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8-8「八尺夢幻」

「トン!!」

「トン!!」

「トントン!!」

「トントン!!」

「トントントントン!!」

「トントントントン!!」

「トントントントントントントントン……!!」

「トントントントントントントントン……!!」


 ハナは愚直なまでのスイング連打を、イチは回転斬りスキル《夜鷹回し》を。加速度的に加速していき……、


「倒れるよー!!」


 さすがゲームの世界、打刀と大太刀で大樹を斬り倒してやった。

 するとどうだろう。斬り出された幹も残された切り株も、霊気として消滅していって。


「ここ!!」


 ハナは刃へ己の自重を乗せ、大樹の根元に現れたモノを突いた。

 大蛇ジャクジャクの体内からぷっくりと満ち溢れた、巨大祟来無状の卵胞を。


「ギャッッッッ……ゴポボボボボボァァァァァァァァ!?」


 たちまち、ジャクジャクはスタンから目覚めて絶叫を上げたのだ。


「情報通り! ほらほらほらほらほらぁッッ、っ、ととと!」

「ァァッッ、ァ、ァ、ァァァァゴシャザザジャジャァ!」


 突き刺したまま抉りに抉れば、噴き上がったダメージエフェクトと大蛇の悶絶。振り落とされそうになったが、大太刀をバランサー代わりに引きずったイチに助けられた。


「なんだ情報通りって!?」

「蛇の道は蛇ってね!」


 そうしてハナが次の大樹を指差せば、イチは手を引いてエスコートしてくれて。


「コイツのカラダの、元の持ち主に聞いてきたの!」


 そもそも。他より遅刻して参戦した風来姫は……しかしその実、他よりも“先手”を取っていたのだ……。


 ◯ ◯ ◯ ◯


 ーー 八尺堂 ーー


 ハナがレイドバトルへ参戦する少し前。

 四途の川(次元の狭間)の星霊殿から開かれた転移門は、毒沼に沈んだ尼寺の直上へ渦巻いた。

 本堂内で首無し女の隠し像と記念写真を撮っていた稀人たちは、ギョッとしたものである。


「どいてー。食べちゃうよー」

「「「「「「「「ひぎゃぁぁぁぁ!?」」」」」」」」


 巨大転移門より、からくり龍の戦乙女がズズズズドドドと生えてきたものだから。皆、轢かれないうちに逃げていったのだった。


「ていうかこんな空飛ぶ乗り物あったら、初見エリアの道中とかもぶっ飛ばし放題じゃん。まあここはクリア済みだからありがたくスキップさせてもら……う、けお!?」


 ーー 龍脈 偏重:妖 ーー

 ーー 鎧袖輪回 使用不可 ーー


 ジェットコースターの先頭座席気分を味わっていたハナは、ウキウキしていたのも束の間……変形解除で消えていった使天龍・ソィクニァノチカャチから落ちた。


「ごべええええ」


 幸か不幸か、着弾点は汚濁の毒沼だったので落下ダメージだけは負わずに済んだ。


「そう簡単にはいかないかと」


 同じように落下していたはずの千方は、墜落直前に千方火へ変じ浮遊していた。


「環境の気の流れ……すなわち龍脈が『霊』と『妖』のいずれかに偏っている状況では、鎧袖輪回は使用不可です。『街中』、『戦闘中』、そしてここのような名のある『だんじょん(魔境)の中』が該当しますね」

「……あくまでもフィールド移動用ってわけね」

「コポポッ……ポギャッ!?」


 身を起こしたハナは、もはや肉眼で見るまでもなく裏拳斬りにて祟来無を屠った。


「それならそれでいいんだけど。ちゃっちゃと寄り道済ませないとね」

「大討滅戦開始からの経過時間を表示しますか?」

「やめて。余計焦るんだけど」


 ーー 『魂源の篭手』(腕装備) ーー

 ーー 『発狂』以外の状態異常を無効化する。ただし装備防御力が極めて低下する ーー

 ーー 猛毒(Toxic) 無効 ーー

 ーー 『初堂の深沓』(脚装備) ーー

 ーー 地形効果(鈍足、滑落など)を無効化する。ただし罠による負傷が極めて増加する ーー

 ーー 鈍足(Slow) 無効 ーー


 『魂源の篭手』で猛毒無効、『初堂の深沓』で鈍足無効。足下の汚濁はもはや赤々と反応するだけで意味を為さず、サクサクとランニング。

 本堂へよじ登り、その内へあっという間に踏み込んだ。


「えー、っと。『相応符』?」


 ーー 『相応符』(貴重品) ーー


 そうしてインベントリ巾着から取り出したるは、莢心から貰い受けた御札だ。

 いわゆる四大属性色に四方を彩られ、循環あるいは拮抗を表すように呪文が印を結んでいる。

 『使用』を念じると、それはハナの手元で『青』の一方を輝かせて……。

 途端、目の前の空間が引き絞られるような感覚に襲われて……、


「っ?」


 パッと視界が弾んだ時には、ハナは本堂と似て非なる場所にいた。


 ーー 八尺堂の夢幻 ーー


 毒沼に腐蝕されきっていたこの廃寺が……、

 ……今しがた建立し終えたかのごとく、美麗な佇まいを広げていたのだ。


「なに、この幻覚みたいな世界は……」


 確かに美麗なれども、幻覚、とハナは一蹴した。

 なにしろ世界は、フィルターでもかけたかのように青い色味に覆われていた。

 そして毒沼が消え失せていた代わりに、尼寺を取り囲む地面には超巨大な大蛇の躯がグルグルと巻かれていたからだ。


「……あら……? またしても……あなたですのね……?」


 そして。四鬼と千方の像が安置された祭壇の前で、祈りを捧げていた者が振り向いた。

 裾がボロボロに裂けてしまった裸足の法衣姿。なれど正座ではなく跪き、握り込んだ手をもう片手で包み込む西方式の祈りを捧げていた女が。


「確かにお館様の気配がしたのですけれど……ああ……恋い焦がれるこの心の臓が見せた錯覚だったのでしょうか……」

「……シャクシャクじゃん。あんた死んでなかったの」


 常に瞼を下ろし、潤んだ唇を薄くすぼめた美貌には全てを受け入れるような母性が漂う。豊満かつ退廃的な尼僧シャクシャクだった。

 ーー 『相応符』(貴重品) ーー

 ーー 蓬莱 莢心の手になる、彼専用の陰陽札。分霊を召喚する『霊符』式。結ばれた4体の瑞獣の力を稀人は行使できないが、莢心に認められた“手形”として開く路もあるだろう ーー

 ーー 試作の『相応符』は瑞獣たちの“手”を喚ぶものだったが、こぞって莢心を奪い合うことしかしなかったので“足”へ変えた。4体とも、“莢心へ足を向けて眠れない”ほど彼に恩義を抱いている ーー


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