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4-6「満目」

 目を閉じながらでも十二分に渡り合えていたのは、心の眼があったから……、

 なんて嘯くことはできなかった。今はまだ。

 ハナは、ただただ覚えたのだ。


(死んで覚えろ、か。ただの覚えゲーにしたくはなかったんだけど)


 死によって覚え、死から学び、そして死を超える。

 死にゲーとはとどのつまり覚えゲーなのだという。

 無数の死を覚えてついに繋がる1つの生、絶望を打ち砕くカタルシスに酔うゲームジャンルなのだと。

 だが、


(あんな初見殺しで死なせてくれたからには、最高効率で死なせてあげる)


 だが、たった1度の死とてハナは甘んじてやるものか。


「ふふ……あははははははははッ! あんな初見殺しの即死技でしか殺せないのかしらね、このダメドラゴンはッッ!!」

「ーーーー

 ーーーーゥ、ゥ、ゥ、ゥァァ……ッ?」


 死んでしまったからには。この怨み、晴らさでおくべきか。


「こんなに良い闘いができるのに、メンドいだけの即死技なんか積んでんじゃないわよバーーーーカッ!!」


 死ぬほど目が醒めるボスなのに。目を瞑ってやらないといけないこのつらみ、ぶつけてやらいでか。


(ホント惜しいな……。ランダム性が強すぎるあのブレスと『開眼』さえ無かったら、文句無しだったんだけど)


 あのウシャナ戦以来の衝撃に、ハナは心躍っていたのだ。

 獣じみた超反応から狩人の冴えに転じ、文字通り一歩間違えればこちらが知恵無き獣として狩られるだろう機動。

 こう来るだろうと直感させた通りの素直なモーションで襲いかかってくるのに、分かっているのに恐怖すら覚える壮絶な攻め。

 こちらの小手先や搦め手に相応の罰を必ず与えてくる、掴み攻撃やレーザーなどの対処防御。


(あんな技なんか無くても、最高に最強な良ボスなんだけど)


