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2-4「沼と寺と何か」

「かき捨ての竹林で、餓鬼に囲まれてた僕を助けてくれたじゃない! ま、まあ結局死んじゃったけどさ……あはは……でもあの時のきみがスゴくカッコよかったから、ガンバろうって気になってチュートリアルもクリアできたよ!」

「あー……はいはい、そういえばなんか助けたっけ。あんまり覚えてないけど」


 戦いに集中していたから印象に残っていないと言うべきか。


「そ、そうなの? でも僕はあんなの忘れられないよ! 城下町の対人決闘場見に行ったんだけどきみくらいスゴい侍はいなかったし、勧誘してきた同盟の人たちもきみの話題で持ちきり! あ、そうそうこの辺りって春隠の地でもけっこう奥地らしいんだけど、素材ツアーっていうの開催してた人にファストトラベルさせてもらったんだ! おかげできみに会えたから参加してよかったよ!」

「……あー、うん……そう……」


 ……距離感も近いしいちいち騒がしいし訊いてもいないことまでベラベラ喋って自己完結しているし、今ならもれなく悪い意味で印象付きそうだ。


「あの時はお礼も言えなかったけど、ありがとう! こうやってまた出会えたのも縁っていうか運命だと思うんだよね、フレンド申請送っていい?」

「っぅー…………パーティは組まないしチャットもしないし同盟にも誘わないっていうならいいけど」

「えええ!? それフレンドの意味無くない!?」


 正直、ハナこと看谷 英子には苦手すぎる距離の詰められかただった。


(一期一会の縁を大事にしろってお母さんに言われてるけど……悪い人じゃないんだろうけど、ソロ専拗らせてきたあたしには苦手なタイプ)


 目元を揉んだハナには、鞭のようにしなる刺線刀刃が絡みついていた。

 慈しむ調子でマフラーのような有り様を見せているが、だからこそハナには殊更重かった。


「悪いけどあたしソロ専なの。……なんかこれ言った気がするけど。フレンド機能も身内との連絡手段ぐらいにしか使いたくないから、そう、あたしとフレンドになっても意味無いと思うんだけど」

「う、ううんそっかあ。きみが困っちゃうなら……あっそうだ、じゃあフレンド関係無しに友達になろうよ!」


 ハナは急激にログアウトしたくなってきた。


「いや、だからさあ。べつにいいけどあんたさあ……」

「とりあえずお礼させて! この八尺沼にいるってことは『アメの結晶板』を集めに来たんだよね? 僕も攻略サイトで見たんだよ、装備の『変幻』化に必要な素材だって」


 ハナにはもはや雑音の羅列にすぎなかったが、よく分からないことをのたまった少年は意気揚々と沼の縁に立った。


「ほらあそこ! きみってラッキーだね、あんな近くに落ちてるよ!」


 彼が指差した先では、沼に呑まれていない石畳の残骸たちが足場となっていて。ジャンプしても届くだろうかと心配させる絶妙な間隔を空け、寺の回廊の先端へ続いていた。

 そして、一番最初の足場の上に。何かが落ちていることを示すキラキラのエフェクトがあった。


「見てて!」


 少年は鎧袖の跳躍力でジャンプした。

 それは生身の跳躍力と別段変わらないように見えたし、沼の縁での踏み込みが甘かったので最初の足場へ届くか微妙な軌道で。

 しかし鎧袖の足が霊気を発し、彼は二段ジャンプした。


「あっ、あああ」


 そして、足場を越えすぎて沼ポチャした。


「あぐるふッッ」


 ーー 猛毒(Toxic) ーー


 すると、足を突っ込んでしまった汚濁が黄色から赤へと変色。数秒足らずで少年の頭上に刺々しい筆文字が躍った。


「あああ待って!? 猛毒!? ただの毒じゃないの!? ていうか足がうまく動かな……!?」


 ーー 鈍足(Slow) ーー


 足場に上がろうとした彼は、汚濁が足に粘ついてウソみたいに鈍足だった。


「毒消し飴しか持ってないけど消せ…………ない!?」


 ようやく這い上がって毒消し飴を何個も頬張ったが効果無し。顔色がみるみるうちに悪くなっていったし、なんと鎧袖まで腐食していって兵装や装甲がパージされていった。


「ま、待って待って待ってよお! そうだ『アメの結晶板』……ごっふっっ……」


 彼が拾い上げたキラキラが、祟来無型の半透明の板に変わった。……ハナの元へ跳ぼうとしたが紫色の顔で白目を剥いた。


「助け……………………」


 足場から毒沼へ倒れ込んだ少年は、散りゆく霊気となってデスしてしまったのだった。

 彼の手からすっぽ抜けていた『アメの結晶板』だけがヒュルルと宙を往き……ハナはキャッチしたのだった。


(さてと。死にゲーあるある通り、移動速度にデバフがかかるみたいなんだけど。そして鎧袖なんか着てたら余計に着地しにくそう、と)


 気を取り直して。何に使うかも分からない結晶板だったがインベントリへ突っ込むと、ハナは前へ踏み出した。


(要するにアスレチックステージね。あーヤダヤダ、目的地は見えてるのにそこまでのルートが遠回りしまくってるヤツ。『コードヴァンプ』の青ざめた血の聖堂思い出すんだけど)


 足場を踏破して寺へ上がったとしても、崩れた回廊はますますの難易度でキャラ(キャラクター)コン(コントロール)の腕前を試しているようだ。いくつかの御堂を大回りに経由しなければ本堂にたどり着けない、蛇行しまくった攻略ルートが見てとれる。


(律儀に付き合う気も無いけど)


 というわけで、ハナは足場へジャンプせずに毒沼へ直進した。


 ーー 鈍足(Slow) ーー


 1歩踏み込んだ先から汚濁は赤く怒り、草履がろくに動かせなくなった。


 ーー 猛毒(Toxic) 無効 ーー


 が、ハナは健康優良なままでえっちらおっちら歩いていった。


(あたしには、状態異常ほぼ無効の『魂源の篭手』があるんだけど)


 ーー 『魂源の篭手』(腕装備) ーー

 ーー 『発狂』以外の状態異常を無効化する。ただし装備防御力が極めて低下する ーー


 火が逆巻くような牛皮を鞣したドレスグローブ風の篭手が、接ぎ目を赤黒く光らせて効果を発揮しているようだった。


「「「「コポアァッッ!」」」」


 となると残る問題は。ろくに回避行動の取れない鈍足の中、猛毒沼の汚濁と同化して襲いかかってくる祟来無たちで。


「だから! 刺線がバレバレなんだけど!」


 ーー 弾殺(Parry) ーー それも問題無い。波紋1つ立てない奇襲でも、刺線が視えたハナには避けるまでもなく迎え撃てたのだった。

 ーー 『魂源の篭手』(腕装備) ーー

 ーー 火が逆巻くような牛皮を鞣した、しなやかな篭手。失われし神器の剣を求め続ける、稀人狩りの残影 ーー

 ーー 兵器として用いられた火牛の皮を供養の為に接いだ物だが、かき消えることの無い怨念が未だ宿っている。その呪いの強さがゆえに状態異常の類いは寄り付けず、代わりに小石が当たるとて猛牛に打たれるような痛みに変わる ーー

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― 新着の感想 ―
[一言] 俺もソロ派だからハナの気持ちも痛いほど分かる。ああ言う奴は苦手だしうざったいよな、正直消えてくれて清々したわ!それにしてもまたデスするとか鈍臭いやつだな、多分また会ってもすぐ死ぬだろうなそう…
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