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4-2「効目」

 『連撃』とは攻撃を連ねるもの。

 一繋ぎのものに見えても一撃一撃は切り分けて考えることができるため、そこには見切るべき呼吸やリズムがある。

 対して『多段攻撃』はあくまでも一撃の中に多数の攻撃が在るもの。

 まったくの同時かそれに近いフレーム数で多段ヒットが発生するため、呼吸やリズムを見切るもない。

 一撃をいなしたとて、同時に襲いくる他の一撃たちに圧し潰されてしまうのだから。

 ソレをいなそうというのなら、せいぜい6フレーム(0.1秒)以下の刹那でパリィを複数回成功させなければならない。

 しかしハナは、そんな理論上の芸当をついさっきから成し遂げていた。


(我ながらよくパリィできてるわね、っと……!)


 千方火の腕を蹴り上がって空中へ、顔面を斬りつけながら側面へ退避。


(見た感じ、完全同時に多段ヒットが発生してるわけじゃない……1フレームごとに1ヒットってところかな)

「ーーーー

 ーーーー……!」


 尾のほうへ走りながら胴体を撫で斬り。するとチャージタックルをかましてきたので、早めのバックステップで避けるとまたダッシュ。


(いける。1フレームごとに1パリィすれば耐えられる)


 そんな理論上の芸当を……およそ机上の空論にすぎない勝利法を、ハナは大真面目に見出だしていた。

 テレビゲームでは無理な芸当でも、これはフルダイブゲームなのだから。

 コントローラーのボタンを押すという数フレームの入力ラグも無い、脳波の電子世界なれば。


(リアルのあたし、脳に負荷かけすぎて鼻血とか出さないでよね……!)


 ある剣士は、完全同時に三方から剣戟を放つことで燕をも逃がさない秘剣を究めたという。

 まだまだ若輩者のハナにそんな神業は無理でも、1フレームずつの余裕があるなら三撃でも四撃でも食らいついてみせよう。


(パリィより回避中心で! 悪いけど、尻尾のほうからチクチクやってくわよ!)

「ーーーー

 ーーーー……!」


 ハナは隙を減らした小ジャンプで尾の左右を跳ね回りながら、斬り払いを連ねていった。

 ドラゴン型のボスは後ろ足と尾を狙え。死にゲーで相対してきた分かりやすいドラゴン型ではないが、骨格は近かったので試す価値はあった。


「ーーーー

 ーーーー!」

「ほらどうしたの! 踏みつけとテールスイングだけじゃ、簡単にパターン入るんだけど!?」


 踏みつけとテールスイング。現に千方火は、その2種の攻撃に傾倒していた。

 回り込む位置取りにハナが徹しているため、手刀の背面斬りなどは最適解にならなかったからだ。

 もっとも、尻ばかり狙うプレイヤーには正面攻撃より苛烈な反撃手段が備わっているのもセオリー。

 踏みつけには、広範囲かつ当たり判定が数瞬持続しているらしい衝撃波が付与されていたし……、

 テールスイングも、あの正面からのサマーソルトに比べたらほとんどノーモーションで発生していた。

 ハナが今までのボス戦よりも回避に徹しており、かつ回避系のパッシブスキルをガン積みしているからこそギリギリ避けられていたのだ。


(パターンで殺すのは正攻法じゃなくても卑怯じゃない。そうさせるだけの強敵なら立派な突破口だし、そうできるだけの余地が強敵にあるのが悪い。……けど……)


 斬って、ジャンプ回避、ついでに斬り払い。

 斬って、

 ジャンプ回避、

 ついでに斬り払い。


(……けど、これだけじゃないでしょ?)

