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8-10「いらなくても」

「とにかくありがと。ありがたく貰っておくわ、使うことはないけど」

「……使いもしないのであれば……ここに来た意味が無いと思いまする……」

「なんで? こうして珍しい刀をコレクション(収集)できたし、特殊イベント(あんたと莢心様の再会)も見れたじゃん」


 莢心は言った、『ジャクジャクに勝てないと思ったら八尺堂で相応符を使ってみろ』と。

 つまり裏を返せば……、


「何かが起こるって知ってるのに、無視したままなんて気持ち悪いでしょ。だからわざわざ寄り道してきたの」


 これからハナがジャクジャクをぶっ倒してしまえば、この八尺堂のイベントも消滅してしまうかもしれないではないか。


『するってぇとおまえ……ジャクジャクへの勝ち方が欲しかったんじゃなくて、ただ興味本位でここに来たのかぁ?』

「うん、特効武器も攻略情報もいらないいらない。わざわざそんなの持たされなくても、闘いながら超えてくわ」


 ハナは心底から屈託無く、かんらかんらと笑った……、


「……背中の桜樹の真下……卵胞が急所でする……」

「は?」


 と。胎の傷が塞がっていったせいらが、湿った笑みでハナを見上げた。


「ちょっと……いらないって言ったでしょうが。なに聞かせちゃってくれてんのよ、嫌がらせ?」

「まさに……」


 立ち上がった彼女は魔物バージョンほどではなくとも長身で、間近で話してしまうと妙な圧迫感を覚えるほどに見下ろされて。


「拙僧が千方様やあなたへ便宜を図るのは……ひとえに、お館様へ拙僧の愛を享受してもらうが為……。それを『いらない』と言われてしまっては……あなたを嫌がらせてでも受け入れてもらうほか……ありません……」

「なによ、もっかいハラん中ぶちまけてみる?」

『おいおいおいおいっ、やめろぃおまえら! せいらがよぉく貢献してくれてるのは俺も感じてるってぇの! なっ、なっ……』

「ただ……」


 莢心の仲裁をすり抜け、せいらはハナへさらに一歩分の距離を詰めて。


「……拙僧の愛を『いらない』と断じ続けるあなたに……少ぉしだけ、興味が湧きました……」

「はあ?」


 伏し目が、薄目程度には開かれてハナを覗いた。


「『いらない』と断じ続けるあなたには……。されど拙僧に似て……何かを(いだ)かずにはいられない、(やまい)のような愛が見えまするゆえ……」


 ……ハナは、半歩だけ後ずさっていた。


「……。……なぁにワケ分かんないこと言ってんのよ! 一緒にすな!」


 本当に、昨今のハイエンドAIというものは柔軟に対話ができるものだ。ハナは押し退けようとしたがせいらは自ずからヌルリと下がった。


「それに……今のあの子は……隠鬼は……拙僧よりよほど強くなっておりまする……。なれば拙僧が棄てた肉体ごとき……使えるものは使い、突けるものは突き、早々に下してしまうのが得策かと存じまする……」

「ふん、そういう匂わせもネタバレになるって分かんないかな。ま、聞いちゃったからにはせいぜい楽しませてもらうけど」


 もちろん本命は隠鬼に他ならないが、大蛇との闘いだって前座に貶めるつもりはない。ハナは肩をすくめた。


「行きましょ千方。遅刻してる分を取り戻さないと」

「承諾。莢心、この事は我から久藻へ話すつもりはないので安心してください。彼女から要求されない限りは」

『この事ってどの事だ? まぁいいや、戻んならもっかい相応符を使いな。せいらもあばよっ、今度また久藻も連れて来らぁ!』

「ポ、ポ……ええ、ええ……どれだけの()(くう)に隔たれていても拙僧とお館様の心は1つ……久藻ちゃんはどうでもいいですが……いつまでもお待ちしておりまする……」


 相応符を再び手に取ると莢心の分霊は消えていって。淫らに笑うせいらを尻目に、ハナは元の世界へと戻っていったのだった……。


  ◯ ◯ ◯ ◯


「にっっほんっっめぇぇぇぇ!!」

「コボッ、ゴザギャァァァァ!?」

「効いてるぞ効いてるぞ!」


 そんな寄り道を経て、今。ハナとイチはジャクジャクの背で2本目の桜樹を斬り倒すと同時、切り株が消え去らないうちから2つ目の卵胞を抉り抜いていた。


「ゴジャウャァァァァ!」

「来てるぞ来てるぞ!」

「見・た・ら・分・か・る!」


 蛇の体というのは便利なもので。ジャクジャクは己の背中へ鎌首を乗っけると、蜷局(とぐろ)を巻く調子で2人を追跡してきていた。


「《隠鬼の盾》!!」

「ボギュッッ」


 ーー 受流(Through) ーー


 そうして頭突きや噛みつきが襲ってくるたびに、翻した大太刀で受け流していたのはイチだった。


 ーー 《隠鬼の盾》(武器技) ーー

 ーー 5秒間、防御へ瞬間的な無敵効果を付与する ーー


 彼が武器技を奮った隠鬼シリーズの大太刀ヤヨイは、効果発動のたびに蛇腹状の装甲を一瞬展開してまさしく盾と化していた。


「やるじゃん! ま、あんたがいなくてもあたしの刀でノックバックさせられるけど!」

「いるからには寄生せず働くさ!」


 憎まれ口は叩いてみせたが、少なくともイチが殿(しんがり)を務めてくれているおかげでハナも足を止めずにいられた。

 止まらなくていいというのは、ただそれだけで楽しかった。


「ところでコイツのカラダの元の持ち主って……! やっぱり瑞獣せいらなのか!? 『病』を司る第四聖女『ウィドウ』、青ざめた蛇のセイラか……!」

「後半何言ってんのか分かんないけどそうよ! 八尺堂の女!」

「ああ……よく知っていますねイチ。ハナはその辺りの事々を語らせてくれないので、興味があるなら我が詳しく説いて聞かせましょうか」

「あんたも乗っかんな!」

「興味はあるがっ、彼女が止まるまでは遠慮させてもらうよ……!」


 千方火から生まれかけた頭を柄頭で押し返して、ハナとイチは次の桜樹へ駆け込んでいった。


「ゴザ、ッ、コポシャッ、ジャゥァッ、ゴザゥルルルルゥゥ!!」


 ジャクジャクの悶絶ぶりも相当なもので、背の道がのたくることのたくること。

 されど滑落無効のハナは、逆に自ら滑るようにして蛇鱗をサーフィンしていき。一方でいつ滑落してもおかしくないイチも有言実行の根性論、パドル代わりの大太刀で切り返しながら付いてきた。


「「せーのっっ!!」」


 そうしていよいよ3本目ともなると阿吽の呼吸、どちらから言い出すでもなく得物を桜樹へ振り抜いた。


「ゴザッッ……ウッッッッ……!」


 ただ。順応したのはジャクジャクもまた同じらしかった。

 鎌首を引き絞った大蛇の両目に、青い霊気が加速度的に溜められていったのだ……。

 【特効武器】

 特定対象へのみ発動する効果を備えた武器。概して普段使いには微妙な基本性能ながら、特定対象へは最強の攻撃力倍率補正が掛かる。

 ソーシャルゲームでは忌まわしき文化の1つ。開催中のイベントで無双できる特効武器によりガチャを回させ、一月もしないうちにイベントが切り替わると産廃武器の仲間入り。そのサイクルにいつしか、皆、なれ合う。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公ちゃんってソロの死にゲーやる時も特攻武器は使わずに攻略するタイプなんです?
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