表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/254

2-3「八尺堂」


  ◯ ◯ ◯ ◯


 光射す方へ樹海をさらに歩いていく。


(最適解とかSP管理とか、あたしにはやっぱ合ってないんだけど)


 というわけで、最終アクティブスキル《五輪来光》まで伸びたスキルラインをリセットした後。


(というわけで完成だけど。ノーアクティブスキル、パッシブスキルオンリー、ステ上げ極振りビルドよ)


 ご満悦に口の端を吊り上げたハナの前には、本筋を一切無視したスキルツリーが表示されていた。

 ポイントの限り、ステータスの底上げや永続効果へ全ブッパしたのである。


(『武器攻撃力増加』と『回避性能向上』を最大強化。もうこれだけでもいいんだけど、余ったから『取得Zi増加』と『遺物発見率増加』も上げられるだけ)


 金を手にしたところでもはや鎧袖のカスタマイズに注ぎ込む気は無いが、必要に迫られたらアイテムぐらいは買うかもしれない。

 それと鎧袖のみならず生身での装備も敵の素材で強化するようなので、今のところ力不足は感じていないもののドロップ率上昇を付けてみた。

 ハナは多重ウィンドウをまとめてスワイプ消去した。


「コポォッ……!」

「ふんすッッ!」


 多重ウィンドウに隠れていた目の前。ちょうど射程圏内へ到達していた祟来無へ、スキルではなく自前で両断の一刀を叩き込んだ。

 スキル振り直し前と同じく、刃は祟来無ボディの弾性に包まれて……、


「ポッコァッ」


 しかし爽快にぶっちぎり、今度こそ両断せしめたのだ。


 ーー 受動技(Passive Skill) ーー

 ーー 『武器攻撃力増加』 ーー


(うん、確かに強くなってるみたいだけど。っと!)

「コッコポッ」「コプュルッ」「ポュコッ」


 次いで両脇の草むらから刺線……飛びかかってきた数体の祟来無を、前へとローリングして回避。

 一瞬の浮遊感さえ覚えるほどの、しなやかな身かわしだった。


 ーー 受動技(Passive Skill) ーー

 ーー 『回避性能向上』 ーー

 ーー 回避距離 増加 ーー


(うんっ……軽い)


 宙返りとともに着地。と同時に、祟来無たちは刺胞の乱れ突きを放ってきていた。

 直撃までは一瞬の猶予だけあって……、

 そう、一瞬の猶予だけあればハナには回避可能だった。

 つま先が着地した瞬間には、次の回避へと足を捌けていたのだから。


 ーー 回避後硬直 減少ーー


 スウェイ、

 ステップ、

 スピン。

 刀身1本ほどの余裕しかない間近に、ハズれた刺胞が吹き抜けた。


(うん! 戦いやすい!)


 ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 致命(Fatal Hit) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 致命(Fatal Hit) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 致命(Fatal Hit) ーー


 廻る、風来姫と打刀。


「コッ」「ポ、コ」「コゴゴ……!?」


 刺線の針筵をいなして貫き、全ての祟来無たちをぶった斬ってみせたのだ。


「ふふん! ざまーみなさいっての!」


 かくして、消滅していった彼の者たちから湯葉のような繊維質がドロップしたのだった。


 ーー 祟来無の瘡蓋かさぶた(素材) ーー


(『ダークボーン』のローリング回避、『ブラッドソウル』のステップ回避、『コンゴウ』のスウェイ回避。やろうと思えばどれもできるわね)


 つまみ上げた祟来無の瘡蓋は自動的に巾着インベントリへ。


(やっぱりアクティブスキルなんていらないんだけど。攻撃・回避・ガードがあれば十分ね)


 そしてハナは、樹海の切れ間の向こうへ歩み出た。

 枝葉の天蓋に阻まれなくなった陽光が、市女笠の間隙から目を眇めさせた。

 ……あのかき捨ての森から笛塚の湖へ脱した時ほど、清涼な景色ではなかった。

 一面の黄ばんだ沼地と、そこに沈みかけた廃寺の荒れ様だった。


 ーー 八尺堂 ーー


(八尺堂……? 沼にお寺が沈んでるんだけど)


 ハナはマップウィンドウを開いた。

 現在地を示す光点と目的地を示す鬼火マーカーとがまもなく重なりそうだ。

 千方火の導き先はココ……厳密にはあの寺の中で間違いない。

 いくつもの御堂や舎利殿が回廊で繋がれていたらしい、ずいぶんと大きな寺である。黒檀を基調とした佇まいの中で腐食しかけた螺鈿飾りが煌めいている。


「コポココ……」「ポ、ッ、コ」「コゴッポ、ゴ」


 粘ついた水泡がそこかしこで弾けているかと思うと、その一部は祟来無たちが浮き沈みしている様だった。

 概ね沼の中心で遊んでいる彼らは、カラダを伸ばしてハナを視認するような素振りこそ見せたが近づいてはこなかった。

 つまり沼の中心である寺へ近づくほどに、多くの祟来無と相対しなければならないようだ。


(見るからに毒沼なんだけど。入ったら毒にかかりそうなのは当然として、死にゲーあるあるだと……)

「あっ! き、きみは……!?」


 と。年若い男声がハナの思案に割り込んだ。

 振り向けば……、

 鎧袖を装着した蕗下族の少年が、樹海の中から現れていたのだ。

 からくり師のようである。和洋折衷のスチームパンクな着物をはためかせ、ハナの前までドドドと走ってきたかと思うと興奮気味にゴーグルをずり上げた。


「やっぱり! あの時助けてくれた侍の子だよね! うわあ、うわあ奇遇だなあ!」

「……。……? …………誰?」

「えええ!? なんで!?」


 ハナは彼に覚えが無かった。

 ーー 八尺堂 ーー

 ーー 四鬼境のそれぞれに存在する蓬莱家ゆかりの寺のうち、春隠の地にあるもの。祟来無を産み出す猛毒沼の汚濁に大方沈んでいる ーー

 ーー 四鬼事変の前、ここには物質の生まれ変わりを司る尼僧がいた。その技法は各地の幻影技師に受け継がれたが、包容力溢るる彼女をこそ偲ぶ者は多いという ーー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