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いいえ、知らん

 私には父、母、姉、妹がいる。

 両親以外の兄弟三人は戸籍的にはもう別々なのだが、家族で唯一家庭を持っていない私にとっては、家族といったら私を含めたこの五人という認識だ。祖父母はすでに他界してしまっている。


 姉と妹はそれぞれの家庭があり、こんな市内の隅っこではなく市街地住んでいるのだが、今日は実家に帰ってきてくれている。本人のみで、それぞれの家族は連れて来ないと言っていた。私が長時間の運転で疲れているだろうから、と。そもそも私が帰って来たからといって親類で集まる様な事でもないのに、姉と妹が来てくれたことが嬉しい。彼女たちの家族も「いいよ行っておいで」と快く送り出してくれたとのこと。そのうち挨拶しに行こうと思う。


 ただ、姉から『おい』『道中でいろいろ地酒買って来い』『しこたま買って来い』(原文まま)と指令を受けていたので、彼女たちは良い機会とばかりにしこたま呑むつもりなんだろう。姉と妹は呑兵衛なのである。

 酒は呑むが、酒に呑まれることはない人たちなので、そのへんは安心安全ではあるが。




 とりあえず、必要最低限の物だけを持って再び家の中へ。酒もあるので家と車を二往復。におうふく、臭う服……今日は一日運転していたが汗とかで臭ったりしていないかな。まぁいいか、風呂のときに着替えれば。


 車があったので姉も妹もすでに帰って来ているはずだ。

 妹は母と一緒に料理をしているのだろう。夕飯の他にも酒のツマミになる物も作っているのだと思う。

 姉はおそらく、玄関の隣にある居間でテレビを見ているか本を読んでいるのかだろう。先程の私の帰宅第一声も、何か大声出してんな、うるせぇな、と思ったくらいだと思う。……もしかしたら、この事態に驚く私にニヤリとしていた可能性もあるだろうか。

 父もおそらく家にいる。父はだいたいの時間を二階の寝室でテレビを見て過ごしている。別に家族と仲が悪いとかではない。単にテレビで自分の好きな時に好きな番組を見たいのだそうだ。




「ただいま〜。」


 靴を脱いで家に上がり、居間に入ると案の定姉がいたので二度目のただいま。


「んー。」


 姉は多人数に対する言葉への反応はあまりしないが、自分個人への言葉へはちゃんと返事をくれる。「んー」という気のない返事が『ちゃんと』したものであるかは不明だが、姉弟間の挨拶なので、こんなものと言えばこんなものだろう。ニヤリやドヤ顔はなかった。良かった。


 酒を寄越せと言う姉に酒を差出し、私は仏壇へ。

 手を合わせ、帰郷の挨拶などを済ませたら再び居間へ。ようやく人心地つくことができる。

 久しぶりの長時間運転はやはり疲れた。休憩は入れていたが、運転中は少なからず気を張っているし、帰って来たら故郷が思ってもみない状況だったので精神的にフィーバー(?)してしまった。


 道中、数カ所の地酒売っていそうな場所に立ち寄り小さめのビンの酒をいろいろ買ってきたので、姉が楽しそうに酒を漁ってどこの酒かとか、どんな酒かとかあれこれ見ている。

 それを横目に見ながら座布団に座る。スマホを取り出しテーブルの上に置きながら「そういえば昔一回だけ通った道に温泉施設のある道の駅があったなぁ。あちらの道を通って来ていたら山中を通る道だしもしかしたら珍しい地酒にも出会えたりしたかもしれないなぁ。温泉にも寄られたのかもなぁ……。」などと、気も抜けてきた為そんなこと考え始めた。まぁ、もしもそこへ寄って温泉に入っていたなのら、到着は夜遅くになっていただろうけれど。


 ……はっ!

 そんな事よりもまずはアレについて聞こうぜ!

 落ち着いたとはいえ、気にはなるのだ。テーブル(和室なのでローテーブル)の上にあったお茶(仏壇にお詣りしている間に母が淹れてくれていたのだ。ありがとう。)を一口飲み、姉に聞いてみた。


「ねえ、アレってどうしたの?何があったの?」 


「知らん!!!アレって何だよ、アレって。」


 姉ならば普段はこの集落外に住んでいるため、この集落の状況の変化を認識しているだろう。『アレ』と言えば通じるんじゃないかとも思ったのだが。

 もしかしたら、とぼけて私を焦らそうという事か?

 ……いや、姉の顔を見るにニヤリ要素がない。『アレ』と一纏めにしてしまったらどれを答えればいいのか解らんぞ、ということかな?

 私としてはつい先程続け様に四つの異常事態を目撃し、それぞれが関連のある事態かもしれないと思ってしまっていたため『アレ』と一纏めにしてしまったが、それらが関連あるとも限らないし、説明する側からしたら困る言い方だったかもしれない。


 ならばそれぞれ個別に聞くことにしよう。まずは、当然コレからだろう。


「あ、ごめん。とりあえずまずは、獣耳と尻尾のある巫女のコスプレした人たちはなんなの?見たことない人たちだったけど、町おこしのイベントか何かやってるの?」


 ガタッ


「詳しく!!」


 姉がものすごい反応をした。お茶が少し溢れた。

 そう、姉はオタクなのである。あと、すでに察してる方もいるだろうけれど私もオタクである。ちなみに妹もオタクである。幼い頃は年上の影響力が非常に大きく、私と妹は姉の影響をモロに受けたのだと思う。あ、でも、若い頃と違ってそこまで濃い感じのものではない。……はず。


 今回は獣耳+尻尾+巫女という凶悪コンボ。姉にとっても大好物盛り合わせなのだから当然の反応と言える。……だが、それは姉が獣耳巫女さんたちを知らなければの話。

 彼女たちのことを知っていたら今さらこんな反応はしないはずである。演技とかでもなさそうだ。


 ……どういうことだってばよ?

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