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4-4「抜目」

 触れただけでは押し返される反発力があったが。向こう側へ行くのだという意志を見せる程度に力を込めれば、鬼火の幕は簡単に突破できた……。

 そうして一方通行の入場口を抜けきるやいなや、風来姫は地獄の浮島へ躍り出た。


「ごめんね! 待った?」

「ーーーー

 ーーーー」


 虚ろ舟の前にいた千方火は、時間が巻き戻ったかのごとく全快状態。

 頭上に双刃刀は無く、まだ焼かれていない鬼火手たちが顔を塞いでいた。


「良い初見殺しだったじゃない! 2度は効かないけど!」


 今度は間合いを読み合うにも及ばず、ハナのほうからカノジョへ飛び込んだ。


「ーーーー

 ーーーー……!」

(アレはたぶん、HPを一定割合まで減らしたことによる形態変化ね。対策すべきはブレスと『発狂』だって提示されたようなものだから、基本モーションになる多段攻撃はさっさと見切っておいてっと)


 最初はビックリした多段1フレーム攻撃だが、序の口と分かったからには神経を使っていられない。

 挑戦1回目の時点で既に掴みかけていたコツをブラッシュアップし、ハナはより効率的に千方火と渡り合っていった。

 多段攻撃の性質が振られた得物……例えばチェーンソーやレーザーやドリルは、モーション的にもヒット判定的にも長いモノになりがちだ。

 それは千方火の鬼火手ノコギリにも当てはまっていた。

 つまり前もっての回避では、後引くヒット判定へ捕まりに行くようなもの。

 しかしその分、フレーム回避を徹底すれば見返りも大きい。

 空振り後の千方火には確定で1撃返せる隙がある、と見出だしてからは尾のほうへ回り込む必要すら無かった。


(背面からだと移動距離の大きいテールスイングや軸合わせ入れてくるから安定しないか。けっきょく正面から強攻撃誘ってカウンター入れてくほうが効率的ね)


 観察、感応、看破。

 死闘の中であっても、あらゆる意味の“次”へ活かす為に万事を観測し続ける。それもまたハナ流の死にゲー処世術。

 それで初見クリアできたならもちろん至高だが。万が一死んでしまった後にも活かせるように、けっして“視る”ことを怠ってはならない。

 ゆえにこそ。こうして1度死んでしまったからには、1度見切った技の数々で死ぬ道理は無いのだ。

 次の死があるとしたら、あの『目』の先の“未知”だけ。

 だからハナは、ひとえに効率的に斬り結んでいった……。


「ーーーー

 ーーーー……?……!」

(うん、ダメージ計算どおり。これくらいの回数斬ったら形態変化入ると思ってたわ)


 挑戦1回目より大幅に時短を成し、千方火は黒いブレスを吐く苦悶へとシフトした。


「ーーーー

 ーーーーァァァァッッ」


 裂けた背中の中から双刃刀が取り上げられ、カノジョを“天使”たらしめる頭上の光輪となった。


「ーーーー

 ーーーーァァ……ァ……」


 そして千方火は首をもたげ、ブレスにより暴かれた貌でハナを凝視した。

 そこで見開かれていた、大きな一つ目を……、


(ここ! ……“見る”な!)


 ソレを、ハナは顔を背けることで視界から外した。

 するとどうだろう。

 何も、起こらなかった。

 『発狂』の症状も、発生を示す筆文字も現れなかったのだ。


(やっぱり! あの目を“見る”のが『発狂』の蓄積条件だったみたい!)


 ハナは肩越しにブレスの残り火を警戒しつつ、バックステップを刻んで千方火から大きく距離を取った。

 システムログにあった『開眼』の技名から連想したとともに、“見ない”というイチかバチかの検証へ至らせたのはある経験則からだった。


(神話系の死にゲーだと、視界に入れるだけでデバフが溜まる敵がいたりするのよね……! 人間の脳ではチカクしきれないからどうたら、人間が視てはいけないコウジソンザイがなんたらって!)


