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どうか尻尾を上げてください

 「ねぇ、何時まで嗅ぎ続けてるの?そろそろ話を進めた方がいいんじゃない?」


 狸耳巫女さんが、少し呆れながら問い正してきた。

 ハッとした私と狐耳巫女さん。そして狐耳巫女さんは慌てて後ろにバックステップ……というよりジャンプか?軽い踏み切りだったのに5mくらい後ろに跳んだ上にクルリと後ろ回りに一回転、そしてトンっと軽い着地。すごい。狐耳巫女さんの美技に酔えるレベル。


「ごっごっごめっんなさいっ!!!」


 狐耳巫女さんが腰を90度以上に曲げて謝ってきた。なんだかさっきからこの娘に謝らせてばっかりだ。尻尾。

 最初のはたぶん、私が不用意な反応してしまったからだ。その次のは、私が知らない事を教えてくれただけで、彼女は悪くも何ともない。一度ぴーんと立った尻尾が、次第にへにょって下げられた。

 そして今回のは犬耳さんに押されただけであり、私の胸に飛び込んでしまったり臭い思いをしたわけだ。私は臭いとか言われたらダメージを食らうが、狐耳巫女さんを受け止めたこと自体はとても嬉しい出来事ではあったのだ。むしろこっちが謝りたいくらいだ。尻尾触りたい。


「どうか尻尾を上げてください。」


 あ、ヤベ、間違えた。


「どうか頭を上げて下さい。」


 何事もなかったかの様に言い直してみた。

 狸耳巫女さんが、えっ……?って顔をしてこっちを見てきたが気付かないことにする。犬耳巫女さんは車乗りたい!って顔のままだ。

 狐耳巫女さんは恐る恐るといった様子で頭を戻した。失態を悔やんでいる様子だが気にしないでほしい。出来れば私の臭いごと忘れてしまってほしい。

 こちらからも謝っておこう。少しでも気が晴れればいいのだが。


「こちらこそ、すみません。私が受け止めるなり何か適切な対応を取れていれば良かったのですが、何も出来ずに固まってしまいました。嫌な思いをさせてしまったね。」


 ダンディなオジサマを意識して話してみた。

 狐耳巫女さんはブンブンと顔を左右に振って「いえいえいえ」と応え、何かを続けて言おうとしたその時、犬耳巫女さんが言葉を挟んできた。


「ね!臭くなんてないよね!!むしろ良い匂いしたよね!」


「それは……はい。」


「ね!イズ、ずっと嗅いじゃってたもんね!!」


「……。」


 狐耳巫女さんは恥ずかしそうに蹲ってしまった。狐耳がぱたりと閉じてしまった。これもまた良い。


 ……って、え!?おっさんの汗とか脂とかだよ?臭くて気持ち悪いとかそういうのじゃなくて、良い匂い???にわかには信じがたい。

 ……あ。そういう趣味の人ということかな?……それは、ちょっと、嬉しいな。

 まぁ、良い匂いというのか本当であればの話しだが。


 すると狸耳巫女さんが話し始めた。狐耳巫女さんは蹲ってしまったし、犬耳巫女さんはあんな感じだし、自分が説明しなければと思ったのだろう。


「霊力に関しては何かご存知ですか?」


 れ、霊力?首を左右に振り、漫画とかでしか知らないと伝える。幽白とかね。


「では少しだけ説明しますね。強い霊力を浴びる事は私達にとって、位階を上げる為に大きな意味を持ちます。あと、単純に非常に心地良いものでもあります。ただ、普通は他人の霊力を浴びても意味を為しません。しかしあなたは私達を視る事が出来る事といい、霊力が強く、何か特殊な状態なのかもしれません。あなたからの分泌物に残る残留霊力からですら快楽を感じるほどに。それが『良い匂い』の正体なのではないかと推測します。」


 あ、あー。そうか。とりあえず、彼女たちの言った『良い匂い』というのは、ウソとかではないんだ。それは良かった。

 ……ただ、汗と脂が良い匂いとなったわけではない、ということだよね?汗と脂の臭さはある。だけど、それ以上に霊力?由来の良い匂いがあるということなんだろう。

 なんだろうか。何と言うか、臭さも感じられているかと思うと少し複雑な心境ではある。が、まあいいか。


 私が説明を受けてなるほどなるほどととりあえずの理解をしたところで、狐耳巫女さんが立ち上がった。


「その……、申し訳ございませんでした。」


 犬耳巫女さんによって暴露されてしまった、私の匂いという霊力をクンカクンカしていた事についてものだろう。またもや謝らせてしまった。いいのに。役得だったよ。


「いいですよ、謝らないで下さい。こちらも役得でしたし。」


 あっ!!!そのまま言っちまった!ヤバい、これは『あなたに寄りかかられて喜んでいました』や『あなたに嗅がれて喜んでいました』って意味になっちゃうよね?セクハラになるか?キモい発言だ。ヤバい発言だ。

 役得と聞いて狐耳巫女さんは一瞬、?って表情になった。?から言葉の意味を考えるまでの僅かな時間の隙間を狙って、別の言葉で押し流そう!何か言わねば、何か、何か。アレだ、車だ!犬耳巫女さんにも話にのって貰おう、そうしよう。


「ああそれならば車内の匂いも大丈夫だったりしますかね!だったら、ほんの短い間だけど乗ってみる?」


 かなりの早口になってしまった。声も少し大きくなってしまったが仕方ない。姉ならば聴こえていたとしても、まだ不審には思わず、ただ「うるせー」と思って終わりのはずだ。


「本当!?やったーーっ!!」


 犬耳巫女さんは尻尾をブンブン振りながら万歳して喜んでくれた。さっきの私の失言を吹き飛ばしてくれるくらいに場の雰囲気を盛り上げてくれた。

 公民館まで車だと車道に出てから10秒も経たずに着いてしまうが、どうしようか。狐耳巫女さんと狸耳巫女さんも乗るなら、目的地を変えてもいいかも。まあ、話を聞くのがメインなので、結局は近くまでしか行けないのだが、10秒よりはマシだろう。次の機会があれば今度はもっと乗せてあげよう。あ、車酔いには注意しなきゃ。

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