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10-2「ゲーム同好会」


  ◯ ◯ ◯ ◯


 放課後。

 ほとんど使われることのない『郷土資料室』のドアには、使い古された貼り紙があった。

 【ゲーム同好会】、と。

 ただし下部には『生徒会非公認 会員“非”募集中』と潔く追記しながら。


「エンドカード。最後のお題な」


 両脇の書棚と中央の長机だけで埋まった、細長い室内にて。

 進行役を兼ねて長机の短辺側に着席した村鞘が、山札から捲ったカードを提示した。


「『【廊下】。ぬりかべが道を塞いでいる』。さあどう切り抜けるか、使用アイテムカードは2枚」


 というようなストーリーテリングに対してプレイするこのボードゲームは、『ラット&チョコレート 妖怪屋敷編』。


「あたしは勝ちね。ぬりかべっていっても要は分厚いだけの石壁でしょ、『フライパン』と『開かないアタッシュケース』で100億万回叩いて穴を開けるっと」

「『✕』だな」

「『✕』ですわ」

「『✕』だね~」

「なんでよ!?」


 配られる“無理難題”感漂うアイテムカードを組み合わせ、口八丁手八丁でピンチを切り抜けるトーク型遊戯だ。

 村鞘ともう2人のプレイヤーが、うちわの片面に書いた『✕』を上げた。


「『雨垂れ石を穿つ』って言うじゃん! 50年くらいあったらいけるんだけど!?」

「泥臭すぎる! ピンチをスマートに切り抜けるゲームなんだっての!」

「にょほほほ……英子さんたらブレまへんわね。次はウチがいったりますわ」


 と。2番手に名乗りを上げたのは、関西弁と令嬢弁が混じった口調。


「『脚立』アァァンド『チョーク』!」


 縦ロールの乳白金髪(ミルキーブロンド)をバレッタで留め上げた女子だ。ほのかに西洋のシャープさが漂う顔立ちに八重歯を覗かせ、そのスタイリッシュなボディラインと似て飾らずも自信満々に手足なんか組んでいた。


「なるほど。その心は?」

「ぬりかべと天井の間には隙間があったんですの。『脚立』で上がれるとこまで上がってから、『チョーク』を砕いた滑り止めを手ぇにつけてロッククライミングですわ」

「おー、合理的じゃないか?」

「ほな成功確率は、6面サイコロで1(ピン)が出た時っちゅうことにしますわ」

「ん?」

「ローール!」


 彼女はポケットから取り出した自前のサイコロをロールした、

 “5”が出た。


「でゃっっ……」

「『✕』ね」

「『✕』にするか」

「『✕』かな~」

「1/6にもう6回負けとりますわああ~……!」


 英子と村鞘ともう1人は『✕』の面を上げた。


「ツェツィさぁ、ルールに無いサイコロなんか振らなきゃいいだけなんだけど。いや振ってもいいけどアタリの確率もっと上げなよ」

「“賭け”の無い“勝ち”なんてこの世にはありまへんわ! それに頭脳派のウチがロッククライミングなんて1/6でも甘々でっしゃろ」

「変なとこだけ律儀な“頭脳派”ね」


 金城(かねしろ)・ツェツィーリア・月莉(つきり)

 村鞘が『✕』を増やしたホワイトボードには、せっかちな筆跡でそう署名されていた。


「次はボクにいかせて~」


 と。2番手に名乗りを上げたのは、声質こそ大人びているのに無邪気な口調。


「『空の麻袋』と『ハサミ』~」


 左右の横髪と後ろ髪、合計3つもの三つ編みをぶら下げた赤髪の女子だ。ずいぶん小柄な体躯にタレ目の童顔が似合っている一方、プロポーションは幼いどころか抜群の“トランジスタグラマー”である。


