変質者って呼ばれたい!!
「クロも、もっと変質したいなぁ……。クロも変質者になりたい。」
クロがとんでもない事を言い出した。
クロは霊力の器の事を言っていると解っているのだが、『変質者』と聞くとどうしても、こう、なんとも言えない気持ちになってしまうのだ。解ってもらえるだろうか、この気持ち。
「器の変質って、珍しい事ではないって言ってたけど、アレって霊力に目覚める前の話だっけ?目覚める前の小さな器だから変わったとしても変化に気付けないとかなんとか。」
「そうじゃの、目覚めてからの器じゃと、なかなか変質はせんのう。つまりは神域の者は器の変質は非常に珍しい事なんじゃ。それこそ、命に関わるレベルの何かがあったとしても器が変質するのは稀じゃな。クロの一族の様に一世代に一人でも器の変質が可能な者が産まれてくるのは、世界でも他に聞いた事がないのじゃ。」
おお!つまりはクロの一族は世界で唯一かもしれないということ!?妖精より珍しいんじゃないの?
「妖精の方が珍しいに決まっとるじゃろ。器の変質が出来る者は、理由は解明できていないとはいえ、クロの一族では一世代に一人『確実』に生まれてきておるのじゃ。今のところはの。」
私の心の声に対して普通に返事してきちゃった。
「そっか……と納得する前に、そういえば妖精ってどのくらいいるのかわかんないや。」
比べてる対象がわからないのに、比べられるわけがない。妖精の寿命の話のとき、個体数はものすごく少ない感じは出ていたが、具体的な数はなかった。
春姫ちゃんは、お腹の前で左手の手の平を上に向け、右手は握った状態(小指が下、親指人差し指が上)で、左手に右手を垂直にポンッと下ろした。「そうだ!」や「なるほど!」といったときにやるあの仕草である。私に詳しい事を伝えていなかった事に気がついたのだろう。
「今現在存在しているのはおぬしだけじゃぞ?ここ数百年は確認されておらんの。まぁ存在を秘匿している可能性もあるがの。現に妾たちもおぬしを秘匿すると決めたしの。おぬしはいずれ存在を公にする予定じゃが、中にはずっと秘匿し続けられている妖精かいたとしても不思議ではないのじゃ。」
「思ってた以上に少なかった!でも、そうだよね、公表されていない妖精もいそうだよね。」
過去の記録にある妖精は、最後どうなったかわからないという話だし、寿命の概念があるかどうかもはっきりしてない的な事言ってたよね。
もしかしたら……過去にいた妖精たち、公表されたのもされてないのも、全員まだ生きている可能性すらあるわけだ。あくまで可能性としてはだけど。
逆に、本当に私の他には妖精がいない可能性もある。
まぁ、今それを知る事ができたとしても、結局何も出来ないし、それよりも先に知らなければならない事が山の様にあるのだ。
「クロよ、クロはすでに変質しておるわけじゃが、なぜ更に変質したいのじゃ?」
「クロも変質者って呼ばれたい!!」
「「なぜじゃ(だ)!?」」
私と春姫ちゃんがハモった。低音パートの私と高音パートの春姫ちゃん。やはり相性バッチリだね!
「カッコいいから!」
マジか!
その発想はなかった!!
いや、でも、『変質者』という言葉に変態的なイメージを持っていなければ、そう思う可能性は有り得るのか……?
……いや、そうか、逆だ。逆なのだ。
クロが変質者におかしなイメージを持っていないから、ではない。
私が変質者におかしなイメージを持っているから、カッコいいという気持ちをおかしく感じてしまうのだ。
「……クロよ。カッコいいかどうかは置いといて、変質の為に危険な行為をすることだけはしないでおくれの。」
そうだ。命に関わる事態となっても変質は稀だとの事だから、変質させる為には何度も命を危機にさらさなければならない。クロの命の危機なんて考える事すら嫌だ。
「クロ、絶対に危ない事はしないでね。」
「うん、怖いことしないよ。」
良かった……。
「ただ憧れているだけ。あと、変質したら、クロにも何か特徴が出たりしないかなって思ったの。」
あぁ、それもあるのか。
「だったら、霊力の器を変質させるのを一旦止めてみるとか出来る?私はここに帰って来たときも器が変質したんだけど、それはむしろ器が元に戻った感じだったんだって。」
と、思いつきでかなりテキトーな事を言ってしまった。
クロの器の変質って一部だけって言ってたけど、自在に変えられるものなのか知らないし、元に戻せたとしても、それをまた変質させる事が出来るのかも解らないのに、口からポロッと出てしまった。
ヤッバい事を口にしてしまったかもしれない。クロが試してみたりする前に止めなければ!!!
「待った待った待った!ごめん!クロ、ごめん、待って!試さないでね!!その前にちょっと話を聞かせて!!!」
試そうとなどしていないならそれでいい。おっさんが一人で勝手に慌てただけだ。それで済む。
だが、クロが試しちゃったら取り返しがつかない可能性もあるので、とにかく止めた。
「ん?」
クロは何かの構えの様なポーズになりかけていたのを解いた。危なかったのかもしれない。とりあえず間に合ったのなら良かった。




