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獣耳良さそうじゃ

 さて、心を落ち着けて、いや落ち着けないけれど落ち着いたと自分に言い聞かせて、周囲をじっくり見回してみる。


 まず、この謎の道の作りはないだろう。無理だろう。素材的にも無理だとは思うが、私はそちら関係は全くの素人なので何とも言えない。だが、もしもこれを可能とする特殊な素材があったとしても、こんな田舎でそんな特殊な素材を使った道が作られるとは思えないし、手摺も無いこんな危険な道はそういった方面の許可とかも下りないのではないだろうか。いや、個人所有の建築なら、金があれば可能だったりするのか?そのへん全くわからん。


 それから、桜っぽい木はやはりどう見ても桜にしか見えない。

 宙に浮いている様に見える岩もやはりどう見ても宙に浮いている様にしか見えない。

 蜃気楼や目の錯覚、最新または研究中の技術……などの可能性はあるのか?


 まぁ、そんなことをここで一人で考えていても何も始まらない。

 誰かに聞くことはできないかと周囲を見渡す。おっ、獣耳巫女さんだ。とても良い。見ているだけで心が洗われる様だ。あっ、獣耳だけじゃなくて尻尾もあるのか。あの娘は狐っぽい尻尾だ。しかも白い。耳と尻尾だけではなく、髪の毛まで白い。

 獣耳と尻尾もただ付いているだけの飾りではなく動いている。動画配信サイトで見たことのあるVtuberの様に、いやもっと自然に動いている様に思う。そこに疑問を感じるよりもまずは……


 ありがとうございます!ありがとうございます!!


 その圧倒的な素晴らしさに感謝しかない。心の中で五体投地だ。この素晴らしさに比べれば獣耳と尻尾が動くことへの疑問などは極々些細な問題だろう。



 ……っと、見とれている場合ではない。見ず知らずのおっさんからガン見されるのは女の子にとっては気分の良いものではないだろうし、とても失礼な事だろう。狐耳だけこちらにぴくっと動いた様に見えたが、女の子はこちらを向くことなく歩いている。

 この娘にこの状況についていろいろ質問してみようか。


 ……いや、無理だ。近くにいるのはこの狐耳の女の子だけなのだが、私には見ず知らずの獣耳(+尻尾)巫女姿の女の子に話しかける勇気はない。諦めよう。


 ここで誰かに質問するのは諦めて、さっさと実家へ帰ろう。実家はもう目と鼻の先の距離なのだから。

 この状況については実家で聴いてみればある程度分かる……ことに期待しよう。

 あ、そういえば、集落がこんなわけわからない状況だけど……実家、あるよね?




 良かったああああぁっ!!!実家、ちゃんとあった!

 実家は安心安全と言わんばかりの佇まいでいつものその場所にあった。

 いや、集落内に見慣れぬ物や人物が増えているだけで、ベースとなる集落は変わっていなかった(と思う。過疎化が進む集落なので、知らぬ間に空き家になっていたり建物自体が無くなっていたりは良くあるので、物が増えた代わりに別の何かが無くなっていたとしても気が付かないかもしれない)のだが、かつて体験したことのない事態にどうしても不安になってしまっていたのだ。


 とりあえず庭に車を駐車、荷物は車に積んだままにして玄関へ。ガラガラガラと引き戸を開ける。そして第一声。


「ねぇ!!アレどうなってんの!?一体何があったの?あぁ、あと、ただいま!」


 これだけの変化なのだ。『アレ』と一纏めにしてしまっても言いたいことは通じるだろう。ただいまの挨拶よりも先に言ってしまったが、仕方ないことだと思う。

 家の奥からパタパタと足音が聴こえてきた。廊下の突き当りにひょこっと顔だけのぞかせてくる。母である。


「おぉ着いたのね、おかえりぃー!」


 とだけ言うと戻って行った。戻って行きつつ「夕飯作っているから後でねー!」と。


 ……あれ?なんか……普通だ。

 料理中なら誰かが来たとはわかっても、誰が来たかとか何と言っているかまでは判りづらいだろう。なので誰が来たのかを確認しに顔を出し、私だったからすぐ戻って行ったのだ。私の言葉も、ただいまーとか疲れたーとかそんな感じの事を言ったと思ったのだろう。

 とっても普通だ。いつもの帰郷時と特に変わらず、普通だ。


 いや、まあ、そうか。私にとってはついさっき初めて目の当たりにした異常事態だが、集落の住人にとっては昨日今日の出来事ではないのだろう。

 桜(仮)や岩(仮)はともかく、獣耳巫女さん達は観光客というよりこの集落に住んでいるかの様な落ち着き様だった。思い返してみれば、畑で取れたであろう作物を持っている娘や、庭の掃除や水やりなどの手入れをしていた娘もいた気がする。観光をしている様な景色を眺めたり写真を撮ったりしている様子も、コスプレを楽しんでいたりその姿を撮影したりする様子も見られなかった。もしかしたら本当にこの集落に住んでいるのか?

 あの道も、造るぞ!はい完成!となるわけではないのだから、計画段階や着工期間を考えると集落の住民は結構前からあの道のことを知っていたのかもしれない。

 そうなると、もはや異常事態でもなんでもなく、この状況が日常となっているということだろうか。


 周りはもう慣れてしまい日常を過ごしている中、後から来たやつが一人でビックリして狼狽えている状況だと考えると……異世界ラノベだと読んでいてニヤリとする場面だろうか。

 車を作って、なんだこの鉄の箱は?速えええっ!!みたいな。カレーを作って、美味すぎるっ!!みたいな。

 ビックリする人を見て住人Aがドヤ顔をして「どうだ、スゴいだろう」と言い、住人Bが住人Aになんでお前がドヤ顔するんだとか言ったりもあるかも。

 ……ちょっと違うか。


 自分を少し客観視できたためか、そんな事を考えるくらいには落ち着くことができた。意図した事ではないだろうが、通常運転の母のお陰でひとまず動揺が収まった。さすが母ちゃん。さす母。……母がドヤ顔してこなくて良かった。


 とりあえず家に入って一休みしよう。あ、一休みの前に仏壇だな。頭を切り替え、この後の行動について考える。まぁ、考えるというか、結局いつもの帰郷時の行動と同じだ。お茶でも飲んでゆっくりしながら諸々について聞けばいいか。

 まずは荷物を取りに車へ戻ろうか。

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