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7-5「かえすがえす」

 落下距離で威力に補正がかかるらしい。狂信者莢心へのトドメに用いたものとは比べ物にならないダメージエフェクトが飛び出し、ハナの身へも痺れるほどの衝撃が突き抜けた。

 その代わり、超高高度からの落下ダメージは完全に相殺されたのだ。


「ないす落下攻撃です。落下だめーじ、相殺確認」

「心臓吐きそうになったけど!」


 一方の千方はジャクジャクへ激突直前、手足に鬼火を発したかと思うと翻って千方火へ変化。激突も何もなくハナの傍らに浮遊した。

 無論ハナのほうは、臆して攻撃入力がズレていたら即死だったのは言うまでもない。

 冷静に考えれば物理法則にそぐわない相殺だが、様々な死にゲーで採用されている仕様なので今さら言うべくもなかった。


「いや硬ッッ……!」


 それより考えるべきは、『臨華』の刃が切っ先ほどしかジャクジャクに刺さらなかったことだ。

 稀人ことプレイヤーの攻撃は強い霊力を宿しているので、物理的には皮下組織へすら届いていない攻撃でも霊力的にダメージは通っている……らしいのだが。それにしたって手応えに乏しかった。


「シャシャコポァァァァ!」

「ちっ!」


 ジャクジャクのヘッドバンキング。ハナは頭から背中へ駆け上がろうとしたが、刃が立たない刀を楔代わりにはできず振り落とされた。


「ジャクジャク……だっけ!? “アイツ”と違ってずいぶんおカタいみたいだけど!」

「コポポ……シュシャァァ……?」


 樹海が鞣された獣道の戦場。いきなり脳天突きが降ってきて大蛇は文字通りアタマにきたか、数えきれない稀人たちがいるなかでハナを一番睨んでいる気がした。

 少なくとも、飴細工を鱗でコーティングしたような刺線刀刃はハナを貫いていた。

 ……数えきれない稀人たちの刺線に貫かれてもいる中で、ジャクジャクの刺線を見抜くのは骨が折れたが。


「空から剣豪が!?」「ハナちゃんだ!」「あの子!?」「久藻様が紹介してた子!」「てか空飛ぶマウントみたいなの乗ってなかった?」「フライングマウントぉ? まさか!」「おーいハナ氏ー!」「あたし見てたよ! 龍みたいなのに乗ってきたよねー!?」「あれ、もう1人乗ってたような」「またなんか見たことない刀持ってる!」

(……集中集中。刺線は視えなくできるけど、そしたらこのジャクジャクの刺線もまとめて視えなくなるし)


 ハナは一応、内なる“スイッチ”をオンオフして刺線刀刃が目に映らないようにはできる。ただし恣意的な選別はできないのだ。

 視えなくしたところで『刺さっている』という感覚は変わらず感じられるものの、これよりジャクジャク戦が始まるのを鑑みてもスイッチオフにはできなかった。

 だからハナは悪目立ちが嫌いだし、レイドバトルなんていうのも本当は苦手である。


(集中……)


 できる事はいつものように、闘うべき自分と相手以外の存在をただの“背景”にでもすること。

 他の何も見えなくなる……要らなくなる死線まで、一刻も早く己を研ぎ澄ましてやらなくては。

 もっとも。こんな超弩級巨大ボスを相手取るのだから、下手に考えるまでもなくそうなるだろうけども。


「ポゴゴシャッッァァァァ!!」

「バッチコーイ!!」


 ついにジャクジャクは鎌首を引き絞りながら牙を剥き、ハナへ噛みつき攻撃を放った。

 あまりの巨体ゆえに遠目からはむしろスローに見えるが、実態としてはジャンボジェットでも墜落してくるような勢いだ。


「きたぁ!」「避けろぉ!」「逃げろぉ!」「まさか剣豪ちゃんっ」「あ、あいつにもアレやる気か!?」「よせよせよせよせぇ!」「うわぁぁ!」


 野次馬たちは鎧袖をぶん回しながら退避していったが。そう、からくり強化外骨格なんて着込まない風来姫はその場で構えを広げた。


「ゴポシャッッッッ!!」

「っっっっやぁ!!」


 そして気合一発、ハナは自分より大きな下顎へ剣閃を合わせた。


「シャガッッ……!」

「「「「「「「「あああ!?」」」」」」」」


 ーー 弾殺(Parry) 不可 ーー


 はたして、聳えんばかりの化け物にパリィは発動しなかった。


「か、っは……」


 ハナは。丸呑みこそ免れたが、牙に貫かれてから高々とぶち上げられた……。


(……どの死にゲーでもそうなんだけど、パリィができる攻撃とできない攻撃の境界って曖昧なんだよね)


 幸か不幸か、フルダイブとはいえゲームなので痛みは感じない。だからハナは、あまりにもか弱く宙に投げ出されながらそんなことを考えていた。


(掴み攻撃はまあ分かるけど。履行技でもできるのとできないのがあったりするし。相手の武器が片手持ちか両手持ちかで判定変わったりするし。デカすぎるヤツには全モーションにパリィ不可付いてたり、かと思ったら一部の技だけパリィできたりするし)


 そろそろどこかの死にゲーが嚆矢(こうし)となってルール化してくれないだろうか。無理か。……目の前が真っ白になっていき、己が霊気へ散っていくのが分かった。


(まあ、コイツは不可能なんだろうなあって気はしてたんだけど)


 そんな気が100%していた……、

 だからこそ、そこで終わらずにはいられなかったのだ。

 わざわざ、試さずにはいられなかったのだ。


「ほら。討魔戦のぼすは弾き殺せないと言いましたよね」

「うっさい」


 かくして、

 散りゆくハナの内から彼岸花たちが咲き乱れた。


 ーー 《往生返し》(武器技) ーー

 ーー 往生返り(Twice Death) 発動 ーー


 それはソィクニァノチカャチの背にて『臨華』から宿らせた、あの彼岸花の残影の開花だった。

 花びらたちが……花びらのように寄り集まった“千方の手”たちが、その手刀で以てハナの内から霊気を貫いたのだ。

 死んでいるハナをまたも死なせたのだ。

 いわば、死中の死。


「この目で見ないとダメなの! あたしは!」


 彼方へ往生(死に戻り)しかけていた霊気は、さらに往生返し(死に戻り)して形を取り戻した。


「「「「「「「「えええ!?」」」」」」」」


 すなわちハナは、デスしたこの場で回生したのだった。

 ーー 往生返り(Twice Death) ーー

 ーー 死亡後、その場で即時回生する。また技能魂(Skill Point)は失われない  ーー

 ーー 千方が司る“導き”の象徴たる“手”の彼岸花にて死する稀人を再度突き殺す。稀人、此岸はこちらです ーー

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