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8-5「遅れてきた勇者」

 イチには、誰へもまだ明かしていない想いがあった。


(俺は……きみが好きなんだ、ハナ(看谷)


 1人の男として、看谷 英子に惚れていた。


(それなのに。こんな時にこそそばにいてやれなくて、自分が引いてきた打算がまたイヤになる)


 不器用で臆病で小賢しい。できることが人よりなまじ多いだけに、本当に大切な事まで打算で埋めてしまう己が浮き彫りになる。


 ーー「ん? どう思ってるって……他の誰よりも一緒にいたい相手、かな」

 ーー『『おおお……!』』

 ーー「一番尊敬できるゲーマーだし、ゲーセンとかで一緒にいると新発見ばかりだからな」

 ーー『『おおう……』』


(真面目なツラばかり上手くなって。みっともなくてもいいのに、彼女のそばへ行くのが下手になってる)


 ハナの友人たちへ嘯いた言葉も建前だ。ひょっとしたら気づかれているのかもしれないが、ハッキリとは言われていないのだからという甘えすら打算に組み込んでいる。


(っあぁぁぁぁ! っったく!!)


 自省は自虐へ、自虐は自傷へ。誰かを殴れば己の拳も痛むように、己を殴った痛さで満足しそうになってしまう。


(それでもッッ、あいつに追いつける男になりたいんだ!! 悪いか!!)


 だからこそ。怖くとも駆け出せたのなら、止まるな。

 後でどれだけ嫌われるかしれなくとも、諦めるな。


「ていうか「容赦しない」だってっ、怖~い!◯ まあPvP環境じゃなかったら斬ら……」


 かしましい女声が判別できるくらいに、スタンから復活した大蛇ジャクジャクの頭部へ到達して……、


「ーーーーーーーーーーーーーー、ーーーーー」


 配信者テーコから距離を置こうとしていたハナが、刀を逆手に翻すと彼女の喉元めがけて地を蹴った。


「ハナぁ!!」


 イチは。大太刀の正眼構えから、瞬時に重心を落として大地を踏み鳴らし……、


「や め と け ! !」


 前後逆に翻した剣戟を……すなわち峰打ちを、ハナの頭へおもいっきり伸ばしたのだ。

 その瞬間、


「メッ。です」

「僕の話を聞いてえ!」

「あ。スマソ、おネエちゃんのオ部屋出しちった」

「うぅぅげぇぇぇぇ!?」


 ……この瞬間、様々な事が起こりすぎたのだ。


「「ぶっ?」」


 他でもないイチとハナが、誰よりもぽかんとしていた……。


  ◯ ◯ ◯ ◯


 ハナの逆手打刀が、テーコの喉へ食らいつかんとした瞬間の事である。

 ……この瞬間、様々な事が起きすぎたのだ。


「メッ。です」


 まず。千方火から上半身だけ現れた千方が、ハナの後頭部へチョップをかました。


「僕の話を聞いてえ!」


 次に。満身創痍のからくり師少年が飛び出してきて、ハナとテーコの間へゴールキーパーよろしくバンザイダイブした。


「あ。スマソ、おネエちゃんのオ部屋出しちった」


 更に。テーコのカメラ役であるシヨルなる全身鎧女が、ダウナーに呟いたかとおもうと配信画面を1枚の写真へ切り替えていた。

 生活感ありまくりの汚部屋に、タバコのパッケージを集めたコレクションケースが鎮座している写真へ。


「うぅぅげぇぇぇぇ!?」


 おまけに。それを目の当たりにしたテーコが、パステルな風貌に似つかわしくない悲鳴とともに身をよじった。


「「ぶっ?」」


 そんなわけで。頭に血が昇りきっていたハナは、ぽかんとしてしまった。

 チョップに打たれて刀の軌道がかすかにズレたし、

 からくり師少年が視界を塞いだし、

 汚部屋の写真にギョッとしたし、

 身をよじったテーコの喉笛は遠ざかった。


(村鞘? 来て……くれたの?)


