その気持ち自体は尊い心
「そんなに落ち込むでない。妾から見たらという所感の話じゃ。元気を出すのじゃ。イズナは、確かにその効果を受けておると思う。じゃが、それだけではないはずじゃ。」
……。
「妖精の事もあると思うがの、それだけじゃこの短期間じゃあそこまで好感度爆上がりはせんはずじゃ。あくまでも要因の『一つ』じゃ。」
…………。
「……。」
……。
「……イズナが故郷の冬の里からこの春の里へ来たのはの、タマモがここの土地神就任と同時じゃ。イズナとタマモの両親は狐族の族長をしておるから、おいそれと一族の本拠地でもある冬の里を離れられん。幼いタマモを独りにしない為にイズナも一緒にこの地に来たのじゃ。あとはイズナもその時すでに霊力が高くての、来たと同時に神使の役に就いたのじゃ。タマモは数千年に一人いるかいないかの奇跡みたいな存在じゃが、イズナもまた数百年に一人というレベルの逸材なんじゃ。」
……すごい姉妹なんだなぁ。
そんな人が、夢と、私との結婚を天秤にかけるなんておかしな話だよね。うん。
「そういう事を言いたいのじゃないのじゃ。良いから聞くのじゃ。」
……はい。
「イズナも未来の土地神候補であり、本人もそれを目標に幼少より努力を重ねてきておる。」
はい。イズナさんからは、何と言うか、一本芯が通っているというか、そういったものを感じる気がします。
「そうじゃな。あの者には芯が通っておる。じゃからかの、怒られた時には妙に凄みの様な物を感じてしまうのじゃ……。他の者に苦言を呈されても笑って誤魔化すのじゃが、イズナにだけはそれが出来んのじゃ。」
春姫ちゃん……。
「土地神になるにはの、条件があるのじゃ。妖精になる条件はさっき話したじゃろ?それとちょっと近いのじゃ。一つ目は、土地神として十分な強度の霊力の器を擁していること。これは土地神になる土地、神域というか龍穴の規模ごとに違っておる。厳密に言えばその者と龍穴の相性も関係してくるのじゃがまぁ今はいいじゃろ。二つ目は誰とも交わっていないこと、要するに童貞か処女じゃな。これは龍穴の力を初めて使う時に重要になるのじゃ。一度力がその龍穴に馴染んでしまえば、それ以降は交わろうがどうしようが関係ないんじゃがの。」
……確かに土地神様と妖精の条件って、『強大な霊力の器』と『まだ』って事は一緒だ。何か意味があるのかな。
「意味は……わからん。役割は全然異なるしの。龍穴から溢れ出す大いなる力を制御する土地神と、自らが大きな力を生み出す妖精。条件とは打って変わって、性質は逆と言っても良いかもしれぬ。」
……そっか、そう聞くと逆というか、対の様だ。不思議なものですね。
「ちなみに、タマモの前の土地神は他の神域へと移動したと話したじゃろ?キノコ事件のあたりじゃな。あれは前土地神が、土地神になった後もまだ交わっておらんかったから可能なのであって、もしもここの土地神になった後にヤッておったなら、他へ移る事は出来んかった。タマモが成長するまで続けたのちに、タマモへと交代となっておったじゃろう。まだヤッておらなかったからこそ、タマモへの土地神交代が早まったのじゃ。」
……そうなんだ。
「あぁ、すまぬな。今補足を入れてもあまり頭には入っていかぬよの……。」
……いえ。こちらこそすみません。
「伝えておきたいのはここからじゃ。イズナは将来土地神になる為に幼い頃から頑張っておった。つまりは、土地神になるまで誰かと恋仲になるつもりは無いということじゃ。それをしっかりと行動でも示してきていたからの、里の者みんながそれを知っていたのじゃ。里の者もイズナに対してそういうアプローチをかける者はいなかった。……あっ、一名だけ馬鹿がおったが、しっかりと、そしてはっきりと断って、それ以降は全く相手にはしなかったのじゃ。」
……その、今バカと言われちゃった人って、まさか、トライデント?
「そうじゃ。あの馬鹿はイズナに一目惚れだったらしくての、初対面でいきなり腕を乱暴に掴んで、引っ張って連れ去ろうとしおったんじゃ。」
はあっ!?
「まぁ当然じゃが当時すでにイズナの方が強かった。いきなりじゃったから腕は掴まれたのじゃが、そこからは一歩も動かされず、突然腕を掴んできた馬鹿に目的を問いただし、しっかりと断ったのじゃから安心するが良い。」
あ、いや、私が心配するのはおこがましいですね……。
「いやそんな事はあるまい!その、おぬしが今後イズナとの関係をどうしたいか、おぬしの心を決めるのはおぬし自身じゃ。じゃが、それとこれとは別の事じゃ。相手を心配する事が、思いやる事がおこがましいわけがなかろう。その気持ち自体は尊い心じゃと妾は思う。」
!!!
……はい。卑屈になってしまい、考えがおかしな方向へいってしまう所でした。
春姫ちゃん、ありがとう。
「うむ。……とまあ、そんなわけでの、イズナ自身は色恋沙汰とは無縁じゃったわけじゃ。そんでもっての、イズナは読書が趣味なのじゃが……特に恋愛小説、とびきり純情というかピュアなやつが大好きでの。昨日も読んどったじゃろ?おぬしがずっと眺めていたあの時じゃ。最近お気に入りのタイトルがあるらしくての、おそらくあの時もそれを読んでいたんじゃろうて。」
30分も眺めていたんだもんな。我ながらなんて気持ち悪いのだろうか。
「まぁまぁ、自らの事をそう卑下するのではないのじゃ。結局は相手がどう思うかじゃ。……妾の事ならいくらでも眺めても構わんからの?」
それは……!
その権利はありがたく頂戴いたします。




