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8-7「夜叉武者」

「八つ当たりッッ、させてもらうけど!」

「ゴ」「ザ」「ウッッァッ」


 逆手に持ったままの打刀で首刈りと首突き、左手が空いていたので首折り。あのビチグソ配信女へやってやれなかったことを、アレよりはまだカワイイ粘液幼女たちで憂さ晴らし。

 鎧袖輪廻の絶強化を得ているハナにとっては、隠鬼祟来無たちにどれだけ囲まれようと時間の無駄でしかなかった。

 一方、護り手職『武者』のイチは……、


「《辻風(つじかぜ)渡り》ィッッ!!」

「ゴザザジャ」「ザウブャッ」


 なんと。ハナほどの鬼神ぶりではないにしろ、つむじ風巻き起こる5連擊を滅多打ちして隠鬼祟来無たちを斬り飛ばした。


「『油瓢箪(あぶらひょうたん)』ッ……『火打砥石(ひうちといし)』ッッ、《虚空断ち》ッッッッ!!」

「ザザザ、ッ、ゴウュ……ッ」


 ーー 祟来無・隠 火耐性 低下 ーー

 ーー 『隠鬼の証 ヤヨイ』(大太刀) 火属性 付与 ーー


 隠鬼祟来無へ瓢箪を投げつけて油まみれにし、火を想起させる砥石で大太刀へ火花を擦らせた……とともに飛びかかり斬り。刃から噴き出た火が油も粘液も炎上させ、受け流しもろともゴリゴリに押し通った。