 あと何故か、大太刀の面打ちをつんのめらせた村鞘 市郎がどこからともなく現れていて。

 結果、


「うっっあァァァァ~~~~!?」


 図らずも峰打ちとなったハナの一刀が、テーコではなくからくり師少年をかっ飛ばした。

 物理演算がオーバーフローでもしたのだろうか、千切れそうなほどぐにゃぐにゃに舞いながらお星様になっていった。

 結果、


「何してんだぁぁぁぁシヨルちゃんんんん~~~!?◯ 違う違うわたしのお部屋ってかオメーのタバココレクションの写真じゃんっ、ってかわざわざ言わんでいいから画面戻してハリアップ!!◯」

「重ねてスマソ。訂正するわ、“おネエちゃんのオ部屋に置いてる”わたしのコレクション出しちゃった」

「テーコちゃんの部屋だっての強調すんなっつってんだよォ!!◯ あはははハハハごめんねすまんねみんなっ、妹が不法占拠しててちょ~っと散らかってるけど気にすんなよん!◯」

『キタコレ』『きったな』『くさそう(喜)』『むしろこういうのを待ってるまである』『保存しますた』『シヨルちゃんシブいシュミしてんな』『GJシヨル』


 ハナから斬られずに済んだテーコは気もそぞろにシヨルを揺さぶっていたが、配信画面は一向に元に戻っていなかった。……ハナの凶行未遂は映されなかったし話題にもされていなかった。

 結果、


「ハナ、双方のPVP(果合)同意が成されなければ他の稀人を攻撃しても殺傷性は有りません……が、悪意性が高い意図的な攻撃は異界のげーむますたー(調停者)に罰せられると聞き及んでいます。自制を推奨します」

「…………ごめん。でもだからってチョップで止めるのはどうなのよ、あんたのカラダは“害意”が無効化されるとか何とかはどうなったのよ」

「害意ではなくそなたへの真心ゆえであり、無効化されなかったのがその証左です。時には言葉よりも擊を以て伝える方が、心というものは伝わりやすいと存じます」


 ハナは自戒せざるをえなかった。千方の刺線に貫かれていてなお、ただのチョップすら避けられなかったのはハナが我を失っていたからに他ならなかった。

 そしてついでに、


「…………誰なんだよ……俺がやりたかったこと言いたかったことを先にやるなよ……いや彼女が救われたならそれはそれでいいんだが……」

「はあ……? ああ千方、コレはあたしの遊び仲間のイチ。っていうか千方火だった時に見てると思うけど」

「肯定。はじめましてと述べておきます、イチ」

「千方火の千方……? ぉん……はじめまして……」


 大太刀を伸ばしたヘッドスライディングポーズでズッコケていたイチが、ハナと千方を見上げていた。


「……集積中……分析中……演算中……思考中……」


 ふと、上半身千方は青年武者の顔を覗き込むように接近して……、


「…………我は友として行動しましたが、彼女が他者に奪われる前に行動するべきかと」

「あおッッッッ……!?」


 ベギャァァァァン……イチはフェイタルヒットでも刺さったかのごとくエビ反りに悶絶したのだった。

 ーー 調停者げーむますたー ーー

 ーー 稀人が倫理にもとる行いをした際、『じむきょく』と呼ばれる何処かへ召喚し査問にかけるという存在 ーー

 ーー 日芙人は、天の神々に近しい存在としてソレを語っている。微笑ましいことだ。天から使わされた堕浮冥人たちでさえ、上位者たる天獄の“神々”へ触れえざるというのに ーー

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― 新着の感想 ―
[一言] 色々とカオスなんだが、なんだこの混沌のコント(さっむぅー) 結果的にイチは居なくてもなんとかなったって事だな(当然) イチはハナがこっちを見て助けを求めてるってようなことを言ってたけどそれが…
[一言] 例の少年居たんだ…これからもこんな役回りなんだろうなぁ
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