 ダークなモチーフを取り上げがちな死にゲーでは、宇宙あるいは深淵からの暗黒神話的存在がまま現れるのだ。

 ハナはあまりよく知らないのだが、そんな“カミサマ”どもの降臨に『正気度(Sanity)』を削りつつ抗うゲームジャンルもあるらしい。


(『ブラッドドーン』の終盤もだいたいそんな感じだったし! 仕掛けが分かればいくらでもやりようはある!)


 少なくともここは、斬れば通ずるアクションRPGの世界。

 なれば己が技前と得物で、正気なぞいくらでも保ってみせよう。


「ーーーー

 ーーーーゥゥァァ……!」


 ただし。かの“天使”もまた、獣より狩人より狡猾である。


(問題は、よそ見しながら闘わないといけないことね!)


 残り火を自らの突進で蹴散らし、千方火はハナへ掴みかかってきた。

 いかにも。この一目を見ればハナは狂うのだと……そう自覚している風に、

 そして見ないのなら見ないでハナのペースは狂うのだと、そう自覚している風に動いたのだ。

 いかにも。いくら刺線で攻撃の意志が視えても、目視での観測で確定させるのならよそ見は命取り。

 ハナは千方火の手刀が刺股へ変じたのを読み遅れ、その掴み攻撃へパリィで挑んでしまった。


(やば!? 掴みのほうだった、っ、ぅぁっっ!)


 ーー 弾殺(Parry) 不可 ーー


 鬼火手たちの肉塊へ刃を合わせたものの、パリィは発動せずにハナごと絡め取られてしまった。


「ーーーー

 ーーーーァァァァ……」

(『発狂』狙い……!?)


 顔の前まで持ち上げられて。ギョッとしたハナは全力で目を逸らした……が、

 焼け爛れた鬼火手たちが、千方火の一目を辛うじて覆っているのを見た。


「ーーーー

 ーーーーァ、ァァ!」


 次の瞬間、どこか苦しげな千方火はハナを投げ飛ばした。

 最低値固定HPにダメージ極大増加効果。地面に叩きつけられれば即死だった……が、ただ前方に投げられただけだったのでそうはならなかった。

 が、浮島の外まで投げられてしまった。


(落下死狙いかい!)


 位置取りを怠ったという意味やその死に様から、死にゲーマー的にはもっとも情けないデスの1つである。

 千方火は明らかに、意図的に、ダメージよりも落下死狙いで“投げてくれた”のである。


「冗談じゃ……っ」


 手を伸ばそうが落下を制御しようがどうにもならない放物線だったが、ハナはあるコマンドを念じた。

 途端、身体に重なる調子で鎧袖が召喚された。

 鎧袖、装着。


「ないんだけど!」


 鎧袖、脱着。

 むしろ脱皮というべきか、都合の良い足場兼乗り物を捨てたというべきか。

 ハナは鎧袖を蹴り抜くことで擬似的に空中ジャンプし、浮島の端ギリギリまで転がり込んだのだった。

 鎧袖はヒュルルルとどこか哀しげな風切り音とともに魔物の海へ落下していったが、気にするべくもない。


 ーー 鎧袖 大破 装着不能 ーー


 強いて気に留めるなら、同じ復帰技は2度使えないということだ。


「ーーーー

 ーーーーゥゥゥ……!」

「と思ったら遠距離でも使ってくるし!」


 どうやらブレスこと『黒死の嗚咽』と『開眼』はセットらしい。黒い炎でまた剥がれた鬼火手たちの向こうから、あの目がまた遠く見つめてきた。

 反撃に転じようとしていたハナは、つまみ下ろした市女笠で視線切りしながら回避に徹した。


(このままじゃマトモに殺し合えないわね。……それじゃ、検証の続きといきますか)


 そう、確固たる意志を以て回避に徹しはじめたのだ……。

 ーー 往生(REVERSE) ーー

 ーー 稀人が落命すると、直前に訪れていた場所にて生まれ直す。敵と戦っていた場合、相手は全回復する ーー

 ーー 死により放出された強い霊気が宿ることで、人でも魔でも戦闘前の状態へ巻き戻る。心が折れない限り稀人が勝つまで終わらない、その呪いじみた想念が時空をも再生させるのだ ーー

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