 ハナの目を引いたのは、ぶん回される大太刀の軌跡に追従する線条形霊気たちだ。


「らああああッッッッ!」


 猛る彼と相まって、そう、まるで振り乱される白髪だった。


 ーー 七魂夜叉(Seven Souls) 効果時間 永続 ーー

 ーー 解除可能まで あと106秒 ーー

 ーー 武器攻撃力 上昇(極) ーー

 ーー 敵視獲得力 低下(大) ーー

 ーー 最大生命力 低下(大) ーー

 ーー 装備防御力 低下(大) ーー


「ねえ! なんかタンクにあるまじきステ変動してるけど!?」

「ああ! タンクにあるまじきスタンススキルだからな!」


 スタンススキル。特殊状況を見越し、ステータス変動などでジョブの性質を切り替える業である。


「誰も護らなくていい状況で使う想定みたいだが! 使ったところで器用貧乏なアタッカーにしかなれない、いわゆるハズレスキルってヤツだよ……!」


 護り特化のディフェンダーのステータスへ補正をかけたところで、攻め特化のアタッカーのステータスはけっして超えられない。超えていいわけがない。

 畢竟、そんなスキルを使う時点でそのジョブを使う意味に乏しくなる。

 ロール(役割)が腐る状況になけなしの救いを与えるとはいえ、ロール(役割)の強みを捨てさせる意味合いのほうが強くなってしまう。

 護られるまでもなく前へゆく風来姫と踊る、今この時のように。

 だが、


「それでもッッ、俺はきみを護りたいんだ!! 悪いか!!」

「なぁに言ってんだか!!」


 それでも青年武者は、夜叉のごとく少女を護っていた。


「ステータスじゃキマらない分は、根性でカバーだ!!」

「キメ台詞みたいに言わないで恥ずかしい!!」


 根性もといスキルやアイテムをあらゆる限り動員して……彼は、ハナの脳筋プレイへ(せま)っていた。

 回転斬り、十文字斬り、連擊、平刺突(ひらつき)、二連一文字斬り、一閃、居合……、

 投げ小刀、護符、癇癪玉、鎖鎌、懐中拳銃、仮面、毒こやし、香炉……、

 1つ1つのウィンドウをつぶさに見る間も無かった。


「おおッッッッ……!!」


 有るモノは何でも使う。使えるモノは全て使う。

 たとえソレが些末な効果しか及ぼさなくても、けっして0やマイナスにはさせなかった。

 波紋を連ねるがごとくコンボを繋げ……、そう、彼が“繋ぐ”努力を諦めない限り無駄にはならなかった。

 彼は、ハナとは真逆の色彩を宿す鬼神だった。


「あんたさぁっ、タンクよりアタッカーの方が向いてると思うんだけど!」

「やりたいのはタンクなんだよ!」


 敵の攻撃から味方を護るのみが護り手にあらず……、


「それにっ、こんな戦い方するのはきみと組んでる時だけだっての!」

「なによ皮肉!?」

「あのな! 感謝してるんだよ!」

「やっぱ皮肉っぽいんだけど!」


 ……敵を殺し続ければその分だけ、己も味方も護ることができるのだ。


「「ふうッッッッ!!」」


 攻めて護れ。

 殺られる前に殺れ。

 そこだけは、真逆な2人が共鳴し合う色彩だった。


「よし片付いたっ、この先は!?」

「付いてきたいなら好きにして!」


 そうして隠鬼祟来無たちを全滅せしめた後。イチの背中を叩いてお礼のコトバもそこそこに、ハナはダッシュジャンプしていた。


「起こしてごめんねッッ!!」

「コギュシャッッッッ……ッッ!?」


 今やすっかり見なくなったゲーセンのワニ叩きゲームよろしく、ジャクジャクの鼻っ面へ宙返り斬り。


「ゴザウボッッ」


 またも、大蛇は白目を剥いて戦場にノビた。


 ーー 失神(Stun) ーー


「えっ、ほ、えっ、ほ!」

「おいハナ!? どこ行くんだ!」

「2度は言わないんだけど!」


 再び頭部へ群がっていく他プレイヤーたちの狂乱を尻目に、ハナは大蛇の眉間を登山していった。

 腹や尻尾からではとても登攀(とうはん)できたものではないが、比較的緩やかな傾斜である頭部からなら。やっと、“当初からの狙い”へ侵攻できる。


「ていうかそこ行くのかよ、っととと……!?」

「御愁傷様! あたしはイイおクツがあるから!」


 ーー 『初堂の深沓』(脚装備) ーー

 ーー 地形効果(鈍足、滑落など)を無効化する。ただし罠による負傷が極めて増加する ーー

 ーー 滑落(Slip) 無効 ーー


 腹や尻尾に比べれば比較的緩やかというだけで、イチは盾みたいな鱗の急斜面にスリップしまくっていたが。


「なんっ、の……! 滑落も根性でカバーだ!」

「あはは! やめてよヘンな踊り!」


 断続的に足が滑るモーションを強制される様子だったが、キャラ(キャラクター)コン(コントロール)の腕前次第ではどうにかできるようだ。青年は踊る風船人形よろしく、なおもハナに付いてきた。


「あははは……!」

「そんなに笑うなよ!」

「違うっての! やっと“弱点”を叩けるから嬉しいんだけど!」

「弱点!? アタマじゃなくてか!?」


 確かに尻尾や腹に比べれば頭部の肉質は比較的柔らかいようだったが、それはあくまでも“比較的”の話だ。

 ついに背中へ登りきったハナは頭部からどんどん離れて駆けていき、あるオブジェクトのそばへ滑り込んだのだ。


「コレ! 斬り倒すから!」

「はあ!? ……よしきた!」


 “ソレ”を挟んだ向こう側にもイチが立ち、そして2人で得物を振りかぶって。


「ヘイ!!」

「ヘイ!!」


 背中から生えた一際大きな桜樹へ、木こり斧よろしく刃を叩き込んだのだ……。

 ーー 《七魂夜叉》 ーー

 ーー 武者専用の態勢スタンス技。能力値を調整し、攻めアタッカーと同程度のものへ変化させる ーー

 ーー 七つの魂を持つ夜叉がいた。殺した者の魂を代わる代わる取り込んでいるのだと恐れられたが、其れは12の試練を乗り越えんとしている“なりかけの英雄”なのだという ーー

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