あわわわわ……
世界が一瞬消え去ったかの様に感じた。
全身からドッと脂汗が溢れ出す。身体が、くの字に折れ曲がる。立っていられない。呼吸もできない。両膝と左肘を地面に付けて痛みに耐える。耐えきれないが耐えるしかない。
「ど、ど、どうしましょうどうしましょう!!あわわわわ……。」
「お、お姉ちゃん!おにいちゃんが……!」
「タマモ!あの場所は男の人にとっては急所なのです!」
「あたし、おにいちゃんにひどいことしちゃった……?」
「か、回復!回復術をかけないと!!」
二人が何か喋っているが全く頭に入ってこない。
だがその時、自分の中で何かが変わったのが解った。いや、解ったのではないな。これは、自覚したのだ。自分の霊力を自覚できる様になったのだ。
すると息をすることも出来ないくらいのあの痛みも、すぅーと引いていく。意識を集中させることで、回復の様な効果をもたらしたのかもしれない。
痛みも完全に治まった。良かった……。
「回復?あたしがおにいちゃんに回復かける!」
ふぅ……。私はようやく立ち上がる。
そこへタマモちゃんが私に再び急接近。だがその動きを捉える事はできない。これはまるで流水の動き。
「おにいちゃん、ごめんなさい。回復術かけるね。あたし、おにいちゃんにまた会えて嬉しくて……。」
ぴと。
ぴかー!
なでなで。
……なんたることだ!
狐耳ロリが私の股間を触ってきたかと思ったらその手が光り出して、さらにはなでなでしてきたーーー!!!これはいかん!これはいかん!だが、非常に気持ち良い……。
違う違う違う違う違う!!!!!そういう事じゃない!タマモちゃんの光る手から暖かいものが流れてきているのだ。回復と言っていたし、その効果を受けているということなのだ。
「なんだか硬k……」
「ありがとう!ありがとう!もう大丈夫、もう大丈夫だよ、ありがとう!!」
もとから大丈夫だったのだが、タマモちゃんの流水の動きと暖かい回復術の効果に、しばし時を忘れてしまった。
あっ、今のやり取り、当然イズナさんにも見られてしまったよね……。ちょっとイズナさんをちら見してみる。
チラッ
イズナさんは真っ赤な顔をしていた。これは私とタマモちゃんの、私の股間に関するやりとりをバッチリ見られてしまったのだろう。
もしかしたら、タマモちゃんから回復術をかけて貰っている時に私はヤバい顔をしていたかもしれない。
ロリに股間をなでられて喜ぶ四十路おっさん(事実ではないが、周りからはこう見えたかもしれないということ)を間近で見せられるなんて、悪夢以外の何物でもないだろう。
何とか弁解できないものか……とイズナさんを見ると目が合った。だが、サッとすぐに目を逸らされた。……これは、もう終わったのかもしれない。さすがに醜態を見せてしまい過ぎたか……。
いや、高望みしていたわけではないのだ。ただ、仲良くしてくれたらそれで良かったのだ。……いや、仲良くなんて十分高望みだな!
「あの、ケイさん。妹が大変な事をしてしまい、申し訳ございませんでした。」
「ごめんなさい、おにいちゃん。」
あぁ、親類かなとは思ったけれど、姉妹だったのか。
「いえ、もう治りましたから。気にしないで下さい。」
マジで気にしないで下さい。むしろ一連の出来事を忘れて下さい。
イズナさんにはそう伝え、次は片膝立ちの姿勢になりタマモちゃんに
「いいよ。治してくれてありがとう。」
と伝え、左手で頭を撫でる。昨日は喜んでくれたし、大丈夫だろう。
タマモちゃんはしょんぼりしてたが、ホッとしてくれた様子。頭を撫でると気持ち良さそうにしてくれた。
「ケイさんとタマモはどこかで出会った事があったのですか?」
「えぇ、昨日神社……現世側の神社へお参りしたときに会ったんです。」
「お稲荷さん貰ったの。美味しかった。」
「まあ!そうだったんですね。ありがとうございました。人見知りのタマモがいきなり飛びついていったのでビックリしました。」
人見知り……そういえば昨日は最初灯籠の影にいたな。
「お姉ちゃん達もとっても仲良しだね!手を繋いでる!!」
「!!!!!!」
あっ……。イズナさんは今気付いた!って感じで慌てて手を離した。残念。非常に残念である。
「これは、その、そう!ケイさんにも認識阻害の術を使っていたから!」
「ここに着いてからも術を使っていたの?それに、お姉ちゃんなら手を繋がなくても術を使えるのに?」
「境内に入ってからは手を離し忘れていたの!それと、術の発動も維持も手を繋いだ方が確実だもの!」
姉妹のやり取り。純粋に質問をするタマモちゃんと、赤くなって慌てながら答えるイズナさん。
ああ、そうか。気付いちゃった。答えは『私が怖くないように、心細くないように、それから私の安全のために』なんだろうな。
デンジャラス参道を歩く時は、視覚的にはやはり怖い。なので手を繋いで心細くないように。
境内は私の知らない場所に獣耳さん達。獣耳さん達も私を知らないから、迷い込んだり勝手に来た人間ではなく連れて来られた人間であるとアピール。そしてそんな中を歩く私が心細くないように。
そういった狙いがあったのだろう。でも、ここでそれを言ってしまうと私の自尊心を傷付けるかもしれないかと考えてそれを言わないでくれているのだろう。
役得役得!と一人で喜んでいた私はなんて外道なんだろうか。
「ケイさんと手を繋いでいたのを皆に見られちゃってた……?その、ケイさんは境内に入り術がきれた後も手を繋いだままだったことを気付いてました?」
前半は独り言で、後半は私への問いかけである。あれ?ガチで気付いてなかった感じなのかな?
「はい。周りから注目されていましたが、手を繋いでいてもいなくても、人間がここへ来るのは珍しいから見られるのだろうな、と。……それと、言ったじゃないですか。私にとっては嬉しい事なのだ、と。」
こんなおっさんに言われたらトラウマレベルだけど、イズナさんは気持ち悪がらずに受け取ってくれる。私は素直に白状した。
「あ、その、あの、はい。」
今回も気持ち悪がっている様子はない。照れてくれているっぽい。
さっきのタマモちゃんとのやり取りも、致命的なものではなかったと思ってもいいかもしれない。
本当は嫌だった、とかなら今後近付いて来ないかもしれないけれど……それはもはや仕方ない。その時はその時に泣こう。




