いやダメじゃろ
「知らない天井だ……。」
いや、知っている天井だ。
今日初めて来た家の天井である。眠る前に目には入っているはずだ。まじまじと見たわけではないが。
そしてお腹の上に感じる小さな重みと温かさ。タマモちゃんが私の上で眠っている。可愛い。
しばらくこのままでタマモちゃんの重みと温かさを堪能しよう。
……眠っている今なら、狐耳をはむはむしちゃっても良いだろうか。
いやダメだ!それはエロい事なのだ。
……でも今ならバレない。目の前にこんな美味しそうな狐耳があるのだ。据え膳食わぬは……とか諺があるじゃないか。
くっ!我が心の内に潜む悪魔め!いくら誘惑してきてもそれはダメだってば!!私は絶対にそんなことはしないぞ!神に誓って、いや、タマモちゃんに誓って絶対にそんな事はしない。
あ、いや、許可されたらするけれど、勝手にすることは絶対にしないって事である。
『おぬしよ。妾はまだおぬしの中におるからの。聴こえておるぞ?』
「えっ!!!」
ビックリして声が出てしまった。でもそうか。起きたとはいえ、眠る前にやったアレをまだしてないもんね。
『そうじゃな、タマモとのキスをしてないからの。』
ぐふっ!
私の恥ずかしい勘違いを掘り起こされてしまった。
違います違います。解っております。おでこをコツンと当てるやつです。今はタマモちゃんが私の上で眠っているから、タマモちゃんを起こすか、私の首を150°くらい前に折り曲げないとコツンと出来ない。
『首を150°折り曲げているおぬしを想像してしもうた。ゾワッとしたのじゃ。しちゃダメじゃぞ?絶対にしちゃダメじゃぞ!?』
「そんな、『押すなよ?』みたいな感じに言われても出来ないよ!」
あっ!つい声に出してしまった。
「ん、んん……。」
あっタマモちゃんが起きちゃった。
「んん……おにいちゃんだ。おはよ。」
タマモちゃんはそう言うと私の胸部にすりすりしてきた。
くはっなんて破壊力だ!いいよね!?これもういいよね!?
『いやダメじゃろ。』
あ、はい。大丈夫です。解っております。抱きしめるだけにしておきます。ぎゅっ。
「ふふっふふふふっ。」
抱きしめたらタマモちゃんは笑ってくれた。はぁ、圧倒的癒やし……。魂が浄化されていくのがわかる。
『ちょちょちょっ!待つのじゃ!まだ逝っちゃいかんのじゃ!!』
……はっ!まさか、イキかけてた!?
『魂が抜けかけておったのじゃ。幽体離脱はちょっとまだハードルが高いのじゃ。ある程度霊力の操作が出来ないと、戻ることが困難になる場合があるのじゃ。あと、今は妾がいるからの、おぬしの肉体の操作権が妾のものになってしまうのじゃ。』
それは怖い!戻れなくなるのはガチ目に怖い!……でも、霊力操作の技術が向上したら、春姫ちゃんに身体の貸出なんかもありかも。
『緊急時などの特殊な事情のある場合を除き、肉体の貸し借りは禁じられておる。それに、おぬしの肉体はただの人間の身体ではなく、妖精の身体じゃ。妖精の霊力には波長がほぼ無いと教えたじゃろ?じゃから、もしかしたらこの肉体に妾だけとなった場合、妾とおぬしの身体が馴染み過ぎてしまう恐れがあるのじゃ。』
それってつまり……身体の相性が抜群って事!?
『なんでそうなるんじゃっ!!!妾がこの肉体を乗っ取ってしまうという事じゃ!そしてその後抜け出したおぬしの魂が戻って来たとしても、操作権がおぬしに戻らなくなるかもしれんのじゃ!……なんでそこでNTRとか考えておるんじゃ!!!違うじゃろ!!あーーーもうっ!!!!!』
ごめん!つい頭に思い浮かんじゃったんだよ!!決して真剣に教えてくれている春姫ちゃんに茶々を入れようとしている訳ではないんだよ。
『わかっておる!わかっておってもやりきれない気持ちになるのじゃ……。』
本当にごめんなさい。
『はぁ……。妾はタマモの元へと帰るのじゃ。』
そっか、なんだか、寂しくなっちゃうなぁ。短い時間でかなり迷惑もかけちゃったけど……色々教えてくれて、どうもありがとう。
『良い良い。ではタマモと頭部同士をくっつけてくれの。』
はい。
「タマモちゃん、春姫ちゃんがそっちに戻るってさ。」
「うん、わかったー。」
タマモちゃんはそう言うと、私の腕から抜け出そうともぞもぞしだす。あっやべ、抱き締めっぱなしだった。
「あ、ごめんね。」
一言謝ってから腕を緩める。するとタマモちゃんは私の顔へとどんどん近付いて来て……あっ、この軌道は、やっぱりそうだ、チュ―――コツン。




