行くぞ!車出せ!!はよっ!
とにかく話を進めてみよう。
「いやさ、この集落に帰ってきたらさ、あっちこっちに獣耳つけた巫女さんのコスプレした女の子がいるからさ。」
さ、さ、さ。
姉が「マジで言ってるのか?」という顔でこちらを見ているが、構わず話を続ける。
「尻尾もついてる。しかも動くんだよ、かなり自然に。なんかいろいろ集落の様子変わっているし、コスプレイベントの可能性もあり得るのかとも思ったんだけど……。撮影とかしていないし、観光客っぽくもないし。いろいろ作業してたよ。掃除とか農作業とか。」
姉の表情が変化し、なんとも複雑な表情となってきた。
「だから町おこしとか田舎生活体験会とか、なんかそんな感じのイベントとかなのかもって思って。」
すると姉は、目を瞑りプルプルと震えだしたかと思ったら……、カッと目を開きこう言った。
「よもやよもや……よもやよもやだ!!こんな田舎でそんなことが起きているとは!私が来たときは見なかったぞ。まだいるのか!?」
「あぁ、荷物取りに行ったときはまだ(家の前の)公園でなんか作業してたよ。」
バッ!
私の返事を聞くやいなや姉が立ち上がり走り出した。
たぶん、まだ私の話を100%信じているというわけではないのだろう。こんな田舎でまさかそんなことが……と。ただ、集落の変化状況などからその可能性ももしかしたら……などと思い直し、可能性があるのならそれに全力で行動に移したのだろう。さすが我が姉である。さす姉。
ダッシュで向かって行った姉だが、すぐに戻って来た。
「くそ!もういなかった!帰ってしまったか。……諦めきれん。今、一目だけでも見たい。行くぞ!車出せ!!はよっ!」
私も行くらしい。
姉はまだ呑んでいないので自分でも運転できるのだが、私が車を出す。反論はしない。姉の命令は絶対だからだ。
決して、決して姉と一緒なら、もしかしたら姉が写真を撮らせて貰ってもいいかと聞いてくれるかもとか期待しているわけではない。あわよくば、流れに乗って私も写真撮らせて貰ってもいいかと聞けるかもしれない、などという下心があるわけではない。絶対ない。断じてないのだ。
私も立ち上がり、服装が乱れていないか確かめ、パッと整える。テーブルに置いていたスマホを持ち、姉を追いかけ外に出る。
……ん?あれ??
公園にいるじゃんよ。獣耳巫女さんが三人集まって楽しそうに話している。さっき見たあの白い狐巫女の娘もいる。あとの二人は黒い犬っぽい娘と茶色い狸っぽい娘。どの娘もとてもいい。
何となく聴こえてくる話の内容からすると、今度神社でお祭りがあるっぽい。この集落に秋祭りはないので、どこか別の所の話だ。
「ちょ、ちょ、ちょ、姉ちゃん姉ちゃん姉ちゃん、いるじゃん、公園にいるじゃん、三人もいるじゃん。」
私は声を潜めて姉に伝えた。視線は公園ではなく明後日の方向へ向けている。おっさんが若い娘たちの事を話すのはあれだもんね。気付かれたくないのだ。見ているのがバレて「え、あのおっさん私達の事見てね?」なんてことになったら怖いもの。
姉は、なぬっ!?と言い、テンション上げて公園を見る。そして上がったテンションをすぐに落としてこちらを向いた。
「いねぇじゃねえか。どこだよ!」
いやいやいやいやいやいやいや、いるでしょ、すぐそこに!公園を横目で見たが普通にいる。
って、あっ……獣耳巫女さんたちがこっち見てる。そして自分たちの周りを見回して、公園の向こうの田んぼを見回して、またこちらを見て、首を傾げた。ぐぅ、もはや尊い。
「そこにいるじゃん!」と言ってすぐそこにいる獣耳巫女さんたちを指差すなり、姉を連れて行くなりができれば話は早いのだが……獣耳巫女さんたちは完全にこっちを見ている。この獣耳巫女さんたちに見られている状況でそれをするのはハードルが高過ぎる。
姉は、あん?という様な訝しげな表情でこちらを見ていたが、私の手元を見て「あぁそういう事か」と言い、呆れながらも理解した様な、そんな雰囲気をかもしだしてきた。
私の手にはスマホが握られている。なんだろうか。
「なう?なうなら私もやってるぞ。」
と姉は言い、自分のスマホを取り出していじりだした。
は???
そういう事とはどういう事なのか。なうとは何の事だ。さっぱりわからん。
「ん〜、なうじゃないのか。でも何かの位置ゲーだろ?リアルで獣耳巫女のコスプレがいるのかと思って期待しちまったよ。ま、そんなわけねぇか……。」
そう言うと姉はいじっていたスマホを上着のポケットに戻し、はぁっと溜め息をついた。
……
……
……
え?
サブタイトルの方向性(?)を変えました。
この話からタイトルを数字にしていましたが、少しずつ変えていきます。