表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/236

1-5「鎧袖の戦い方」

「イチ。ポーズ解除」

「まっ……たく……」


 何か言いたげだった背後の声が、しかしウィンドウの操作音を鳴らした。


「コ、マイリャアッ!」


 次の瞬間、一時停止を解かれた呪藁が真上へ跳び上がった。

 両腕を振り上げ、ボディプレスか打ち下ろしの構えか。

 対してハナは、再び、飛び出していた。

 ただでさえ高機動ビルドだった鎧袖は兵装を捨てたことでさらに軽量化され、風来姫を颶風がごとく突き進ませた。


「よッッ!」


 そしてハナは、カタパルトから射出される調子で鎧袖を脱ぎ捨てた。


「な……!? ちょっ、鎧袖まで外すなんて……!!」


 イチはきっとこう思っていただろう。煩雑な兵装を捨てるとしても、アーマー効果付きの自己強化装置として鎧袖を使う気だと。

 いいや、ハナにとっては鎧袖そのものだって余計なのだ。

 確かにステータス補正“だけ”は魅力的だが……、


(アーマーは要らない。感覚拡張も要らない)


 だって、


(そんなの、血の通った死闘感が無いじゃない)


 鋼のカラダに包まれて、ココロを甘く引き伸ばされて、真に血湧き肉躍るものか。

 だから、

 呪藁の真下へ滑り込むあと1手の加速装置として、せいぜい使い捨てさせてもらった。

 凶星じみて急降下してきた呪藁の両腕から、2本の刺線刀刃が時間差でハナへ刺さった。


「…………そこッッ!」

「イリュァガッ……!?」


 ーー 弾殺(Parry) ーー そしてハナは、剛腕のダブル叩き下ろしを2連パリィしてみせた。

 己の腕が発した膂力を丸ごと弾き返された呪藁は、空中制御なんかできずに大回転しながら墜落した。


「こんなデカブツでもできるものね……っと!」


 腹這いにノビた呪藁へ詰め寄り、頭部へ順逆の袈裟斬り。……妖気逆巻くそこから突き上げる刺線を感じ、3撃目の代わりに下段へ溜め込む。


「コギュリリッ……ッッガ!?」

「見え見え!」


 起き上がり攻撃。呪藁は起きながら頭突きを突き上げた……のだが、ハナの斬り上げパリィにいなされてエビ反りに。

 曝された胸へ刺突、刺突、刺突。キッと睨まれて呪藁の顔面から極太の刺線が突き下ろされ、彼の者の口元に妖気。


「イィィィリリリリィ……!」

「っと……!」


 すかさず跳び退くと口から妖気の砲弾が連射されたので、とっさに1つパリィしてみせると明後日の方向へ打ち返せた。


(見っけ。こういうのもパリィできるんだ)


 ほとんど零距離発射で爆風が凄まじかったため、連射の脇を滑り込んで呪藁の股をくぐった。

 通りすがりざまに呪藁の太ももを一閃。

 尻から刺線が出てきたので嫌な想像をした……が、放たれたのは背面狩りのヒップアタックだったので心置きなくパリィして尻餅を付かせた。

 背へ駆け上がる。

 叩き落とさんと回されてくる手を逐一パリィしながら、藁の肩甲骨を撫で切りにしていった……。

 そんな翻弄を見て、盟友たちが白熱した。


「やっぱり……!」「あの戦い方!」「笛塚のウシャナを倒した初心者だ!」「鎧袖もスキルもアイテムも無しでチャンバラしたっていうあの子!?」「そう! パリィ使いで……フェイタルヒット使いの剣豪ちゃん!」


 無論、死闘に集中しているハナはろくに聞いていなかったが。

 打ち鳴らす刃の響きに比べたら、外野の熱気なんて風鳴りほどのBGMに過ぎないのだ。


(人型ボスとの真剣勝負もいいけど……ああ、こういうデカいボスとの肉弾戦も……楽しいんだけど)