「なるほど。その心は?」

「『空の麻袋』を『ハサミ』でワンピースにクラフトしたら~、英子ちゃんかツェツィちゃんに着てもらってぬりかべをキュン死させるんだ~」

「ちょっと」「ちょぉ」


 彼女は実に良い笑顔だった、

 口の端からヨダレを垂らしながら。


「麻袋って編み目が粗いから~、光に透かすと2人の美しいボディラインがほんのりと~……」

「『✕』よ!」

「『✕』だ!」

「『✕』や!」

「下着は着けていいよ~!?」


 英子と村鞘と月莉はうちわの『✕』を上げた。


「雪果さぁ、100億万歩譲って方法はいいとしてもあたしらを巻き込まないでほしいんだけど。スタイル良いんだから自分で悩殺しなよ」

「ボクはいろんなトコロがむやみやたらとおっきいだけだもん~、そんなエッチな事できないよ~……じゅるり」

「ヨダレ拭いてから言いなさいよエッチ!」

「ボクはエッチじゃないよ~純粋に“美”の観点から言ってるんだよ~。仮にボクがエッチフィギュアだとしても~、英子ちゃんやツェツィちゃんは美術館のヴィーナス像で~」

「結局ハダカなんだけど!?」


 戸高(とだか) 雪果きよか

 村鞘が『✕』を増やしたホワイトボードには、丸すぎる筆跡でそう署名されていた。


「っと……そろそろ“本題”に入らないとね。大喜利であったまったことだし」

「だから大喜利ゲームじゃないんだが」


 と、壁掛け時計を見上げた英子は手持ちのアイテムカードをさっさと置いた。


「村鞘、リザルト出して」

「俺がまだ解答してないんだが」

「あんたはもう『◯』でも『✕』でも同じでしょうが。ポイント取ってるのはあんただけなんだし……ちっ」

「村鞘くんはどんなお題とアイテムでも無難に切り抜けるよね~」

「珍回答の1つも出ぇへんなんて呆れますわホンマ」

「なんなんだこの言われようは……くそ、買ってくるゲームを間違えた」


 村鞘が全問『◯』をゲットしているのに対し、女子3人は全問『✕』をゲットしていた……。


「あーうん、じゃあ個人部門は俺が1位ってことで……この分じゃチーム部門は集計するまでもないな。以上、本日の“部活”終わり」


 そうして息抜きも終わったところで、3人の友人はそれとなく英子に注目するのだ。


「けぉほん……それじゃ、コレ……」


 改まると緊張するもので、すっぽ抜けた咳払いになってしまったが。英子は家から持ってきた2つの品を左右の手に持った。

 月莉に差し出した1つは、コピー用紙数十枚に及ぶドキュメントファイルの印刷。


「ツェツィ、これが“まれおう”の利用規約ね。……紙じゃなくてデータのほうが持ってきやすかったんだけど」

「紙のほうが“解釈”を突き合わせやすいんですの。おおきに、個人的なコレクションとしてもいただきますわ」


 受け取った月莉は、文字の砂漠じみたソレをルンルンと眺めた。

 次に雪果へ差し出したもう1つは、大容量のUSBメモリ。


「雪果、これが“まれおう”であたしがプレイしてきた2日間の視覚ログとバックログ。……アバターのモデリングデータまで欲しがられたのは謎しかないけど」

「先の事を考えたらぜっったい必要だよ~。安心して~ボクの手からぜっっっったい流出させないから~」


 受け取った雪果は、錠前付きの保護ケースにUSBメモリを仕舞った。……内部データが見えるはずもないのに、スケルトンな保護ケース越しにキラキラと眺めた。

 そんな2人の“受諾”の様を見てから、ふと村鞘が頭を下げた。


「頼む、金城、戸高。俺は専門的な事は分からないし、看谷の背中を押してやるのがせいぜいだが……できることはなんでも言ってくれ」

「何を仰いますやら。英子さんのピンチを伝えてくれはって村鞘さんにも感謝してますのよ」

「うんうん~、適材適所だよ~」

「村鞘ぁ……先にやられたらやりにくいんだけど」

「わ、わるい」


 そうして英子もまた……、


「…………お願い! みんなを頼らせて!」


 月莉と雪果へ、そして村鞘へもギュッと手を合わせるのだった。

 対して……、 


「よくってですわ。この土日の間に親友がえらい成長しましたわね」


 月莉から送られてきたのは、ルーレット盤を引き伸ばしたように数字入りの凹凸が並ぶ刺線刀刃。


「ボクたちは“雪月花”の幼馴染みでしょ~、水臭いよ~」


 雪果から送られてきたのは、7本もの彫刻刀が1つに畳まれたマルチツール風の刺線刀刃。


(恥ずかしいな)


 人を頼ることにはまだまだ慣れない英子だが。胸に風が吹き抜けるような、このくすぐったさは案外悪くはなかったのだ。


「人から追い回されずに“まれおう”をプレイできるようになって、あの配信女にも一泡吹かせる大作戦……」


 現実(リアル)の片隅で、あの世界を少し変えるかもしれない作戦が密かに始まっていた。


「メンドくさいけど。これはあたしの“ケジメ”よ」

 【鈴鐘高校の郷土資料室】

 英子たちがゲーム同好会の部室としても占有している書庫。鈴鐘市にある遺跡やその出土品についての資料が納められている。

 大地主の金城組は土木管理の折に多くの遺跡を発見してきたが、考古学的に論外な品々ばかりが出土している。曰く『魔法の杖』、『シャベルの剣』、『妖精のミイラ』などである。

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― 新着の感想 ―
[一言] 刺線刀刃的にもおもしれー連中すぎて草 そして(中身はどうあれ)女子に囲まれるだなんて村鞘くん…君には失望したよ…
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