ハナにはやはり楽しい。
「どーぞ!!」
「おんすっ……せいせいせいせいっやぁぁぁぁ!」
ーー 受流(Through) ーー
ハナの斬り上げ反撃を小判盾でさらに受け流してみせてから、隠鬼は溜め込んだ金棒風魔手裏剣で剣舞を発した。
手裏剣の一般的なイメージに沿った『投擲』ではなく、あくまでも『斬撃』だ。
刀身そして隠鬼自身の回転を伴う、遠心力を味方につけた連撃だった。
蛇ダマの拡張も無く幼女の片腕で握るばかりながら。金棒忍刀よりも如実に、腕で“振る”のではなく手のスナップで“翻す”ことで己を独楽の軸にしていた。
そして幼女の体躯ゆえにこそ。時に刃を地面へバウンドさせ、まるで土中から飛び出してくるかのような急襲を差し込んでいた。
(忍者形態よりも激しいわね……!)
ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー
1振りの中に刃が4枚あることにも怯んではいけない。見抜いてやればモーションのベースは金棒忍刀と同じであり、あの二刀流より連撃間隔が狭まった苛烈さにパリィタイミングを調整しなおした。
「ごっっ……ざぁぁぁぁう!」
(やればできるじゃん!)
蛇ダマの脚ではなくなったことで隠鬼は忍者回避しなくなっていた、機動力は格段に落ちていた……。その反面、大物武器と3枚盾に集約されたダイナミックさが彼女を攻撃的にシフトさせていた。
それが、ハナには喜ばしかった。
ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 受流(Through) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 受流(Through) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 受流(Through) ーー
手裏剣撃、シールドバッシュ、《銭投げ》。
一撃ごとに遠ざけられそうになるのを、刃どころか深沓のヒールまで火花を散らすほど食い下がった。
「っっっっふ!」
コンボの間隙を掴み取り、前へと切り返して三文字斬り。
「もう、通らないですぞ!!」
「ぅっ……!!」
ーー 受流(Through) ーー ーー 受流(Through) ーー ーー 受流(Through) ーー
ついに3枚の盾を破った……が、その先の隠鬼本人へは至れなかった。
簡単な計算である。忍者形態での金棒忍刀二刀流は2回までの受け流しが可能だった……、
そして今、3枚の盾は3回まで受け流しが可能だったのだ。
三文字斬りでは隠鬼本人まで至れなかった。
「やっっっっ!」
「ちっ!」
またも1秒で盾を再生成していきながら、隠鬼の2連バウンド斬り。彼女へぶつかるようにして無様に転がり避けたハナは、面頬の鼻先にまで風圧を感じた。
(三文字斬りじゃ届かない……あと1刀足りない!)
あと1刀。攻防のさなか、ハナに与えられた秒数の中で……隠鬼のターンへ返してしまう前に彼女を斬るには、トリプルスラッシュでは足りなかった……。
【風魔手裏剣】
座布団ほども巨大な手裏剣。『手裏剣』といえばの十字型『風車手裏剣』が拡大解釈され、忍者一派『風魔』の語感の良さを充てられたもの。
“手”の“裏”の“剣”と書いて“手裏剣”。手中に隠して敵を突く暗器がいつの間にか投擲武器となり、挙げ句は巨大化した。闇の世界の産物ほど、光ある者の好奇心を惹くものだ。




