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6-1「稀人、魔に逢うべし」


  ◯ ◯ ◯ ◯


『お久しぶりでございます。稀人逢魔伝攻略動画チャンネル、『まれおう物解録(ぶっかいろく)』のトセと申します』


 職業『傾奇者』。さめ兜を被っているので薄い笑みしか見えない女、トセが屋敷の広間で一礼した。


『今回は、逢魔について語らせていただきましょう』


 そばに動画編集ソフトのウィンドウが現れていく。


『ゲームタイトルの一部にもなっております通り、稀人(プレイヤー)がいずれ逢うべき魔として設定されております最強格のユニークボスでございますね』


 ウィンドウにはいびつな形状のピラミッドグラフが表示されていた。


『まれおうのエネミーは、強さや数によってある程度の階層構造へカテゴライズされております』


 トセが恭しく手で示した高さに合わせて、ピラミッドの階層が下から順に紹介されていく。


『【ムシ】:魔物ではないけれども敵対してくる“その他大勢”を便宜的に分類したもの。からくりや野盗など。

 【魑魅魍魎】:生命力(HP)は1固定の最弱の魔物たち。敵対より中立あるいは友好属性を有することが多い。

 【(あやかし)】:いわゆる雑魚MOB。ゲーム中でいちばん多く戦う妖怪たち。

 【妖魔】:ボスエネミー。中ボスからエリアボスまで幅広く内包されている為、強さの幅も最も広い分類。

 【逢魔付】:逢魔の眷属。逢魔の簡易版といえる強さを持ち、ゲリライベントなどで遭遇できる中では最上位の存在。

 【逢魔】:それぞれ1体しか存在しない最強格の魔物。特定環境下にしか姿を見せず、戦う為には隠し条件の達成が必要なユニークボス』


 『逢魔』と『逢魔付』が位置する高階層はことさら小さく、その下層の『妖魔』と『妖』がグラフの中で同じくらいに最も大きい。ゆえに全体の形としてはピラミッドよりも独楽(コマ)というべきだろうか。


『逢魔とは、魔を以て日芙を汚染し続ける存在。配下の妖魔などを使役して各地を支配し、それぞれの思惑に基づいた混沌を振り撒いているようでございます』


 トセが次に出したウィンドウには、扶桑国の簡略された全体地図があった。

 中央には扶桑城聳える扶桑平原、東西南北には四鬼境。


『現状実装されている唯一のワールド……扶桑国においては、4体の逢魔が四鬼境それぞれを根城にしているとされております』


 四鬼境に付随して、スクリーンショットらしきミニウィンドウが現れる。


 東の春隠(はるがくれ)の地には、刺々しいシダ植物が胞子を発しながら校舎らしきものを編み上げている森があった。

 南の水夏(すいか)の地には、座礁しあった軍艦が舞台を形成しあっている海があった。

 西の風秋(ふうしゅう)の地には、数多の武器が突き刺さった鳥居が異常な本数で連なっている谷があった。

 北の冬金(とがね)の地には、燃える冷気を噴出するからくりで満ちた歓楽街のような雪山があった。


『逢魔たちは表舞台に立つことを極端に避けている様子で、自らにまつわる情報も秘匿しています。それは彼らが生前の“業”に最も縛られた魔物であり、その“業”を看破されれば稀人の前に引きずり出されてしまうからなのだとか』


 トセが扶桑城下をタップすると、スクリーンショットがもう1枚。

 からくり文明開化な街並みの中でも一際ハイカラに、『阿迦奢院(あかしゃいん)』の銘板を掲げた館が稀人の往来を多く受け入れていた。


『妖魔退治に交易に秘境探索。プレイヤーは様々な活動の中で見つけた逢魔の情報を『阿迦奢院』へ蒐集できます。その果てに逢魔の“業”を看破できれば、決戦の時が訪れるでしょう』


 トセがウィンドウを裏返せば、そこには『戦闘』・『生産』・『開拓』の三本柱と各単語に沿ったイメージ画像があった。


『完全オープンワールドのまれおうでは、どんな遊び方に興じるのも自由でございます。けれども……』


 指を走らせ、三本柱の間を線で繋ぐ。

 するとそれらの線は自由に交差し続け、ゆっくりと回転しはじめたウィンドウの外枠をも超えて裏面へも繋がった。

 稀人の自由な活動と、四鬼境のそのまた魔境が因果も複雑に繋がりあったのである。


『『戦闘』も『生産』も『開拓』も、ゲームのメインストリームたる逢魔との邂逅に通じているともいえますね』


 楽しげに合わせた手を、可笑しげに細めた口元へ。


『なのでここでは、それぞれの逢魔の詳細について語る野暮はよしておきましょう。……もっともこの動画の投稿時点では、名前ぐらいしか明らかになっていないのでございますが』


 その手が三角形を象ったかと思うと、ふと「ああ」と声を漏らして。


『ちなみに先ほど紹介いたしましたエネミーのカテゴライズには、他にも特殊な分類が存在するとかしないとか。ひょっとすればそういう存在こそ、逢魔の謎に近づく近道になるのかもしれませんね』


 締めの一礼を向けた彼女のそばには、いびつなピラミッドグラフがまだあった。

 天辺にあたる『逢魔』の階層は、三角形ではなく台形をしていた。

 ーー “ムシ” ーー

 ーー かつての日芙では、鳥・獣・魚・貝以外の生物をなんでも“ムシ”と分類した。ゆえに人の身中に巣食う正体不明の存在をも『腹の虫』・『癇の虫』・『虫唾』・『水虫』などと呼んだ ーー

 ーー 現在の日芙では、魔物以外の敵性存在を特に“ムシ”と呼ぶ。虫ならば人へ仇なすも仕方ない、五分の魂しかない身中の虚には悪い虫がびっしりと巣食っているのであろう ーー

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― 新着の感想 ―
[一言] 四鬼の代わりと言わんがばかりに君臨してる4体の逢魔!だが奴らから仕掛けることはない。己が姿を、業を、晒すのは丸裸になると同義だからだ でもそれってビビってるってことだよなァ(ニヤリ) あと阿…
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