 弾殺(パリィ)。いかな強大な攻撃をも弾いて殺す、刹那の閃きのなんと目の醒めることか。

 ウシャナ戦の時点でハナは知らなかったが、パリィの受付時間は攻撃のヒット前6フレームだそうだ。


「リーダー!」「なんちゅう子とお友達で……」「ってイチさん!?」

「『金鬼符』、『水鬼符』」


 ハナがもしもよそ見をしていたら。2枚の符を霊気で燃やした彼が、鎧袖装着とともに飛び出したのが見えただろう。


 ーー 生命力 上昇 ーー

 ーー 武器攻撃力 上昇 ーー


 燃えた符は色違いの霊気となって彼の内へ取り込まれ、白い『冬』の字と朱い『夏』の字の残影を一瞬背負わせた。


「《虚空断ち》!」

「マ、ャ……!?」


 ーー 『隠鬼の証 ヤエヨロイ』(鎧袖主兵装(大太刀)) ーー


 青い輝きを纏った鎧袖用大太刀は、蛇腹状の装甲を重ねた風変わりな意匠。盾としても振るえそうな幅広の刀身を有する、西洋でいうところのブロードソードに近い業物だった。

 ただの飛びかかり攻撃にすぎないはずの一撃が霊気を纏って超加速し、呪藁の横っ面へ打ち込まれた。

 ソレは気力(SP)(を消費して尋常ならざる力を発揮する、(スキル)。高速接近効果を伴う剣技だった。

 接近効果がメインらしく威力へのプラス補正は無さそうだったが、瞬時に接敵せしめた彼は呪藁の敵視を引いた。


「……はあ、わかった。たまには死にゲー的にじゃなく狩りゲー的にスカッとしてほしかったが、きみが楽しいならそれでいい」

「そそ。プレイスタイルの違いなんだけど」

「きみの場合はほとんど縛りプレイなんだよなあ、っと《咆哮閃》!」


 イチが最上段に構えた大太刀が閃光を放ち、呪藁の目を眩ませた。


「コガガガガ……!」


 ーー 敵視(Hate) 上昇 ーー


 呪藁は苛立たしげに、背中のハナを叩き落とすよりも正面のイチへ暴れ出した。

 その場で回るとともに手足もぶん回した4連薙ぎ払い。


「『雨唄い』……ッ!」


 ーー 『鬼手仏師 雨唄い』(鎧袖副兵装(右肩)) ーー


 対してイチの鎧袖右肩から装甲が広がり、円環を成したソレは傘型のラウンドシールドとなった。居合の構えで地に突き立てた大太刀をも支えとし、彼は4連薙ぎ払いを凌ぎきった。


「《数え刃》!」


 鎧袖が軋んだ様を見るに無傷ではなく、あくまでもダメージ軽減のガードらしい。ただし攻撃が命中するたびに大太刀に霊気が溜まっていて、イチは反撃スキルとして呪藁へ居合斬りを見舞った。

 すかさず跳び下がると同時、左脚部兵装から細かな何かが散布された。

 追い縋ろうとした呪藁の鼻先で爆発したソレらは、落花生に似た爆弾だった。


 ーー 『鬼手仏師 落火星』(鎧袖脚部兵装(左脚)) ーー


 威力は無いに等しい様子だったが、爆竹めいた多段ヒットには怯み効果があるらしく呪藁をたじろがせた。


「コゥゥッッ!」


 怯みから復帰したと同時、前へと飛び込んだ呪藁は羽虫でも叩き潰すような広範囲の掴み攻撃を放った。

 直後、イチは舞い上がる紅葉のエフェクトとともに消えていた。


「『紅葉下り』」


 ーー 『鬼手仏師 紅葉下り』(鎧袖脚部兵装(右脚)) ーー


 霊気の束が呪藁をすり抜けて背後へ回り、舞い降りる紅葉とともにイチは現れていた。


「はあっっ!」

「マィ、ッ……!?」


 ーー 奇襲(Stab) ーー ーー 会心(Critical Hit) ーー 爽快な回転斬りが呪藁の両膝裏を薙ぎ、大ダメージ。

 すぐに放たれたヒップアタックを大太刀のガードで受け止め、数歩分ノックバックしながらもイチは不敵に笑っていた。


「……なんか楽しくなってきたからこの際言わせてくれ。こうしてきみと肩を合わせてフルダイブゲーができて、俺は嬉しいぞ」

「ふうん。そんなことよりどいてほしいんだけど」


 キャラクリエイトの時に見た説明によると、職業『武者』は敵視を取って味方を守るタンクロールだったか。イチの奮闘のおかげで好き放題に呪藁の背を斬れていたハナは……、自分から飛び降りて彼の前に立った。


「あんたに守られてたら、良い死闘にならないじゃない」


 プレイスタイルが正反対だろうと、ハナだって最高に楽しく笑っていたのだ。


「……守りたいから『武者』になったんだがな」


 そう呆れながらも、イチは大太刀を地へ立てて臨戦態勢を解いた。


「コォォォォ……クゥゥゥ……マァァァァ……!」


 満身創痍に見える呪藁がハナたちへ向き直り、燃える形相に妖気を圧縮していって……、


「イィィィリリリリィ……!!」


 そして。先ほど見た砲弾のような妖気ではなく、極太の破壊光線として放った。

 ーー 鬼手仏師 ーー

 ーー 七大の鎧袖開発宮が1つ。派手な仕掛けで威かす兵装の数々は、しかし攻撃よりも支援に向いた堅実なモノ ーー

 ーー 赤黒く染まった手でからくりの腹をまさぐる師は、鬼と恐れられた。師が時折彫ってみせる仏はほんのりと油臭い ーー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あのさァ、ハナのネッ友かなんか知らんがこのゲームのセオリーは分かったがそれを押し付けるのやめてくれない?うざいよ(# ゜Д゜)彼女には彼女のセオリーがあるんだからそれにみんながみんなセオリー…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