 まったくもって、フェアな死闘だった。

 あの嗚咽と眼差し以外は。


「ーーーー

 ーーーーッッ、ァァァァ……!」

「こんなに良い死闘……終わらせたくないんだけど!!」


 ーー 弾殺(Parry) ーー


 ついに。闇へ咲き誇った刺線の大花へ、ハナは逆手に翻した刃を突き込んだのだ。

 手応えと確信を以て、目を開けた。


「ーーーー

 ーーーーァ…………」


 千方火は、度重なるパリィに負けてついにのけぞっていた。

 刺線の大花が現れていたのは、のけぞることで露わになっていたカノジョの顎の下だった。

 すなわち、1本だけ他とは逆さに生えた手……、

 “逆鱗”を、ハナは貫いたのだった。


「ーーーー

 ーーーー…………《RE:REVERSE(シン格再往生)》」


 そして千方火から、白い霊気の衝撃波が迸った。


「ッッ……!?」


 千方火から刀を抜き放ったがパリィできるはずもなく、ハナは後方へ弾き飛ばされた。


「ちょ、っ、と……マジ……?」


 刃を楔代わりに着地するも、膝を付いてしまった。

 千方火から浴びせられた高濃度の霊気が全身に纏われ、自分の体ではなくなったかのように身動きが取れなかったのだ。


「ーーーー

 ーーーー」


 ただ、かの龍は襲ってはこなかった。


「ーーー」

「ーーー」


 ハナが斬りつけた箇所から溢るる霊気に纏われ、ハナと同じように動いていなかった。


「ーー

 ーー」


 やがて白い輝きが包帯がごときカタチに編まれて浸透していくと、その部位から少しずつ動きだしていった。


「ー

 ー」


 四つ足に這った『龍』の姿勢から、『人』の二本足へ立ち上がった。


 」


 そしてカノジョは。頭上の双刃刀を、光輪ではなく武器としてしかと掴み取った。


「……感謝します。稀人ハナ」


 そして“彼女”は。

 双刃刀で、己の顔を一文字に斬り抜いた。


「ウソ……っ?」


 顔を塞いでいた鬼火手たちが、何かを讃美するかのごとく手に手に封を解いていた。

 その中心で、あの目が一文字に斬り抜かれていた。


「これで我は……せめて我らしく逝けます」


 ただ、常に見開かれていたソレは今や穏やかだった。


「さあ。この狂える身に差す魔のままに、そなたへ絶望を」


 西洋直剣がごとく傍らへ得物を立てて構える、中段『八相』の型へ龍人は研ぎ澄まされた。


「そして。我が命へ至る一撃を……我が命運へ至る一撃を以て、希望を」


 ……対して、ハナは刀を杖代わりにするまでもなく立ち上がっていた。


「まさかの第3形態って……」


 千方火へ霊気の包帯が浸透していったのと対となり、あんなに動かなかった体が活力に満ちていったからだ。

 それはきっと、霊気に込められていたのだろう回復効果以上に……、


「あああもう! やっぱりあんた、最高に良いボスなんだけど!!」


 ーー 【堕浮冥人だふくろうど】 無明(むみょう) 千方火 ーー


 今度こそ初見で討ち滅ぼしてやれる、という希望がハナを立ち上がらせていた。

 願っても無い再臨を賜り、シセン少女は心の底から活力に満ちていたのだ。

 あの厄介なだけの目は千方火自身によって斬り捨てられた。

 それが意味するところを、死にゲーマーとしても……いや“剣を(さぶら)う”者としても信じずにはいられなかった。

 地を蹴ったのは、はたしてどちらが先だっただろう。


「いくわよ!!」

「戦闘開始」


 交差した2人の剣士は、霊気の火花とともに刃を重ね合った。

 やはり。露わになったままの千方火の目を視界に入れ続けても、『発狂』することはもう無かった。

 あんな即死技も足場潰しのブレスも無く、真に純然たる剣戟戦が始まったのだ。

 二足歩行の双刃刀使いと化した千方火は、それに伴う変化の有無が闘いぶりの中でこそ鮮明だった。


「ふぅ……ッッ!」

(っと……! 刀身が二本あっても、手刀の二刀流よりは素直に闘えるわね!)


 まず変化しなかった事。武器が手刀から双刃刀となってもモーションの骨子は変わらず、ここまでの闘いの記憶を活かしたまま直感的に渡り合えた。

 鬼火手でノコギリと化していた手刀に対し、双刃刀の刃もまたよく見ればノコギリ状。『鋸目』という言葉がある通り、1つ1つが眼光を尖らせてくる。

 一目にはたおやかな双刃刀から、多段攻撃が相変わらず壮絶にぶん回されてくるのだ。


(手刀よりリーチが伸びてるからタイミング再調整! あの尾っぽや翼は使ってこなくなったみたいだけど……)


 一方で変化した事。なにかと便利な尾や翼が攻防へ用いられなくなり、巨体のまま二本足の姿勢を保つ為のバランサーとしてのみ制されていた。


「後方警戒。取らせません」

「良い反応!」


 その代わりとばかりに。隙を見て後ろを取ってやるかと仕掛けようものなら、姿勢が整った分だけ素早さを増したタックルやキックが飛んできた。

 狂える龍だった時の単なる暴れ方ではなく、それらは剣術の一端としての『当て身』や『前蹴り』だった。


「学習中」


 そして最も大きな違いの1つは、彼女が“学習”するという点だった。


「演算中……調整中……」

「そこっっ!」

「最適化完了」

「けおッッ!?」


 ーー 弾殺(Parry) ーー


 つまり、パリィしてきたのだ。

 【反響定位法】

 己あるいは周囲から発する音波の反響を捉え、世界のカタチを視認する方法。音波が煩雑すぎる環境だと逆に世界が歪んで視えるのが弱点。

 人間の五感は摩訶不思議、1つの感覚が閉ざされれば他の感覚が鋭敏になっていく。ましてや、ただでさえ他人より強い感覚の持ち主がソレを閉ざしたら……。

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[一言] 存分に死合おうぞ!刺線を越えて死線となれ!
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