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7-7「鎧袖輪廻」

「承諾。追加権能《鎧袖輪廻》、顕現」


 千方火から褐色の手が生えたかと思うと、鬼火が押し拡げられながら受肉体の千方が現れた。

 それと同時、彼女が被った籠が分離。

 9振りの双刃刀と成り、使い魔がごとく飛翔してハナの鎧袖へ記号的に突き立った。


 ーー 鎧袖輪回(がいしゅうりんかい) ーー

 ーー 裏言霊 ーー

 ーー 鎧袖輪廻(がいしゅうりんね) ーー


 すると鎧袖もまた瞬時に変形しはじめたのだ。

 細かに分解されていった双刃刀を取り込みながら……あるいは双刃刀に取り込まれながら。

 マウントではないだろう一抱えのカタチへ、等身大の強化外骨格が圧縮されていって。

 千方の呼び寄せる手に応え、彼女の首無しの頭部へ誘引された。

 蝋燭よろしく鬼火が灯るそこには、大脳ほどの大きさの眼球……千方の眼『コイクラリシイス』が触手を絡ませながら収まっている。


「接続」


 変形鎧袖は、その眼へ袖を通させるように融合していったのだ。

 指先ほども無いナノサイズなからくり機構が膨大に接がれ、

 骨へ、

 肉へ、

 肌へ、

 髪へ。


「“義顔”最適化」


 そして。褐色肌の中、白と黒のオッドアイが開かれた。

 波打つ質感の白髪(はくはつ)は、タコの目のようなブレイド(編み込み)から触手風お下げ髪が垂れたサイドテール。


「鎧袖登録霊気『ハナ』、解析完了。……ハナ?」

「あ、ごめん」


 大人びて見えるのを別とすれば同い年ほどだろう女、首有り千方がハナのガン見に首を傾げたのだ。


「あんたってそんな顔なんだ。いいね」

「……久藻の遊び心による、とくに必要不可欠ではない“いーすたー・えっぐ(おまけ機能)”です」


 何を考えているのか分からないジト目な無表情、しかして雄弁なる唇を表情豊かに尖らせていた。


「よそ見は禁物です。いきます」

「はいはい!」


 確かに、戦場の片隅でガールズトークでもない。防御一辺倒の隠鬼祟来無へハナが向き直るより早く、千方が手をかざしてきた。


「霊気増幅、概念強化、意志還元」


 彼女の黒の左目が鬼火に燃え、手から神力の輝きが照射された。


「……ん」


 それはハナに宿ると、右目を鬼火に燃やすとともに残影を纏わせた。

 すなわち、9振りの双刃刀の後光を纏った鎧袖を。

 やがて右目の鬼火ともども見えなくなったが、ハナは己に“変化”があったことを意識下に実感していた。


「さあ、ハナ」


 そして千方が再度の千方火化を行った時には、風来姫は飛び出していた。


「以て、そなただけの死に酔わんことを」


 そして、

 ハナは、一瞬のうちに隠鬼祟来無の後方へ斬り抜けていた。


「ゴザウ……?」


 ステップとガードの構えを見せていたはずの隠鬼祟来無は、しかし突っ立ったままフリーズしていた。

 それもそのはず。

 数瞬遅れた後、ガードの忍刀が真っ二つに断たれていき……隠鬼祟来無自身も肩から腹まで袈裟斬りにズレ落ちていった。


「ゴ、ザ、ウ」


 彼の者は、一瞬のうちにもはや討たれていたのだ。

 祟来無ボディの弾性に包まれながらも強引に押しきった、

 わけではなく、

 二刀流の手数に任せてステップの間隙に押し通った、

 わけでもなく。

 ただ一閃と一撃のもとに、ハナはあらゆる意味で勝利していた。


(……スゴい。思い描いた通りになんでもできるって感じるくらい、力も速さも強くなってるんだけど)


 一瞬よりも迅い刹那のうちに隠鬼祟来無へ駆け抜け、強力すぎるがゆえに剣戟音すら斬り抜く袈裟斬りを放ってみせたのだ。

 パリィからのフェイタルヒットで後の先へ打ち勝つ必要すら無かった。


(なんていうか。(プレイヤー)の操作に(アバター)がついていけない“もっさり感”まで超えられるぐらいに……)


 ーー 武器攻撃力 上昇(絶) ーー

 ーー 素早さ 上昇(絶) ーー

 ーー 回避距離 増加(絶) ーー

 ーー 回避後硬直 減少(絶) ーー

 ーー 回避無敵時間 増加(絶) ーー


 ウィンドウたちが次々と現れては重なっていき、1つ1つのバフを確認する間も無かった。


(鎧袖を着た時のアーマー効果や感覚拡張が無い代わりに、ステータス強化へ全振りしてる感じ)


 ハナは、面頬の下で口の端が自然と綻んでいた。


(……アーマー効果だの感覚拡張だの、余計なものは無しでステータスだけ強くなってる!)


 それはある意味、死にゲー少女が心のどこかで求めていたものだったから。

 あの隠鬼城の舞台で、鎧袖というモノをたった1度だけまともに着てみた時から。

 確かにステータス補正“だけ”は魅力的だが……、


(アーマーは要らない。感覚拡張も要らない)


 だって、


(そんなの、血の通った死闘感が無いじゃない)


 鋼のカラダに包まれて、ココロを甘く引き伸ばされて、真に血沸き肉踊るものか。


 ーー 《鎧袖輪廻》 ーー

 ーー 鎧袖改造の型(Build)に応じ、鎧袖能力値を絶大強化したうえで稀人能力値へ変換する ーー

 ーー 戦闘時は解除不可。また発動中は鎧袖輪回を除く全ての鎧袖機能が使用不可となる ーー


(鎧袖の改造、進めなくっちゃ)


 たぶんもう2度とまともに着ることは無いだろうけども、この《鎧袖輪廻》のより良き“おダシ”にするためにせいぜい鍛えてやらなくては。

 このゲームの代名詞的なからくり強化外骨格を、やっと“まともに”愛でてやれそうだ。

 そんな心の弾みが、二刀を跳ね上げた手にも表れているかのようだった。


「シャッッ……コポシャシャシャシャッッッッ!」


 身震いした大蛇ジャクジャクから無数の大盾型鱗が逆立ち、青い霊気の尾を引きながら次々と射出されたのだが……今のハナは怖さよりも楽しさが上回っていたのだ。

 ーー 義顔 ーー

 ーー 鎧袖輪廻へ久藻が仕込んだおまけ機能。本来は首無しである堕浮冥人の、ひいては千方の首を鎧袖で生成する ーー

 ーー 稀人と同じように、堕浮冥人の魂にも“異なる世界の姿”が刻まれているのを久藻は見出だした。顔があればこそ、友と呼ぶ稀人と通ずる業もあるだろう ーー

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― 新着の感想 ―
鋼のカラダに包まれて、ココロを甘く引き伸ばされて、真に血沸き肉踊るものか。 →以前にも出てきましたが良い文ですね~、ハナの内心をよく表現してると思います。
[一言] 要は生身でアーマーを着たようなステータスの上昇の状態か、そんなのハナにとって鬼に金棒で最&高じゃん! でもあれ?これって死にゲーだよね?.....ここからハナの無双ゲーが始まるよねwww
[気になる点] >(鎧袖を着た時のアーマー効果や感覚拡張を抜いて、ステータス強化へ全振りしてる感じ) >(……アーマー効果や感覚拡張みたいな余計なものは無しで、ステータスだけ強くなってる) 似た表現が…
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