疲れてしもうたわい
すぐ戻って来るとのことなので、春姫ちゃんを怒らせてしまったというわけではなさそうだが….どうしたのだろうか。
するとクロも立ち上がった。
ん?クロどうしたの?クロも部屋の外に行っちゃうのかな?
「クロもケイに座る!」
なん、だと……?
いや、そうだ、そうじゃない、何がだ、俺か、これか、……落ち着け。そうクロは私に座りたいのだ。
私の、どこに座るのだろうか?やはり顔か?
顔の上に座られたならば、その時きっと頭で尻尾のもふもふと重みを感じる事が出来るかもしれない。悪くない、悪くはないのだが……頭でもふもふを十分に感じる事はできるのか?触覚的に十分ではないのではないだろうか?いっその事、私を逆にして、後ろを向いた私の頭に座ってもらってはどうだろうか。垂れ下がる尻尾を顔面に感じる事が出来るのでないだろうか?
クロは炬燵の私の前の布団を開け、片脚を上げ入ってこようとする。
あ、そうか。胡座の上に座って抱っこ状態になりたいってことね。一瞬だけ勘違いして焦ってしまった。一瞬だけね。
「ちょーっと待ったぁぁあっ!」
ピシャーンと襖が勢いよく開き、そこにはもちろん春姫ちゃんが立っていた。
「クロ、そこは妾の、じゃなかった……タマモ専用だと言ったじゃろ!ダメじゃぞ?」
「え〜っ!むーっ!」
私のために争わないで!!
とか言ってみたいけれど、そんな勇気はない。
雰囲気も別に険悪な感じはなく、なんというか、つまみ食いしようとしてコラっ!と叱られたようなそんな感じである。例えが微妙だが。
春姫ちゃんは、クロをほれっ戻れ戻れと元の場所に帰した後、また私の胡座の上に座ってきた。まるで当たり前かの様に流れる動作で私の上に座ってくるので、私も当たり前の様に春姫ちゃんのお腹に手を回してしっかりと抱っこ。
あれ?春姫ちゃん、さっきと格好が違っていなかったか?さっきは袴の様な物を履いていたはずだ。今は、丈が短くなり、キュロットを履いていた様に見えたぞ?素材まではわからないけれど、色も違っていたと思う。裾を巻いたとかではなく、着替えてきたのだろう。
あ、そういえば何年も前に、『キュロット』は死語だと言われた事がある。だが、チョベリバとか超MM(超マジックミラー号ではない)とかの流行り言葉ではなく、物の名称なのだ。伝わればいいのだ。というか、コロコロ変えていては何が何を指す言葉なのか解からなくなる。何と『呼ぶ』かが重要なのではなく、相手にどれのことだと『伝える』ことが重要なのだ。だからキュロットでいいのだ。
……ふぅ。
いや、スッキリしたわけではないよ?我慢しきったのだ。
キュロットについて考えて気を逸したけどさ、一瞬目の前数cmの所を尻尾が通過したのだ。
耳を拭くという名目でもふもふの味わいの一旦を知ってしまったばかりの今、眼の前を通過する尻尾を我慢することは並大抵の精神力ではほぼ不可能と言っても過言ではない(断言)。
さっき立ち上がった時みたいにいきなりではないのだ。今回は、来るぞ?来るぞ!と待ち構えてたところへの尻尾通過だったのだ。今日のMVPはキュロットと言えるまである。
……しかし、なんで着替えて来たんだ?
「そいえば何の話をしておったか……、九尾じゃったかの?あぁ、いや、ケイの尻尾との距離感じゃったの。これはもう慣れろ。」
「あれー?何かテキトーになってない!?」
「疲れてしもうたわい。」
あぁ、これは、あれこれさせてしまった原因は私(とあとちょっとクロへのツッコミか?)なので、強く言えない。
「それは、ごめん。」
「んーよいよい。丁寧に説明しようが雑じゃろうが、結局やることは変わらんしの。」
そっか、テキトーだなんて言ってごめんなさい。
「ありがとう。」
「まぁ、慣れろとは言ったのじゃが、暫くおぬしと関わるのは今日この家にいる者だけじゃからの。イズナは触りまくって問題ないじゃろうし、クロも当たってしまうくらいなら良いじゃろ。」
「クロは触―――」
「まだダメじゃと言っておるじゃろ。ラスにも後でもう一度、距離感の説明をすれば多少当たってしまうくらいなら許してくれるはずじゃ。じゃから、妾たち相手にしっかりと尻尾の距離感に慣れるのじゃ。この長さの尻尾相手に慣れれば、他でもまず大丈夫じゃろうて。もっと尻尾の長い種族もおるが、それらは自分の尻尾が長いと自分で理解しているから、向こうがある程度気をつけてくれる。まぁ、向こうから当ててきていちゃもんをつけてくる事がないわけでもないから、その点は注意じゃの。」




