9-4「わかられ」
「もっと分身増やしてもいいんだけど!」
「おんあっ「ああ!?」
ーー 受流(Through) ーー ーー 受流(Through) ーー
残る1体の分身を難なく撃破し、翻って本物の隠鬼へ。
「なんなら……分身しながら消えてもいいんだけど!」
「おんわわわわわ!?」
受け流しを2回してくれれば確定で1発入れられるともう分かっているのだが、度重なるダメージで思考ルーチンが変わったか隠鬼は回避に偏りはじめた。
「ほらほら隠鬼ぃー! 殺し合いましょ!!」
「おんあぁぁぁぁ《隠身》ぃ!」
鬼を鬼ごっこ。跳ね回りながら《隠身》で消えた隠鬼は、叩こうとした羽虫が捉えられなくなるように発見困難だった……、
「だから見えてるんだけど!」
「ぴぎゃ!?」
とはいえハナは蝿だって逃がしたことが無い。不意打ちしてくる前に透明な胸元を先制攻撃してやれば、ぶっ飛ばされながら姿を現した。
「かかか《隠身》……!」
蛇ダマの手足が滅茶苦茶に絡まりながらまた消えていったが、
「やっ、やっぱり《分身》っ「《分身》「《分身》「でござううう!」
すぐにまた現れ、逃げ回る軌跡から剥がれ落ちるように分身たちが生まれていった。
(なあんだ。この様子だと、違う技は重ねられないみたいなんだけど)
「ご「ざ「う「瞬殺でござうかーー!?」
ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー 連携もとれずに1体ずつの波状攻撃なんかぶつけてきたから、その都度パリィ&トリプルスラッシュで各個撃破してやった。
「さってと。とりあえず、手の内は出尽くしたカンジっ!?」
「ふぇぇぇぇ! なんでこの人無傷なのでござうーーーー!」
“忍者”のことだ、事ここに至っても嘘泣きやら隠し球やらと生き汚いのではと勘繰ったものの。刺線で伝わる限り、隠鬼は本当に泣き喚いていた。
(千方火はあたしが凌げば凌ぐほど鋭くなっていったけど、AIの『判断力』にも個性があるみたいね)
プレイヤーの対策に応じてギミックを発動させたシャクシャク、一心に攻めるばかりだった莢心、……そして開戦前の勇ましさはどこへやら泣きじゃくる隠鬼。
だが、ハナは興が醒めることなくむしろワクワクしていた。
「じゃあっ……スキップさせてもらうけど!」
ハナは敢えて斜め後方に跳び退いた。
何故ならば。隠鬼のアクロバット回避のパターンすらももはや覚えきっていたから……、
「ハァイ」
「おにゃ……」
そこに跳べば、隠鬼のほうから目の前に降ってくると見抜いていたから。
「…………ざぁこ♡」
「おんぎゃあぁぁぁぁ!?」
この子は、“わからされる”と弱いタイプらしい。
ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 受流(Through) ーー ーー 受流(Through) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 受流(Through) ーー ーー 受流(Through) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 受流(Through) ーー ーー 受流(Through) ーー ーー 受流(Through) ーー ーー 受流(Through) ーー……
《分身》《分身》《隠身》《分身》《隠身》《隠身》《分身》《分身》《分身》《隠身》《分身》《分身》《隠身》《分身》……、
数えきれないほどの刃の残響、差し込まれては無駄になっていった《隠身》と《分身》。
その刹那ごとに、ハナは隠鬼の胸の瘡瘍瘡蓋へ一刀を捩じ込んでいった。
……隠鬼はハナの無傷に戦慄していたが、彼女も似たような状態ではあった。
ハナは開戦から一貫して、ひどく硬い瘡瘍瘡蓋しか攻めていなかったからだ。
さながら干からびた胸当てのようなソレをいくら傷つけようとも、幼女本体へ貫通しているのかは微妙なところだった。
モノのついでに蛇ダマの手足を掠め斬っても、負傷と呼べるほどではなさそうだった。
しかし、それでも、
「おん……ぁ……ッ」
ついに何十回目かのパリィ成功とともに、膝をついた隠鬼の胸に霊気が漏れ出た。
音波を絶えず畳み掛けたコップが共振しすぎて割れるように、パリィの響鳴とともに瘡瘍瘡蓋が砕け散っていったのだ。
むべなるかな。隠鬼の“意志力”は、崩した心身とともに削りきられてしまった様子だった。
隠鬼の胸の奥から、あの曼陀羅風のコアが息苦しそうに迫り出した……、
「しッッッッ!!」
「ぁぁッッ……!?」
そこに刺線の大花が咲いた刹那。飛びかかったハナは、自重を乗せた一突きにて貫いていた。
瘡瘍瘡蓋や蛇ダマの肉厚さからすれば、ほとんど抵抗感無く幼女の背中まで突き抜けた。
ーー 致命(Fatal Hit) ーー
「……ねえ」
楔となった刀を支えに。風来姫は、寄りかかった幼女本体の耳元へ囁きかける。
「どうせ第2形態があるんでしょ」
そして。膝を当てた反動で宙返り、刀を抜き去るとともに隠鬼の背中側へ離脱した。
「ござうッッッッ……!!」
そうして着地した瞬間のことだった、
隠鬼のコアが刀傷からヒビ割れていき、莫大な霊気とともに砕け散ったのは。
「あれ!? 割れちゃったけどっ……わ、ッと!」
ひょっとして第2形態なんか無くてもう倒してしまったか……と惜しんだのも束の間、ハナは霊気の衝撃波で強制的に押し飛ばされていた。
(ううん、この感じ……!)
かなりの距離を開けさせられ、意志に反して膝を付きそうになった脚に活を入れる。
(やっぱり来たわね!)
高濃度の霊気が全身に纏われ、自分の体ではなくなったかのように身動きが取れなかったのだ。
それは千方火戦の時にもあった“演出”だった。
すなわち、“フェーズチェンジ”が為の強制イベントシーンである。
一方、隠鬼は糸が切れたような前のめりに倒れていった……、
「っっっっぷはゃぁ!!」
その背中を割り、新しい隠鬼が生えた……。
ーー 忍者(職業) ーー
ーー 忍刀を武器とする護り手。相手を翻弄する技の数々で敵視に耐え忍び、抜群の回避能力で生き残る。また状態異常系の道具が強化される ーー
ーー 隠鬼は扶桑国に忍道をもたらしたが、彼女自身は状態異常を扱うを忌避した。蕗葉の里のくノ一はあらゆる状態異常に強く、そうなるよう含まされてきた花たちに似て短く咲き誇る。




