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5-5「御試御用」

「まだ、っ、まだぁぁぁぁ!」

(……はあ)


 ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー


(もう見切っちゃったわ。ただ迅いだけの反射ゲー)


 もはやその場から1歩も動かず、ハナは見本のような道場剣術を捌いていった。

 モーションの種類も多くはなく、素直な達人技の数々をもう全部見てしまった。


(1フレーム間隔の多段ノコギリだってパリィしたのに、今さらただの1フレーム居合とかイージーモードよ)


 そう。ハナは、これ以上の死線をつい先頃超えてきたばかりなのだから。


(千方火のほうがよっぽど強かったんだけど)


 稀人の旅路に正道無し。そう囁いてみせた千方火との闘いのほうが、よっぽど目が醒めたものである。


(アレに比べたら、ただの中ボスね)


 他に何も考えられなくなるような、ハナが焦がれる死闘ではない。

 むしろこれは、“試し斬り”だった。


「ねえ千方! この『臨華』って刀、鎧袖も斬り放題なんてスゴい斬れ味じゃん! それともこの人の鎧袖が紙装甲なだけっ?」

「ッッ……俺の『奕莢』を愚弄するか! これは鎧袖の始原たる1着だぞ!」

「あなたには訊いてないでしょうが黙ってそのナマクラ振っててッッ!」

「むぐッ……!?」

「前者です。『臨華』が最上の大業物なのです」


 ーー 弾殺(Parry) ーー 莢心の下がり斬りを深沓キックで峰から突き返し、反動で大きく退かせる。


「そなたが装備していた『無銘刀』と比較して、99.564倍の武器攻撃力向上を計測しています。扶桑国で十指に入る最強装備、と述べて過言は無いでしょう。カッコ当社比、カッコ閉じる」

「そ! じゃあ試してみますか!」


 なにせ今回はじめて鎧袖を斬るのでまだピンときていなかったが、ならば試す方法は簡単だ。


「2本目の刀が手に入ったら、ちょっとやってみたいことあったし!」


 ハナは『装備』ウィンドウを操作した。


 ーー 『無銘刀』(打刀) ーー


 するとどうだろう。左腰に佩いた『臨華』と対をなし、右腰に『無銘刀』が佩かれたのである。


「やった。あるじゃない、二刀流」


 ーー 『千方の証 臨華』(右手装備) ーー

 ーー 『無銘刀』(左手装備) ーー


 面頬の下でほくそ笑んだハナは、『臨華』を鞘へ入れた。

 もちろん“納めた”のではない。為すべき事の為に、“入れた”のだ。


「莢心様」


 右手は左腰の『臨華』へ、そして左手は右腰の『無銘刀』へ。


「次で仕留めてくれなかったら終わらせるから。出し惜しみ無しで全力出してね」

「な、なんだとぉ……!?」


 二刀風来姫は、二刀居合の構えを溜めたのだ。


「どこまで俺を辱しめれば気が済むのだっ、貴様はぁぁぁぁ!」


 対して、なんとなく分かっていた事ではあったが。莢心はほとんど骨組み同然に剥がされた鎧袖をがなり立て、猪突猛進突っ込んできた。


「去ねっ……!!」


 中距離にてふいに横っ跳びを入れ、鎧袖弓を速射してきたのには思考AIの機転が見えた。


(そういえば昔々、刀の試し斬りって……)


 しかしハナは既に刺線を捉えていて、首を傾げるだけで紫電の矢を避けた。


(処刑のついでにやってたんだっけ)


