5-7「目、醒めゆく世界」
(次回(6/7)更新分の一部epが誤って公開されていたため、調整させていただきました。申し訳ございません)
(次回更新は「誤投稿されていたep(再掲)」+「複数の“特別”ep」構成を設定しておりますので、誤投稿分を既にご拝読された皆様もお越しいただければ幸いです)
「蓬莱 莢心は長らくの間、魔に取り憑かれておった! 四鬼事変の後にこやつへ奇妙を感じた者がおったならば、まさに内なる魔のせいに他ならぬ!」
ハナのほうへ歩いてきながら、千方を示す。
「あまつさえここにおる女の眼を奪い、人の身に余る神力を得ようとしたのじゃ! この女は千方……天獄という世界より使わされし地獄の管理者、かの四鬼の頭領である!」
(あ、それ言っちゃうんだ…………ん?)
ハナはふと、上方から貫いてくる刺線たちに気づいた。
「「「ゲッラ、ゲッラ、ゲッラ……」」」
蜘蛛脚の高速回転で飛翔する小型ドローン……いや笑蜘蛛たちが、望遠レンズでハナたちを撮影していた。
「じゃが安心せい! 今や莢心の魔は祓われ、御魂はここにある! かつての蓬莱 莢心としてすぐに回生しよう! この偉勲を立てたは、ここにおる稀人ぞ!」
と、今度はハナを示してきた久藻だったが。当の風来姫はそれどころではなかった。
ドローン笑蜘蛛の向こうの大空に、超巨大ウィンドウがいくつも現れていたからだ。
「こやつは地獄へ渡り、封じられた千方を解放するとともに莢心の矜持をも救った! まだ誰も見ぬ道を斬り開いた英雄じゃ!」
扶桑城下町の四方へ余すことなく見せつける位置取りと角度で……、
ドローン笑蜘蛛が撮影しているお白洲のハナたちを、生中継していたのだ。
「ちょっっっっ……!? なに勝手に生中継してんの!?」
「この稀人……をぉー……これ、そちの名を訊いておらなんだな」
「ハナだけど!? あっ、しまっ……!」
「この稀人ハナに祝福を! 扶桑国の稀人どもよ、これからも己が道に励むがよい!」
久藻がドローン笑蜘蛛へカメラ目線を向け、号令を発するがごとく手を突き出してみせた……数瞬後、
彼方からの大歓声が空気を震わせた。
考えるまでもない。あの空の映像を観た城下町の稀人たちだろう。
その声量が徐々に大きくなって……いや近づいてきているように思えたのは、おそらく気のせいではなかった。
「やめてぇぇぇぇ! べつにあたし目立ちたくて闘ってきたわけじゃないんだけどぉぉぉぉ!」
「何を言っているのですか、ハナ。そなたの覇道を世に知らしめる、これはそなたに授けられた権利であり義務です。類い稀なる偉業には類い稀なる誉れを」
「んなもん地獄に投げ捨ててほしいんだけど!」
まもなくトレンド志向なプレイヤーたちが押し寄せてくるだろう。彼らから貫かれる刺線の密度を考えると恐ろしいことこの上ない。
「久方ぶりじゃのうチカ、この寝太郎め。阿呆な亭主の事も含めて積もる話があるでの、ものの弾みに星霊殿にでも往かぬかえ」
「31年2ヶ月9日ぶりですね、久藻。承諾、眼の復旧により座標観測も万全です」
ーー 転移門 星霊殿 ーー
3人の間に鬼火が渦巻き、ゲートとなった。
「ちょ……どこに通じてるか知らないけど、先行くから!」
「これ。こんな良い女2人を置いてゆくとは不躾な武人じゃ」
「本当にせっかちですね、ハナは」
今はココ以外ならどこでもいい。ハナはゲートへ、ヘッドダイブするのだった。
◯ ◯ ◯ ◯
「ったくもう! 余計なことしてくれちゃって!」
SNSで珍獣扱いされる程度ならまだよかったが、ゲームから公式に紹介されてしまった。気ままなソロプレイ環境は絶望的に遠ざかっただろう……。
「……あれ? ここってたしか」
まあ有名税問題はまた考えるとして、ハナは鬼火ゲートの向こうに現れた景色を見渡すのだ。
(キャラメイクの時に来た場所……?)
