本当は顔を噛みたかったんだけど
「じゃあ、クロの耳はむはむする?」
ぐふっ……。クロがとんでもない事を言い出した。
それを聞いて一瞬、クロのとんでもない姿の妄想が頭を掠めてしまった。勤め先から帰宅した私に、裸エプロンのクロが「お風呂にする?ご飯にする?それとも、お・み・み?」と言って狼耳を差し出してくるのだ。いかんいかん。大変いかん。
私はケモミミだけでなく、尻尾も望むのだ!とかそういう事ではないよ。いや望むけどね、今はそういう事ではない。
「クロ―――」
「クロ!それはいけないわ!とてもいけない事だわ!!!」
クロにそんな事言っちゃダメだよと注意しようとしたら、同志ラスが大興奮してクロを止めている……じゃなかった、ラスさんもクロを心配しているのだ。そうに違いない。
ところで、同志ラスって、ノーチラスに響きが似ててカッコいいよね。8倍の速さってなかなか思った場所に停まれないので、ラスさんのこの勢いもそういう事だろう。
とりあえず、ラスさんとクロの二人と、今後も仲良くして貰えそううで良かった。
ちなみに今ラスさんがクロにはむはむの事を説得している。異性には絶対に言ってはダメだ、と。
クロも知ってはいるのだ。耳や尻尾を異性に触らせるものではないということを。ただ、クロ自身はそれをエロい事だという認識ができず、少しくすぐったいだけという認識なのだそうだ。そして私相手なら少しくらい我慢するよ、と。
嬉しい。嬉しいけどダメなんだ……。
なぜダメなんだよ、神域……!!
「私はイズナの手伝いをして来ますね。突然の訪問になってしまったので、何か手伝えればと思います。」
とラスさんが切り出す。クロへの説得(仮)は一応終わったらしい。納得させられたかは微妙であるが。
「クロはここにいて春姫様やケイさんのお相手をしていてね。」
そう言うとラスさんは私に向かってウインクしてきた。
ぐふっ。
いや、深い意味も変な意味もないと思う。たぶん、私に、クロを見ててね、的なやつだろう。
そしてラスさんはそのまま出ていくかと思ったら、奥の襖の手前で止まり振り返った。振り返る時の尻尾の動きが素晴らしかった。マリオ3のしっぽマリオの攻撃みたいな感じのを顔面に受けてみたい。非常に心地よいものなのだろうと思う。
「私は一人暮らしをしている事もあって、よくイズナが夕ご飯に招待してくれるのです。最初はタマモ様とご一緒するのは緊張していたのですが、頻繁にお邪魔しているので今では勝手知ったるなんとやら状態ですね。夕ご飯の時以外にお邪魔する場合はクロも一緒のことが多いので、クロ専用おやつ保管棚まであるのですよ。」
ラスさんはふふふと笑顔で説明してくれた後、イズナさんを手伝いに部屋を出ていった。
私も手伝った方がいいのかな?とか思わなくていいように説明してくれたのかもしれない。
……もしかしたら、私が尻尾を見ていたことがバレた、または見ていないか確認の為に振り返ったのかもしれない。怒らずに、全く別の説明をしてくれたのも、次はねえぞ?的な……?どっちにしろ気をつけねば。
三人になったところで、ちょっと春姫ちゃんにタマモちゃんがどうしているのか質問してみよう。
「ねぇ、春姫ちゃん。タマモちゃんは今どうしているの?また私の所為で眠らせる事になってしまったのかな?だったら申し訳ないな……。」
「タマモは寝てしまったが、おぬしの所為ではないぞ。今日はいつもより早起きしての、勤めを早く終わらせる為に頑張っておったんじゃ。それにさっきおぬしと遊んではしゃいでおったからのぅ。」
「そっかぁ、なら良かったよ。」
私の所為で、じゃなく、私の為に頑張ってくれたからか。さっきもお絵描きしただけだけど、ずっと楽しそうに笑っていてくれた。今の私じゃタマモちゃんと遊ぶくらいしか出来ないけれど、もっと何か、喜んでもらえる何かをしたいな。……変な意味じゃないからね?マジでマジで。
クロにも質問があったんだった。甘咬みの事だ。イズナさんの甘咬みだったの!?で後回しにしちゃってた。クロごめん。
「クロ、さっき答えようとしてくれた時はごめんね。もう一度、甘咬みはどういった事なのか教えてほしいんだけど、いいかな?」
「あのね、ケイと一緒にいたいって思ったらやってた。本当は顔を噛みたかったんだけど、届かないから肩にしたの。」
顔!?
顔を噛むってどういう事だってばよ???
クロに顔面を噛まれている自分を想像して……、想像しきれなかった。顔面を噛まれるというのが想像しきれない。う〜ん、顎を?鼻を?……ダメだ、わからん。
とにかく、私と仲良し、というか懐いてくれているという事だよね。なら良いか。いや、イズナさんがヤキモチやいちゃったから噛むのは止めて貰った方がいいだろう。
「そうなんだ。でもね、肩を噛むのもやめてほしいかな。私は誰かを噛むという事も誰かに噛まれるという事も今までなかったからさ。」
「クロも初めて噛んだ。でも解った。もう肩を噛むのやめるね。ごめんね。」
「解ってくれたらそれで良いよ。クロと私は仲良しだし。」
「うん!ケイ!」
ちなみにクロはまだ私の後ろから抱きついたままである。ずっとこの体制で話しているのだ。なんだこれ。




