表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/254

9-3「隠形」

(ユニークスキルね! それよ、そういうの!)


 飛び道具返しや対二刀流なんて他でもできる。彼女だけのトンデモ技で殺しにきてもらわなくては。


(歩行エフェクト無し、足音無し、影無し)


 隠鬼の姿は“見る”限り消失していた。


(“消える敵”には2種類ある。本当にオブジェクトキャラを消失させてから再配置する『ワープ』系と……)


 ハナはその場から1歩も動かず、我が身とともに刃を澄ました。

 なぜなら、

 ハナを軸に、天地をアクロバットし続ける刺線をずっと“視て”いたからだ。

 ……刃元の“ソレ”は……目に偶さか映っても、並の動体視力を嘲笑うように跳ねて死角へ消えていた。

 だから。人並み外れたハナの目は、1度映してからずっと“視て”いた。

 刃元の空間が、無色透明の人型に揺らぐのを。


(隠れて動く『ステルス』系ッ!)

「な、んとぉ!?」


 ーー 弾殺(Parry) ーー 刺線が急速に縮まってきた……姿を現した隠鬼が首刈りを放ってきた刹那、ハナはパリィ&トリプルスラッシュ。


「見切られたでござう……!?」

「カンペキには消えられないみたいねっ!」


 要するに光学迷彩ギミック。“動くと揺らぐ”仕様も『デーモンゴアソリッド』シリーズで馴染みのもの、ハナのゲーム脳(経験則)に揺らぎは無かったのだった。


「まだですぞ!」


 ノックバックした隠鬼がまたも結んだ印は、先ほととは違う組み方であるとハナは見抜いた。

 四本角が再び発光、

 すると、消えてもいないのに彼女の姿が揺らいで……、


「「「「おんほほほ!」」」」

(分身!?)


 4体に分身し、次々と回転斬りを繰り出してきたのだ。

 あの隠鬼祟来無のような影法師ではなく、風貌も金棒忍刀の振り方も彼女そのものに見えた。


 ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー


「ッう……!」


 さすがに1体ごとにトリプルスラッシュする余裕は無く、パリィだけに留まりローリング回避。


「拙者の「術中で「ござうな「稀人どの!」


 4体はハナの周囲をグルグル走りだした。……無駄なアクロバットを交えながら。


「“隠形”は《隠身(かくれみ)》のみにあらず! この《分身(わけみ)》の中から本物の拙者を見つけられるでござうか!?」

「…………」


 4本の刺線に貫かれたメリーゴーラウンド状態にて、ハナは手中の刀をクルクルと回した。

 根菜を畝ごと引っこ抜いたような……土中に照る忍刀の刺線刀刃。

 &、

 根菜を畝ごと引っこ抜いたような……土中に曇る忍刀の刺線刀刃。


「ふんっっ!」

「めぃぃぃぃ!?」「「「ぃ!!」」」


 ハナが偏差投擲した刀が1体の隠鬼にぶち当たると、4体とも同時に怯んだ。


「あんたが本物ね!」

「なっっ、なんで1発で見つけられたでござうーー!?」


 それは刺線が教えてくれたから……、

 ではなく、それ以前の事だった。


「分身の服が“左前”になってんのよっ、見たら分かるでしょうが!」

「ええええ1発でそこまで見ないですぞ普通ーーーー!?」

(いや見るでしょうが……目に入ったら“視る”でしょ?)


 周囲をメリーゴーラウンド走行していた4人を帷子の襟合わせまで捉え、分身たちは鏡像よろしく“左右反転”していると見破ったのだ。

 剣道に柔道に合気道で道着、茶道に華道に薙刀道で着物。……それくらい嗜んでいれば、死に装束の前合わせ(左前の違和感)くらい即座に“視える”だろう。やたら驚かれてハナは不思議だった。


「仕組みさえ分かれば、後は合わせるだけよ!」

「否っ「やらせ「ないで「ござう!」


 天空から返ってきた刀をキャッチ。本物の隠鬼めがけて駆け込んでいけば、分身たちとともに四方から包囲網を狭めてきた。

 サラウンドに重なり鳴る、剣戟と火花。


「はいっ「はいっ「は……いっ「はぃぁ!」


 金棒忍刀1対揃えて……蛇ダマ脚を溜めて、ダブル斬り下ろしからの後ろ回し蹴り。×4。


(ディレイっ、連携っ……! 祟来無とはキレが段違いなんだけど!)


 ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー


 機敏な機動に掛けられるディレイ(遅延)攻撃、それに人数差を活かした畳み掛け。幾度心乱されてもおかしくない乱闘だった……が、


(……いいね! シャクシャク戦を思い出すんだけど!)


 あのシャクシャク戦の追憶のおかげでハナは活きていた。


「せいっ「せいっ「せぇいっ「せ……ぃぁ!」


 二連突きからの水面蹴り。×4。


(分身は同じ攻撃しか出せないっぽい……本体は初撃確定……?)


 ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー


 死にかけながら、視ていく。


「はいっ「はいっ「はぃいっ「はぁっ!」


 再びのダブル斬り下ろしからの後ろ回し蹴り。×4。


(うん、本体は初撃確定みたい……3撃目と4撃目でタイミング派生アリ……)


 ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー


 死にかけながら、詰めていく。


「せいっ「せいっ「せ……ぁば!?「せぃぃ!?」


 再びの二連突きからの水面蹴り……は、成功したのは2体目までだった。


「スキありッッッッ!!」


 死にかけながら、超えていく。


 ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー

 ーー 受流(Through) ーー ーー 受流(Through) ーー ーー 受流(Through) ーー ーー 受流(Through) ーー


 3体目のディレイそのものへ割り込んだハナは、一瞬のうちにトリプルスラッシュ×2……擬似6連(セクスタプル)斬りにて、3体目&4体目を攻撃前に噛み潰した。

 3体目はディレイの溜めそのものが付け入る隙だったし、彼女からの連携が続くのを前提に4体目がもうハナの間合いへ踏み込んでいたのも狙い目だった。


「「ぉ、ん……」」


 強靭度が高いボスなら斬っても止まらない恐れがあったが、瘡瘍クナイでも怯んでいた相手だ……はたして分身2体はぶっ飛び、霊気の霞へと失せていった。

 三文字斬り、最速ベスト更新。


「ほらっ、もっとあたしを殺しにきてよ!!」

「ひっ「ぇぇ……!?」


 それもこれも。隠鬼が分身なんて“数の暴力”でハナを殺しにきて“くれた”おかげで、ハナの()が加速度的に冴えていったからだ。

 きっと隠鬼にとって不幸なのは、ハナがあのシャクシャク戦を超えてここにいるという事だった。


(シャクシャクっ……じゃなくてせいらだっけ! 特効武器なんかより、あんたと祟来無たちを超えた経験のほうが力になるわ!!)


 死にゲーでは、経験こそが宝刀より強いのだ。

 そして経験から生まれた“超える意志”が、シセン少女を闘いの中で強くしていくのだ……。

 【左前】

 和服の前合わせにおいて、左の生地が前にくるようにする事。通常の右前の作法に対して、死装束の着せかたへ用いられる。

 生者の作法を反転させて魔除けとなす。神仏に近づいた死者たちが魔に呑まれないようにするまじないである。人はいつからそれを、縁起が悪い作法とただ忌むようになったのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