そこは、霧が舞う幽玄の河原だった。
このゲームを始めた冒頭、写し身を作成せよと命じられた場所である。
あの時は景色なんかよく見ていなかったが、今なら意味深なディテールがよくよく目に映った。
小石以外には何も無い大地。そこかしこで鍾乳石がごとく小石の塔が積み上がっているのだが、それらは人の手ではおよそ成しえないだろう高層に曲がりくねっている。
そんな大地に意味を与えているのは、方々を流れている大河だ。
まるで星空を閉じ込めたかのように無数の輝きを秘めた清流。
地平線まで伸び……そのままなんと空を昇り、交わり合うことで本当に星空になっている。
あるいは星空から降った流れが大河となっている。
満ちる霧も、さながら白い夜を顕すかごとくだった。
ーー 四途の川 ーー
「ここは四途の川。『天獄』・『地獄』・『日芙』・『異界』を繋ぐ、いわば“次元の狭間”です」
と、ゲートを通ってきた千方が言った。
彼女に次いで久藻も現れると、扶桑城への道はすぐに閉ざされた。
「ハナと言ったな。人目に付くのを嫌っておるようじゃが心配するでない、ここは座標を認識しておる者しか辿り着けぬ場所じゃて」
「あなたね……! あんな演説ぶっといてどの口が言うのよ!」
「仕方なかろう。事情を知らぬ者から見ればそち、扶桑国の名代をただ斬り殺した大逆賊ぞ? 風説巷説が広まる前にこちらから先手を打ち、もっともらしい英雄譚にでも仕立て上げねば国そのものが傾きかねんかったわ」
「ふん。殿様が魔に憑かれてた時点で傾くどころかぶっ倒れてるでしょ……」
「ああソレのう。莢心めがチカへの執着を拗らせすぎたあまり、霊力が妖力に変じかけておったのは事実じゃが……べつに魔に憑かれておったわけではないぞよ。わらわの方便じゃ」
「はあ?」
「ハナ、久藻。立ち話は心身の負担が増大します、まずは星霊殿内へ移動しましょう」
「うむ。然り」
ーー 『涅生』(双刃刀) ーー
千方の手に双刃刀が現れていた。
「逸、新……」
彼女が何事か囁きながら刀身へ指を這わせると、表意文字の呪文が付与された。
「散」
そうして間近の霧へ逆袈裟に振られれば、刃から発せられた黒い輝きが霧を裂いた。
すると泡沫が破れるがごとく、そこには建造物が現れていた。
平安の都を思わせる様式の御殿だった。
「あんたの秘密基地ってわけ?」
「肯定。本来は地獄における活動拠点だったのですが、我が虚ろ舟に入っている間の保安的観点からここに移設しました」
千方が「いらっしゃいませ」と先導しはじめて、久藻も勝手知ったる様子でスタスタと歩きだして。
「奥へどうぞ。そなたの意志さえあれば、ここは四鬼を救う旅路の寄す処となるでしょう」
「……四鬼を、救う?」
「肯定。1年2ヶ月9日も遅延してしまいましたが、ようやく再起できます」
とりあえず付いていく他なかったハナに対して、千方はなんだか意気込んでいた。
触れることなく門を開けながら、振り向いてみせるのだ。
「消えてしまった四鬼の皆は、救い出せます。そなたたち稀人と力を合わせれば」
彼女はきっと、顔無き貌で不敵に笑っていた……。
続く
ーー 見つめるモノ ーー
ーー 千方こと『ソィクニァノチカャチ』の眼。型式名『コイクラリシイス』。四次元の視座を有する為に必要な“天体”で、コレが接続されていない堕浮冥人はいわば翼無き天使である ーー
ーー 異界の言葉でこのモノに該当する名を呼んではならない。それは多元世界の起源の1つに由来する禁忌ぞ ーー




