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9-5「抜け、殻、破りて」

(だっ、脱皮した……!?)


 そう、それは“生えた”というよりも“生まれた”……新生なる脱皮の様だったといえようか。

 縄脱けの術のようにあらゆる関節を外し。あの蛇ダマの手足も、どう見ても体積を超えているのに引きずり出しながら……。

 コアが砕けた隠鬼の“抜け殻”が、あの分身たちと同じように霞へと失せてしまった。


「おんひぃぃっ……《空蝉(うつせみ)》使っちゃったでござう! 死んじゃうところでしたぞ、ていうか1回死んじゃったですぞ!」


 空の蝉の抜け殻から生まれて、隠鬼がひぃひぃと押さえた胸には無傷の曼陀羅コアがあった。

 ソレの無事を確かめてようやく、ハッと泣きべそを拭った。


「おふん……! 拙者は忍び! 耐え、忍ぶ者にござう!」


 咳払いとともにハナへ向き直り、女児アニメのバトルヒロインよろしくポージング。


「でも流石ですぞ稀人どの! もはや忍びない形勢なれば、拙者は“義”を以て応えるでござう!」


 すると、幼女の頭身を拡張していた凝固祟来無の蛇ダマ手足に変化があった。

 右腕と両脚の合計3束が解かれ、元々の蕗下族らしい姿へと隠鬼を下ろした。


「忍、抜ければ賊となりて……」


 ……ただし左腕の蛇ダマだけは外れておらず、

 それどころかパージされた3束の蛇ダマが左腕に這い上がっていった。


「殻、抜ければ生まれ変わりて……」


 連結、統合、膨張、

 そして分裂。

 幼女の体躯にはアンバランスすぎる巨大左腕が、三ツ又に分かれた。


「蛇の道は、義によりて」


 蛇ダマで編まれた、巨大蛇頭が3つ。

 巻き込まれていた金棒忍刀1対を宙へ放り上げるとともに、開かれた大口へ黄金が湧き出た。

 それは砂金だった。


Zi(ジパング)?)


 ゲーム内通貨のジパング砂金である。

 それは溢れそうになった先から霊気を発し、1つの形へと精錬されていった。

 小判型の中盾と成り、3つの蛇頭それぞれに咥えられたのだ。


「盾……!」


 日本の戦史において、(つわもの)が『盾』を持つことは稀だった。

 鋳物の剣を振るっていたような太古の時代ならいざ知らず。戦の主力がリーチ重視の弓や槍へシフトした頃には、両手持ち武器の邪魔となる『持盾(もちたて)(シールド)』は軽視されていったからである。

 むしろ矢や鉄砲玉を防ぐ為に敷設された『置盾(おきたて)(バリケード)』だけが、大型化や多機能化などの発展を遂げた程度。

 翻って。こういう和風世界のゲームで、武装としての『盾』はえてして玄人向けの概念になりがちだ。

 そして盾を提げた敵もまた、往々にして難敵なのだ。

 だから。ハナは、ワクワクしていた。


「義賊隠鬼、見参!」


 ーー 『殻、破りし義賊 隠鬼』(四鬼) ーー

 ーー 職業 義賊 ーー


 放り上げられていた得物が隠鬼の目前に突き刺さったが、小さな右手が拾い上げたソレはもはや1対2振りの金棒忍刀ではなかった。

 元々1振りだったのがからくり仕掛けで1対に分離したのと似て、空中にてさらに分離して2対4振りへ……、

 そして、既に合体していたのだ。

 傾いだ十字型に連結された、巨大手裏剣に。

 四方それぞれへ向いた刃を、中心で交差した柄で持って御す……、

 西方でいうところのチャクラム、

 いわゆる風魔手裏剣である。


「拙者は平和を乱す悪には負けないですぞ! 春隠の地は、拙者が護るでござう!!」


 小判盾をフロントに……金棒風魔手裏剣をバックに、あくまでも『攻め』より『護り』の構え方を見せた鬼幼女。


「わあ! 義賊ってかナイトじゃんっ、面白そうなんだけど……!」


 今まさに相対するは、風魔手裏剣という変わり剣に黄金の盾を合わせた“騎士(ナイト)”だった。

 霊気の強制拘束が解かれたハナは、体に力が入るやいなや爛々と構え直した。

 対して隠鬼は《空蝉(変わり身の術)》の効果だろうか、霊気の残光が彼女を回復させた。

 幼女本体や蛇ダマのダメージはもちろんのこと、コアを護っていた瘡瘍瘡蓋まで完全な状態へ再形成されたのだ。

 ただし、“隠形”発揮のたびに発光していた四本角が弱々しく明滅するようになっていた……。


「それじゃ、今度の今度こそ死んでもらうわよ!!」

「今度はこっちからいくでござう!!」


 何よりも、“背伸び”をやめた幼女の面構えには鬼気迫るものが増していた。

 ハナは再び反応速度重視の下段構え。対する隠鬼は3枚の盾で地を殴り、跳び上がっての空襲を仕掛けてきたのだ。


「《銭投げ》!」

(まっっ、た、いきなりそういう……!)


 空中で3枚の盾が振り抜かれれば、その表面からなんとジパング砂金の散弾が放たれた。

 放散範囲がごく狭く、1つ1つは小粒ながら文字通りの弾幕だ。


(見えない見えない!)


 いや、無数のランダム弾道を1つ残らず“視て”はいたのだが。それが仇となり1つ残らず刺線が貫いてきたため、刀刃のシャワーに視界が塞がれてしまい“見て”いられなかった。

 そしてさしものハナでも、見抜けたところで散弾を打ち返すのはほぼ不可能だ。


(これは回避一択……!)


 サイドステップ。千方火龍を下した0フレームパリィでも切り抜けられないだろうし、それこそタンクがガードしても強靭度を一瞬でひっぺがされるのではないだろうか。


(ってことはここで……ッ)

「ごっざうッ!」

(そうよねっ、ディレイ(遅延)で狩ってくる!)


 ーー 弾殺(Parry) ーー


 コンボを見抜け。隠鬼は銭投げからリズミカルに斬り下ろしてくるかと見せかけ、空中回転で数瞬滞空してからシールドバッシュ×2を追尾させてきた。

 明らかに、銭投げが回避されるのを計算に入れたモーションだった……。

 ーー “隠形” ーー

 ーー 隠鬼の異能。姿を消す《隠身》、分身を生む《分身》、死する己に身代わりを立てる《空蝉》などがある ーー

 ーー 義賊を夢見た蕗葉忍者の女は、捨てきれなかったその子供心ゆえに幼き忍たちから追われた。汚泥にまみれ、木の根を食らい、岩の下を棺とし、そして地獄で目覚めた彼女は『土』の霊気に護られていた ーー

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― 新着の感想 ―
[一言] この脱皮には色んな意味が含まれてそうだな(フロム脳) 蛇としての脱皮、似合わないガワの排除、人間的な成長…
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