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1-2「鎧袖工房にて」

 そうしてたどり着いた工房は、一見すると大きな鍛冶屋といった趣だった。

 大火を祀った炉へ鉱石や妖素材が歯車仕掛けにくべられ、ベルトコンベアにて排出された時には鎧袖兵装の原形へ。

 それを、まだ小僧といっていい年頃のからくり師がプラモよろしく成形。

 次いで中堅らしいからくり師たちが歯車やピストンなどの内部機構を取付。

 これらの工程を、リアルではありえない超スピードでコミカルに完了させていった果てに……、


「おまえさん……初めて見る顔だな。稀人がまた、儂らの鎧に袖を通しに来よったか」


 眼帯を着けた刀匠が鎚を振り下ろせば。高周波ブレードでも高射砲でも、入魂されたかのように完成するのだった。


「スキップ」

「はあ? なんじゃい『すきっぷ』とは」

「ハナ……。NPCでも人との会話はスキップできないって」

「連打早送りも?」

「無いよ」

「千方火はチュートリアルスキップしてくれたけど」

「たぶんよくわからないままきみの圧に押されただけ。彼らはあくまでもこの世界の住人なんだ、システム的なこととかメタ発言は理解されないよ」


 ハナはNPCとの与太話は聞き流して取引メニューだけさっさと表示してほしいタチなのだが、そう言われたら仕方ない。


「そうなんだ。ごめんねお爺ちゃん、スキップのことは忘れてほしいんだけど」

「よくわからんが稀人にもいろいろおるからの。異界より参りて冥府魔道の妖を倒さんとするなら、儂らも……」

「というわけで与太話はおいといて、鎧袖っていうのちょうだい」

「けっ。ずいぶん生き急いだ小娘じゃの」

「スキップって言ってるようなものなんだよなあ。すみません」


 ハナは所持Zi(ジパング)のウィンドウを提示した。


「いくら?」

「まず骨組をくれてやるが、コレに金は要らん。城主様の御意向じゃ。この扶桑国(ふそうのくに)は星辰の流れから見ても稀人と縁深い、おまえさんがたが喚ばれる最初の地として儂らも……」

「だからそういう与太話はいいんだけど。お爺ちゃん人の話聞いてる?」

「鎧袖一丁ーーーー!!」


 刀匠は会話をスキップしたようだ。弟子たちが元気良く返事をしたと同時、床下から鋼鉄がせり上がった。

 装甲も兵装もカラーリングも無い鎧袖だった。

 コレだけ見るとなんだか貧相なほどだ。ハナよりちょうど一回りだけ大きな背丈と体格をしている。


「おお。なんかあたしにピッタリってサイズ感なんだけど」

「儂らにかかれば、姿を見ただけで肉の付き方まで分かるからな」

「気持ち悪いこと言わないでほしいんだけど」

「ほら、リアルな会話を楽しめるのもフルダイブの面白さだろ」

「このタイミングで言うことじゃないと思うけど」


 ハナがさっそく乗り込もうとしてみたところで、刀匠が鎚を向けてきて制す。


「そのままじゃ畑仕事の役にしか立たんぞ。魔物の素材と金を出せ、兵装を積んでやる」

「餓鬼の角とか腹膜ぐらいしかないけど」

「新顔ならその程度じゃろうな。金だけで用立ててやれるものもあるから安心せい」

「じゃあよくわからないけど、コレで買えるのを高い順から見繕って」


 ハナは所持Ziウィンドウから全額引出しを実行した。

 すると地響きめいた音とともに、力士でも隠れてしまいそうな大きさの砂金袋が傍らに現れたのだった。


「まだこの世界の金銭感覚が分からないのよね。キドーとウシャナっての倒した時にけっこう貰ったと思うけど」

「……新顔の持っとる程度じゃあないな」

「『うぶめのお守り』で取得金2.5倍か……初日で上級者並みに稼いだな」


 さてハナは、刀匠が展開してみせたウィンドウ越しに鎧袖のカスタマイズを始めるのだった。

 ……数分後……。


「うん。こんなとこかな」


 ハナが手を触れたそこには、自分なりに誂えた鎧袖が立っていた。

 白刃を思わせるモノトーンなカラーリング。

 装甲は厚さの防御力よりも受け流し性能に特化した超軽量級。


 ーー 『斬魔房 白蛇二式・改』(鎧袖装甲) ーー


 両脚の兵装はパイルバンカーを膝と靴裏に仕込んだジェットブースター付き具足。


 ーー 『浪漫嵐 皿割り』(鎧袖脚部兵装(両脚)) ーー


 右肩には馬でも軽く一刀両断できそうな鎧袖用大型打刀。


 ーー 『斬魔房 無頼刀・玄』(鎧袖主兵装) ーー


 左肩にはショットガンを大砲にしたような散弾発射装置。


 ーー 『灰ノはらわた 撃銃丸』(鎧袖副兵装) ーー


 総じて、高機動近距離型のビルドだ。


「ハナ。弾は無限なんだし、せめて中距離対応の飛び道具は積んどいたほうがいいんじゃないか。ショットガンじゃなくて」

「どうせ突撃するもん。イチがああだこうだ言ってたとおりにカスタムしてたら器用貧乏になりそうだったんだけど」

「万能型と言ってくれ。最初のうちはそれでいいんだよ、いざボス戦となったら相手に応じて特化させればいいんだ」

「メンドくさ。そういうところがあんたとはプレイスタイルが違うのよね、あたしはいちいち戦い方変えたりしないし」


 例えば死にゲー『ダークソイル』にて。属性攻撃しかロクに効かない『暴食ドラゴンゾンビスライム』という中盤のボスがいたが、ハナは愛用の直剣の中で属性付きのモノを持っていなかった。

 どうしたか。その一戦だけわざわざ武器種を変えて使い勝手が違ったり、ロクに持続しない属性エンチャントアイテムをしこたま用意するのは考えるだけで面倒臭かった。

 よって、小一時間以上もかけて存分に死闘を楽しんだのだった。

 『ロクに効かない』だけで『無効』ではない、普通に斬り結べたのだから何を臆することがあるだろうか。

 その話をイチたちゲーム仲間にしたら呆れられたものの、ハナは楽しかったのだからそれこそプレイスタイルの違いである。

 ハナだって使い勝手の変わらない同じ武器種なら有効属性を考えたり、特定のアイテムが無いとダメージが通らないといった手合いならその用意はするのだから。べつに無理ゲーがしたいわけではないのである。たぶん。

 ーー Ziジパング ーー

 ーー 逢魔時による崩壊後、日芙で流通されはじめた通貨。砂金の重さによって価値が決まる ーー

 ーー それまでの通貨は残らず妖の腹の中。あるのは今や、逢魔時の象徴とも言える金色の残滓のみだ ーー

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