「ーーーー

 ーーーー……!」


 しかし千方火もさるもの。およそ飛べそうにはない翼に黒い輝きを発したかと思うと、低空飛行とともに翻ってハナへ向き直った。


「ーーーー

 ーーーー……!!」

「っ、と、と、と……!」


 左腕で地を握り込んで巨体を安定させ、上半身ごと投げ出す調子で右腕の手刀連斬。

 一見すると猛獣が腕をぶん回しているだけのようでいて、鬼火手たちによりノコギリと化した刃を正確無比に叩き込んできた。

 ハナは最小限のパリィとともにステップ回避を繋げた、

 が、千方火が右腕を引いたと同時に別方向からの刺線も捉えた。

 それは二又に分かれてハナの左右を貫く刺線だった。

 千方火の体躯を支えていた左腕が、右腕と入れ替わりに突き出されてきた。

 その手刀が二又に裂け、刺股よろしく掴みかかってきたのだ。


「掴み攻撃は無理ッッ!」


 危うく真っ向からパリィしかけたハナは、らしくもない後方ローリングを連打した。

 直後、手刀に掴まれた虚空は破裂音が鳴るほど握り潰された。


(掴み攻撃……この手のゲームのお約束通りなら、パリィもガードも不可。ひょっとしたらパリィくらいはできるかもだけど、この土壇場で検証するわけにもいかないし!)


 事後モーションの大きな隙めがけて千方火の肩を斬り、背面へ回らせまいとスライド移動し続けるカノジョと引き続き凌ぎ合う。

 掴み攻撃。

 それはいわばパリィの天敵。

 ガード偏重のプレイヤーを制裁せんが為にえてして発生が早く、『吸い込み』と呼ばれる見た目以上の広範囲ヒット判定を持つことも多い。

 その代わりに事後モーションの隙が大きい……というのは千方火の刺股掴みを見てもそうだったが、肉薄するのが基本スタイルのハナには相当なプレッシャーだった。


(やっぱこのゲームにもあるかあ……! よりにもよってこんな時に初遭遇なんてね!)


 このゲームには掴み攻撃が存在する、と認識したからには。

 放たれる攻撃がパリィ可なのか不可なのか、この目で見抜くモノがまた増えてしまったではないか。


「無いわけないって……思ってたけどッ!」


 だからこそハナはいつものように、その死闘感に目が醒めつつあった。

 ……ただ、それはまだ怜悧な眼差しを含んでいた。


(……『多段攻撃』に『掴み攻撃』……今までのボスに比べたらたしかに多彩だけど、本当にこれだけ?)


 否、その疑問はハナの中でほとんど確信めいていたのだ。


(見せてよ。もっと、その姿にふさわしいバケモノらしさを)


 他のボスでもできるような、ただ多彩なだけの『獣』であるものか。

 あってはならない。

 こんな地獄までようよう導かれてきて、ハナはまだこの“龍”の……いや、“カノジョ”の彼女らしさをまだ1つとして視ていないと感じていたのだ。


「しッッ!」

「ーーーー

 ーーーー!?」


 猛撃を掻い潜り、ハナは千方火の胸へ順逆の袈裟斬りを抉り込んだ。

 すると。相当数のダメージを受けたはずの千方火は、はじめて堪えきれないようによろめいた。


「ーーーー

 ーーーー……?……!」

(きた……! 何か、くる!)


 千方火が頭部を抱え込みながら身悶えした。あまりにも隙だらけだったが、ハナは追撃せずに連続バックステップで離れた。


「ーーーー

 ーーーー……ァ……ァ、ゥ、ゥゥゥゥッ……!」


 それは、鐘の音に似た慟哭だった。

 直後。鬼火手たちに塞がれた千方火の顔から、黒い輝きが吐き出された。

 【フルダイブデバイス】

 脳波と電子の海を接続し、五感全てで電脳世界へ没入できる(主にゲーム)機器。物質的な肉体のくびきから解放されるため、リアル以上の身体能力や知覚を発揮可能にデザインされた世界も多い。

 脳波に負荷がかかりすぎるアクションを実装しないよう、法令によってソフトウェア毎にリミッターが施されている。けれどもそこは『認識』こそ力となる世界なれば、自己を強く認識できるプレイヤーはプログラムの理論値をも超えてしまうという。

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