全てはアレです、タイミングです
仕方ない、ラスさんが落ち着くまで、ラスさんの狸耳鑑賞と洒落込もうじゃないか。
丸みを帯びつつも丸ではなく、三角というには丸い。ラスさんの耳はそんな感じである。狸耳に心躍るのはラスさんで二人目だ。もちろん一人目はアニメのキャラクターである。ラフタリア可愛かったよね。すぐ大きくなっちゃって寂しく感じたが。……あれ?あっちは狸じゃなくてアライグマだっけ?どうだっけ?
「……ケイさん?」
何だかワントーン下がったイズナさんの声。
はっ!?そうだった。耳をガン見するのはちょっとアレな行為だった!人間で言えば、女性の胸部をまじまじと眺める行為に相当するのかもしれない。これはマズイぞ。どうしよう。いや、素直に謝るしかないか。
「ご、ごご、ごめんなさい。ごめんなさい。」
まずはラスさんへ謝り、それからイズナさんへも謝る。
イズナさんは「まったく、しかたないですね。」という表情。以後気をつけます。……忘れなかったら、気をつけます。
ラスさんは先程の恥ずかしい勘違いの事で頭がいっぱいになっていて、私が狸耳を見ていた事もそれを謝った事にも気付いていない。……いや、気が回っていない、と言った方が正しいか。
クロはやっぱりよく解ってない様子である。まだ当たっている。
しばらくして、ようやくラスさんも落ち着きを取り戻した様だ。
きっと、イズナさんとクロにだけ聞かれたのならば、恥ずかしい思いをしてももっと早く立ち直れたのではないかと思う。だが、私という異物、会うのが今日で二回目でしかない人間の男に聞かれてしまった(というより勘違いの対象だった)から、激しい動揺をしてしまったのだろう。
「心よりお詫び申し上げます。」
そう言ってまた頭を下げてくるラスさん。もう良いのに。
「もう気にしないで下さい。解ってくだされば、それで良いんです。」
「ですが、ですが、私はケイさんにとんでもない暴言を……。」
「全てはアレです、タイミングです。タイミングが悪かったのです。ただそれだけなのです。」
「ですが私は、確かめもせずにあなたを悪者と決めつけてしまいました。許される事ではありません。」
まぁ、たしかに、痴漢冤罪、怖いよね。幸い私は自家用車での通勤だったし被害にあった事はない。
だが、鉄道を利用するときは内心いつもビクビクしていた。新幹線や特急の指定席の有難さよ……。
「友人を一秒でも早く助けたかったのでしょう。悪意のあった行動ではない事は解っております。」
同士よ。同士ラスよ。私はあなたを許します。
というか、私も謝りたい事があるのだ。私が春姫ちゃんに記憶読んでもらったとき、ラスさんの名前の秘密も丸ごと含めて読んでもらってしまったのだ。
今謝ってしまうと、ラスさんの罪悪感につけこんで許して貰おうとしている事になってしまう。そんな事はしたくない。
……いや?むしろ今謝った方が、ラスさんの罪悪感を打ち消す事ができるか?多少なりとも同士ラスの気もちを軽くできたりするのか?
頭を下げ続けられるより、一所に笑い合いたいのだ。同士として。じゃなかった、友人として。
なら、今謝って、こっちも負けじとぺこぺこ言おう。今のままでいるより、そうして何をやってんだろうか的な雰囲気にでも持っていければ儲けもんである。いや、謝りたいのもちゃんと本気だよ?
「私もラスさんに謝らなければならない事があります。ラスさんの名前の由来についてです。」
そう伝えるとラスさんがビクっと反応した。
「私は春姫ちゃんに記憶を読んで貰いました。とある理由があって記憶全部を読んで貰ったのです。ラスさんの名前の由来についても読んで貰ってしまいました。幸い春姫ちゃんも由来について知っていたとの事でしたが……。私はそれについて全く配慮する事なく、何も考えずに読んで貰いました。申し訳ございませんでした。」
土下座もしてしまおう。人生初土下座敢行である。美少女への土下座、人生で一度はしてみたいよね。踏んでもらえたら更に最高である、とかそんな事は考えていない。謝りたいのは本当だし、こっちがこう出たら、ラスさんの気持ちもリセットされたりしないだろうかという狙いもあるのだ。
ちなみにずっと抱きついてきていたクロは、私が動き出すと離してくれた。当たっていない。
「えっ、あの、え……ど、土下座は止めて下さい!!!」
あ、はい。ラスさんは無茶苦茶慌てだした。そうだよね。勢いに乗ってやってしまったが、突然土下座されたら慌ててしまうよね。ドン引きされなかっただけ助かった。申し訳ない。即座に立ち上がる。
「私の名前の事なんてそこまで気にしなくていいですから!もし何かの拍子で広まってしまっても仕方ない事ですから、土下座なんて止めて下さい!!」
「はい、ごめんなさい。ラスさんとも仲良くなっていけたらと思っていたので、ラスさんが嫌がる事について、全く配慮できていなかった事が申し訳なくてやってしまいました。」
おっさんのくせして若い娘と仲良くなりたいとか、何言ってんだと自分で思ってしまう。ちょっと動悸息切れが……。だが、ここは神域、ここは神域。大丈夫だ。落ち着け。
「それについては、今後ほんのちょこっとだけ心に留めて下さればそれで良いですから。」
「ありがとう。」
怒らずに許してくれた。ありがとう。
……どさぐさに紛れて?ラスさんが私に謝るのも一旦停止することも成功した。ナイスである。
そしてクロは私が立ち上がったら、今度は腕にしがみついてきた。頭を私の肩あたりにすりすりとしてきた。そして当たっている。




