ゔぉおっ
くっ、息が……あれ?あまり苦しくはない。
今、完全無呼吸ではないが、ほとんど呼吸ができていないのだ。
それでも息苦しくなっていないのは、それを上回る幸せに包まれているからである。
いや、そんな訳ない。いやいや、そうだとも言えるのだけれども、そういう事を言いたいわけではない。
身体能力が向上しているので、心肺機能も向上しているからではないだろうか?もしかしたら妖精だから呼吸の必要性が無くなったという事もありえるか?まぁたぶん心肺機能の方だろう。
「クロ!クロよ!」
ところで、今、私がどんな状況になっているかというと……。
そうです。その通りです。
クロの胸に顔面が埋まっているのです。
ただ、この行為に私の意志は一切介入していない事をここに断言する。決して弁明ではない。
さっきクロが飛びついてきた時、クロは私の頭部を強く抱きしめてきたのだ。そしてその勢いに耐えきれずに倒れてしまった。
クロは胸の前で私の頭を抱えている体制。つまり、私の頭をクロにがっちり抱かれて逃げ場がない。そしてクロの胸部の膨らみたちも、クロが腕を前方へと出しているために左右への逃げ道が無いのだ。結果、私の頭部とクロの胸部は閉じ込められ、締め付けられ、ぎゅうぎゅうである。隙間もほぼ無いため、呼吸もほぼ出来ない状態なのである。
「クロ!う〜む、これは聴こえておらぬのぅ。どうしたものかのぅ。」
私がフリーの状態ならば、この状態を持続させたいと願ってしまうかもしれない。ゲス野郎ゆえに。
だが、今の私は恋人が出来たのだ。相手の事情に合わせ、すぐに結婚するつもりはなかったが、すぐに結婚可能であるという新事実発覚により関係を改めて話し合う必要があるかもしれないが、今は恋人のはずだ。フラれてはいないもの。
だから、今のこの状況はどうにかしないといけない。
というか、さっきからずっとクロにタップしているのだが、クロは全く力を緩めてくれない。タップに気付いていないのか?いや、そもそもタップという概念がないのか?降参というか、止めるにはどうしたらクロに伝わるのだ?
春姫ちゃんはさっきからクロに声をかけてくれているが、喜び爆発状態のクロには聴こえていない様だ。
「これは、行くしかあるまいのぅ。」
「皆さん、お食事の―――」
とんっ
「あっ」
ゴッ!!
「ゔぉおっ!!!!!!!!」
Nooooooooooooooooooooooooooooooo!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
突如私の股間に衝撃が走った。
カッチカチ状態じゃなければまたバニッシュメントディスワールドになるところだった。カッチカチ状態でもこれほどの衝撃を食らうとは、今後とも股間は護らなければならない部位らしい。
……いやいやいやいやいやいや!!!そういう事ではございませぬ!私が言う『カッチカチ』とは、身体能力強化で防御力が上がった状態の事でありまする。股間がカッチカチ状態だから防御力が上がっているとかそういう話ではございません。
そもそも身体強化関係なく硬くなるのは棒の部分であり、最大の弱点である玉部分は硬くならないもんね。言い訳完了。
まぁ、でも、さっきラスさんに誤解させてしまったばかりなのに、また懲りずにカッチカチを使ってしまった。もはや身体強化の防御力アップを『カッチカチ』だと認識してしまっている。口に出すとまた誤解を招く可能性があるので、気をつけよう。
「どうしたのですかっ!?」
イズナさんの声と、ズシャッと襖が勢い良く開かれる音がした。
そう言えば、股間に衝撃を受ける直前に声が聴こえていた。ご飯を運んできてくれたのだろうと思う。
私はクロの胸に埋もれた状態のままである。あぁ……。
「なっ!!!」
驚きの声をあげるイズナさん。……イズナさんに目撃されてしまった。
「まあっ!まあまあまあ!!!三人で絡んで!まあ!」
今度はラスさんの声。同志ラスは驚きの中に少し興奮を……いや、きっと倒れた状態の私を心配してくれているのだ。
「また何をやっているんですか!?」
「あっ!イズナ、誤解するでないぞ?大丈夫じゃぞ、おかしな事には至ってないぞ!」
私の脚の上らへんから声がする様な気がする。さっきの衝撃は春姫ちゃんだろうか?ならば、タマモちゃんからの股間襲撃と春姫ちゃんからの股間襲撃で、ロリからの股間襲撃はコンプしたな。
などと現実逃避していると、クロがようやく離してくれて、広い視界と気道が確保された。
「ねえ、イズ!ラス!見て見て!尻尾が大きくなったよ!!」
クロは仲良し二人に尻尾を見せる。尻尾もブンブン振る。
「あぐっ!」
クロの尻尾が春姫ちゃんの顔面をふぁさっと撫でた。羨ましい!妬ましい!
「あっ、春姫様ごめん。大丈夫だった?」
「うむ、今回は大丈夫じゃった。じゃが、さっきはブンブン振り回して大変じゃったんじゃぞ?尻尾が大きい状態なのにいつもの調子で尻尾を振るからすごい事になっておったのじゃぞ。」
私からは見えなかったしそれどころではなかったので気付かなかったが、確かに、大きくなった尻尾をブンブン振り回したら大惨事となる。
「……そっか。ごめんなさい。」
クロはショボンとする。そして立ち上がって尻尾を通常時の大きさに戻す。私はようやく自由の身となった。
「すると、春姫様がケイさんの股間に顔を埋めていたのも、クロを止めようとしたら、振り回した尻尾に当たって転んでしまったという事かしら……?」
いつの間にかすぐ近くへ来ていたラスさんは仰向けとなっている私が立ち上がるのを手助けしてくれながら呟いた。
たぶん、独り言であり、私に話しかけたのではない。独り言には気付いてない事にする。
何かの確認の為か、同志ラスの視線は私の股間部分へと向かっている気がするが、これも気付いてない事にする。
とりあえず、あの衝撃は春姫ちゃんで合ってたらしい。今は股間襲撃ロリコンプを喜んでおこう。