 目前に踏み込んできていた莢心が、居合剣の構えに紫電を発していた。


「千方はっっ俺のぉぉぉぉ……!!」


 1フレーム居合剣、発生。


「っっっっし!!」

「ぎゃ、っ…………!?」


 ーー 弾殺(Parry) ーー

 ーー 会心(Critical Hit) ーー


 応じてハナは。ダブル居合剣で、1フレームの内にパリィとカウンターを決めた。

 鎧袖の両膝を刎ね飛ばし、老いさらばえた城主を跪かせた。

 そして執行人たる少女は、弾むステップとともにもう動いていた。


「じゃあ、やっとあたしから斬れるわねッッ!!」

「ぬっ、ぬぁっ、ぬぐぁぁぁぁぁぁ!?」


 死罪人の周りを舞いながら、左右の刀で試し斬っていった。

 老人の生身ではなく鎧袖を。

 腱を、筋を、管を、皿を、骨を。

 居合剣ならともかく、さすがに乱れ斬りでは発生1フレームの精度は保てなかったが……3~4フレーム間隔で連撃を。


 ーー 装備変更 ーー

 ーー 『無銘刀』(右手装備) ーー

 ーー 『千方の証 臨華』(左手装備) ーー


 途中で二刀の左右を入れ替え、さらに連撃を。


「ふぅっ!」


 そうして、処刑の開始地点へ舞い戻った。

 合計、約50ヒット。

 秒間、約3秒。


「『システムログ』……あー、利き手じゃない方の攻撃力にはマイナス補正掛かってるっぽいね。それに二刀流だとやっぱり精度落ちてるんだけど」


 [ハナの攻撃(『臨華』(右手武器)) “一意の狂信者 蓬莱 莢心”へ29,869ダメージ]

 [ハナの攻撃(『無銘刀』(左手武器)) “一意の狂信者 蓬莱 莢心”へ120ダメージ]

 [ハナの攻撃(『無銘刀』(右手武器)) “一意の狂信者 蓬莱 莢心”へ234ダメージ]

 [ハナの攻撃(『臨華』(左手武器)) “一意の狂信者 蓬莱 莢心”へ11,947ダメージ]


 千方火戦にて『無銘刀』は平均300ダメージといったところだったが、左手装備だと4割程度に威力が落ちている。

 また左右それぞれの刀を片手で振らないといけないので、両手持ちよりも剣筋がややブレてヒットが弱くなっている。

 前者は、ゲームシステム的な要因だろう。左手に持ったとはいえ4割の力になるような振り方はしていなかったから。

 後者は、ハナの未熟の致すところ。二刀流の素振りはできても実戦剣術としてはまだまだ鍛え方が浅いから。

 とはいえ期待値として、『臨華』の攻撃力はなるほど『無銘刀』を凌駕していると実感できた。


「ほら見て千方。ココとココは『臨華』で斬って、ソコとソコは『無銘刀』で斬ったの」

「一目瞭然ですね」

「…………か…………っ、ぁががが、がは……」


 なにしろ莢心の鎧袖が、四肢それぞれを異なる条件の刃で斬り刻まれていたのだから。

 右手装備の『臨華』で鎧袖の左腕を、翻って左手装備なら鎧袖の右腕をといった具合に。

 よって莢心の鎧袖は、いっそ美しいまでの非対称的に全壊していた。

 『臨華』によって斬られた両腕は、最初の数撃の時点で原型を留めず圧壊され、

 『無銘刀』によって斬られた両脚は、チクチクとこそぎ落とす調子で斬り刻まれていた……。

 ーー 鎧袖兵装 『離魂りこん』一式 ーー

 ーー 莢心の鎧袖『奕莢』専用に設えられた兵装一式。超電磁砲仕掛けの神速を強みとする太刀『白切』と弓『逐電』を指す ーー

 ーー 居合剣の達人だった莢心は、しかし生身において弓を得物とした事は1度も無い。在りし日の彼が秘していた遠距離武器を久藻は絶対に再現せず、「弓でも引かれよ」と『離魂』を寄越した ーー

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― 新着の感想 ―
[一言] …何持ってたんだ本来この人。 (弓は後から訓練したっぽいし。
[一言] >「千方はっっ俺のぉぉぉぉ……!!」 この言葉の間に脳裏に駆け巡る思い出が…! そのエモーショナルごとズタズタにされるのは何故だか楽しい。過去の英雄の凋落を見たって感じ
[一言] あーあご自慢の鎧はスクラップになっちゃたねぇ〜(愉悦) そのままくたばっとけ老害(冷めた目) 二刀流の利点としては手数や片方が防御&往なしに使えると言うことかな かの宮本武蔵も二刀流だったし…
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