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大丈夫でござす

 姉が居なくなったということは私が獣耳巫女さんたちに対応しなければならないだろう。こんな若い娘たちと会話するのって何年ぶりだろうか。一気に緊張してきた。

 落ち着け、落ち着け。邪な心持ちで相対するわけではないのだ。素直な気持ちで、自然体で接すればいいのだ。

 いや、今の時代、四十路のおっさんがたぶんまだ十代の女の子と話すのって、それだけで事案になったりはしないだろうか?あああああどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする?どうすればいい!?

 内心狼狽えまくっているが表面上はフリーズ状態だ。そんな私に狐耳巫女さんは頭を下げてきた。


「先程は申し訳ございませんでした。不用意な行動でした。」


 !?

 何の事だ?良く解らないがシーッのことか?


「えっ、えっと……よく解りませぬが、問題ないす。良いのです。大丈夫でござす。私の方こそすみませぬ。」


 と私も頭を下げる。シーッの事ならば、意図を考えずに頷いてしまった私にも否はあるだろう。

 それにしてもヒドい言葉遣いになってしまった。いや、というのも、こちらの狐耳巫女さん、頭を下げる動作一つ取っても非常に洗練された動作に見えたのだ。こちらへ歩いてきたときもそうだった。立ち振る舞い全般から気品を感じるのだ。たぶん、上流階級出身のお嬢様とかそんな感じの人物なのではなかろうか。獣耳巫女コスプレお嬢様なのではなかろうか。

 そして上流階級のお嬢様となんて接したことのない私は、何と返答すれば良いのか解らずに言葉遣いがヒドいものとなってしまったのである。ヤバい、とても恥ずかしい。


 そんな私の言葉に、獣耳巫女お嬢様は下げていた頭を上げて、ふふっと笑ってくれた。ぐぅ、見惚れてしまう。さっきの恥ずかしさも吹っ飛んた。

 あっ、ヤバッ、ありがとうとか何とか言われたっぽいけれど良く聴いてなかった。たぶん、何かの謝罪に対し、良いよ(といった意味合いの言葉)と言ったからだろう。ちゃんと聴かねば。


「それでは本題と申しますか、お伝えしたい事があります。少々お時間を頂だけないでしょうか?」


「は、はひっ!でずが、今日は夕飯が早いそうなので家族に一言伝えてごなげればなりませぬ。」


 言葉のバグりが治まらない。


「15分ほど頂ければ……あっ!」


 突然何か重大な事を思い出した様にあわわと慌て始めた。慌てている中申し訳ないが、さっきまでの所作とのギャップで心がほっこりしてしまう。可愛い。


「ごめんなさい、ごめんなさい!私たちの姿は人間には見えなくて、声も聴こえてないの!だからあなたの言葉だけ周りに聴こえちゃってる……あ。」


 こっちが素の喋り方なんだろう。慌てた際に出てしまい、そしてそれに気付いて赤くなっているの、可愛い。あ、顔を両手で覆っちゃった。

 後ろの狸っぽい巫女さんはあちゃーって顔をしていて、犬っぽい巫女さんは両手で口を押さえて笑いたいのを全力で我慢している様子だ。


 ん?いや、今、何かすごい事言ってた様な……。

 先程の言葉を反芻しながらゆっくり理解しようとしていると、狐耳巫女さんは立ち直った様だ。

 

「お見苦しいものをお見せしてしまい、申し訳ありませんでした。私たちの事、他の人間には見えておりません。声も誰にも聴こえておりません。何よりもまずこの事をお伝えすべきでした。」


 狐耳巫女さんはものすごい勢いで腰を直角に折り謝ってきた。

 あぁ、こんな勢いで振っても獣耳は外れることなくしっかりと頭に付いている。素晴らしい。

 そして言い直してくれたけれど、内容は変わらず、すごい事言ってる。


「ですので、私との会話も、周りの人には大きな独り言に聴こえてしまうのです。今、近隣の、声の届く範囲には殆ど人はおりませんでした。ただ、先程こちらにいらっしゃった、ご家族の方でしょうか?あの女性にだけは声が届いてしまったのではないかと存じます。」


「あ、それならば大丈夫です。姉は『あいつ何か言ってら、うっせーな。』とかそんな感じに思っただけだと思いますよ。」


 素で答えられた。狐耳巫女さんの狐耳がピクッと動いた。何となくだが、可笑しな喋り方から戻った!という反応に思えた。

 さっきの言葉のバグりは、何か言わなきゃ、お嬢様相手だからきっちりとした言葉で返さなきゃ、などそれらの思いが大渋滞した感じだろうか。そして今回はすごい事を伝えられたので、余計な事を考えられなくなった感じかもしれない。


 すごい事を伝えられたのだが、んなまさか!とは感じない。頭ではまだ戸惑いがあるが、心ではすんなりと受け入れる事ができた。


 先程の姉の言動もそういう事か。見えていないからこその言動だったのだと思えば辻褄が合う。

 姉からして見れば弟が県外から帰って来たと思ったら唐突に「獣耳巫女のコスプレをしている女の子が多数いる」とか言い出したのだ。まさかと思いつつも外に探しに出ると、どう見ても誰もいない公園に獣耳巫女がいると言う。意味が解らないだろう。そして結局はスマホの位置ゲーか何かの話だったのだろうと結論付けたのだ。

 そんな結論を出しながらも、ゲームの話で勘違いさせてきた弟にキツイ一言をお見舞いするでもなく家に戻っていった姉は、さすが我が姉である。さす姉。


「お姉様でしたか。その、問題がないようでしたら、安心いたしました。」


 少し戸惑いながらも、ほっと胸をなでおろす狐耳巫女さん。


「それでは、お時間…………じゅ「はひっ!」」


 ありゃ、やっちまったー!

 たぶん狐耳巫女さんは、先程素が出てしまった事を思い出したのだろう。「お時間」と言った時に一瞬はにかんだ表情になった。ほんの少しの間が空いたが言葉を続けようとした所へ、私が返事を被せてしまった。

 ダメだ、さっきは脳が動かずに素に戻ったが、またバグりだしたか!?


「こ、言葉を遮ってしまって、申し訳のう。それと、時間ですたらば、15分くらいなら問題ありませぬ。」


 バグりながらも頭を下げ謝罪し、遮ってしまったであろう言葉に対する返事。時間に問題ないことも伝える。


「いえ、こちらこそ申し訳ございません。私が下手に言葉を区切ってしまった事が原因ですので、どうかお気になさらずに。」


 向こうにも頭を下げさせてしまった。こんな時にもつい獣耳を見てしまう。どうやって付けているんだろう?いや、人間には見えない存在ってことは、もしかして本物の獣耳だったりしするのか?有り得る、有り得るぞ!

 と、こんな事を考えているなんて私は本当に終わってるな。


「その……、先程の、お姉様のお話をした時の様な、素の状態の話し方をして頂いても構いませんよ。」


 と獣耳の事を考えていたら、ついにはバグり言葉に対しても気を使わせてしまった。

 でもバグろうと思ってバグり言葉になっている訳ではないので、どうすればいいだろうか……?あっ、じゃあこうすれば良いかも??


「で、ては、おだかいにもっと素の話し言葉にするとあうのはどうでしょぶか?」


 と提案してみた。通じるのか、これ?

 狐耳巫女さんは一瞬迷った様な素振りをしたが、すぐに苦笑いと微笑みの中間の様なえみを浮かべて答えてくれた。


「はい。では、そういたしましょうか。」


 通じていたようだ。良かった。

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