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3-6「タクティカル・エスピオナージ・シセン」


  ◯ ◯ ◯ ◯


『扶桑城への潜入。それは一部の稀人たちを熱狂させてやまない、金策の1つでございます』


 さめ兜の傾奇者。攻略動画チャンネル『まれおう物解録』の管理人トセが、Zi砂金の詰まった超巨大袋へクッションよろしく腰掛けた。


『クラフトや素材売買などでコツコツ稼ぐ、セオリー通りの金策とは比べ物になりません。それはまさしく一攫千金の夢にございます』


 注目を促して立てた指は、いつの間にやら、内緒話を共有する調子で彼女の口元に。

 巨大砂金袋に並ぶ大きなウィンドウが現れた。

 映されていたのは、嘲笑うかのような細月に照らされた扶桑城だった。


『かの城の天守閣にはなんと、Ziジパングが湧き出る秘宝『じあくほうと』が納められているのです』


 トセは手を伸ばし、城の天守閣へちょんと触れてみせた。

 すると、城のウィンドウの後ろから別の1枚がひょいと顔を覗かせる。

 それは天守閣の中らしき高台のスクリーンショットだったが……、

 中央に見える祭壇には、大小2つの四角いシルエットがモザイク処理とともに納められていた。


『他の金策とは違い、元手は一切不要。身一つあればいつでも潜入可能であり、どんなアイテムもスキルも必須ではございません』


 チラ見せに留め、トセは秘宝の姿を引っ込めた。


『ただしお気をつけくださいませ。城内は警備隊や罠に守られているうえ、城主自らが張った結界により鎧袖が装着できなくなっております』


 天守閣の様子の代わりに、城内の様子を広げ……、


『つまり…………いえ、やはりこの先は皆様ご自身の目でご覧になっていただきましょう』


 ……広げようとした城内の様子は、いくばくかも捉えきれない一瞬で引っ込められた。


『なればこその『大博打』でございますから』


 トセは巨大砂金袋のクッションから立ち上がった。


『捕らえられれば凄まじい罰金が、そしてその罰金も払えなければ更に恐ろしい刑罰が待っておりますが。自己責任の下でご挑戦くださいませ』


 粛々と、粛々と、一礼を捧げたのだった。


  ◯ ◯ ◯ ◯


 城郭内の庭園へ踏み込んだだけでも、配置が変わった武士や忍者の刺線がハナを貫いた。


「怪しい者じゃないわよー。ほら、ここの庭園は拝観自由って書いてあるんだけど!」


 ハナが大声なんか出すとさらに多くの視線&刺線に注目されたが、職務に実直らしい警備隊は何を言い返すことも無くまた周囲を見渡しはじめた。

 『城主莢心が手ずから造園した』云々の案内板に寄りかかりながら、ハナは敷き詰められた庭石の向こうを見つめ続けた。

 警備隊が規則的に視線を回すたびに、彼方からだろうと風来姫が視界に捉えられる。その証拠に、ほとんど死角無く数本以上の刺線が飛んできてはまた消える。

 ハナはそれを視つめ続けていた。


(音にも反応するし、視線が通っていれば視認距離はかなりあるみたい。『デーモンゴアソリッドⅤ』の敵兵並み。ⅠからⅣまでは至近距離しか見えてないおバカ兵だったのに、Ⅴだけ死にゲーレベルで視力良かったのよねー)


 そう、目視では警備隊の視線の全てを捉えきれない。ほとんど死角は無いのだ……。

 目視では。

 我が身を貫く刺線たちが、ふと、1本も無くなる瞬間があることにハナは気づいていた。


(はいここ、そこ、よっこいしょっと……!)


 そのタイミングに合わせて庭石たちの陰へ跳び渡っていけば、警備隊の視線なんかまんまと掻い潜っていけたのだ。

 彼らの動きは寸分違わず規則的。ランダムに巡回するタイプのAIではない。なればこそ、そこに視えるパターンを信じれば恐るるに足りなかった。

 そうしてあっという間に、城内へ繋がる物置へ滑り込んだ。


(ステルスなんてホントはガラじゃないんだけど)


 身を屈めた風来姫は、ほんの少しだけ隙間を開けた扉越しに城内を窺った。


(うわ。いくらなんでも厳重すぎない?)


 黒柿の木材がふんだんにあしらわれた内装。武骨な美しさを感じる廊下や座敷に、屋内であるぶん密度を増した警備隊が多いこと多いこと。


(それに、巧く隠されてるけどトラップだらけ)


 かすかに浮き上がった床板、壁の木目に潜められた射出口、天井から張られた絹糸。いわゆるブービートラップな仕掛けの数々がむしろ警備隊より多いこと多いこと。


(『ダークソイル』のサウザン古城思い出しちゃったじゃない。振り子ギロチンの橋、火炎放射の石像、転がる岩の階段……)


 巧妙に隠されているがハナは騙されない。人間心理を突いた死にゲートラップに煮え湯を飲まされてきた経験が、城内の様子を即座に看破させていたのだった。


(……こういうトラップって、守ってる方もメンドくさかったりしないのかな)

「しかし、城を守る罠が毎日入れ替わるのは面倒だのう」「うむ」「覚えるのが難儀するわい」

(ホントにそうだったんだけど)


 警備隊が規則正しい巡回の中でこぼし合っていた。


「四鬼事変の後、莢心様は城の守りに厳しくなられたものだ」「であればこそ、天守閣の秘宝は他所へ移せられんのか?」「アレは要なのだとか」「あそこに納めねば城を守る結界とやらが機能せんらしい」「ははあ。我々には結界だの法術だのはとんと分からんなあ」

(あっちのトラップを避けてたらそっちの警備に見つかって、こっちの警備を避けてたらどっちのトラップも踏むしかなくて……あーもーメンドくさいんだけど)


 数多のトラップの合間を縫うように彼らは歩いている。それはつまり安全なルートを占有しているのに近い。

 必要最低限のリスクで突破できる道のりをハナは思い描いてみたが。警備隊の巡回ルートがそこかしこで重複しているのを鑑みるに、生半可に掻い潜るだけでは己の逃げ道を潰していくだけ。

 結局はトラップ迷路の袋小路へ追い詰められ、背中を斬られてしまうだろう……。


(……行く?)


 ーー 『無銘刀』(打刀) ーー


 ハナが腰の打刀へ手を添えれば、薄目を開くように白刃が覗いた。

 ーー 『馬車馬の車輪』(装飾品) ーー

 ーー 投獄された稀人が罰金を支払いきれない場合に課せられる首枷。鎧袖状態を含む全ての能力値が3割低下し、課せられた償いを終えるまで装備解除できない『車輪引きの償い』が発動する ーー

 ーー どこぞのものとも知れぬ馬の骨で組まれた車輪。異界では車輪こそが罪の赦しの象徴であるという ーー

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