作った人は酒好きだったのかなぁ
「私達と人間で文化的、社会的な違いがある事を痛感しました。普段目にしている事であり、本を読んでいるので、少しは解っている気になっていましたが、それだけではダメですね。でも、嫌われているのではないと解って……安心しました。」
イズナさんがそう言って笑顔を見せてくれた。
良かった、目的は達成できた。
普通ならば気持ち悪さのあまり泣かれても仕方ない様な言葉をはいたが、そのへんも大丈夫っぽい。
「あ、しかし、あくまでも、『世間はそういうもの』だと私がそう感じているという事です。実際はそれ程でもないかもしれませんし、逆にもっとエグいかもしれません。もちろん、個人個人、考え方はいろいろです。」
「はい。確かにそう、ですね。」
ちなみに、今、例の道を歩いています。吊っていない吊橋が坂道になって神社へと続いているような道。景色がすごい、と言うより、景色が怖い。足元ヤバい。たまひゅんタマヒュン玉ヒュン。こんなヤバい景色より、イズナさんの事を見よう。
チラリ、と見せかけてからのガン見。
あっ、目が合っちゃった。からの、そらされちゃった。でも、なんか、照れてるっぽい反応。そんなわけないのは解ってるって。でもつかの間の夢くらい見てもいいじゃないか。
「あのケイさん。私はずっと、土地神の位を目指して修行を積んでまいりました。とても、とても嬉しかったのですが、少し考える時間をいただけませんか?」
「いくらでも待ちます!」
「!!!」
さっき悲しませてしまったので、秒でレスポンス。
イズナさんはいずれ土地神様になるのかな。ここなのか、それとも他の神域なのか。
そういえば一昨日、霊力浴びて器を強化するとかなんか言ってたもんな。それでレベルアップ(仮)していけば、いずれは土地神級の強さ?になれる可能性がある、と。そういう感じかな。
ところで、考える時間ってなんだろうか?私を迎えに来てくれたけれど、本来は仕事か修行をしている時間だったのだろうから、やはりそっち関係だろう。私を迎えに来てくれたことで時間を使ってしまったのだもの。私に構わず存分に考え事をして下さい。
私は周囲を見渡す。イズナさんをずっと眺めていたけれど、考え事の最中にジロジロ見られては集中できないだろう。
う〜む、足元を見ればタマタマがヒュンヒュンする。50cmも横にずれれば数十メートル下に落下しちゃうのだ。なのに、歩行は安定しているというか、精神的に安定しているというか。なんとも言えない気持ちになる。東京タワーのガラスの床の上にいる様なあんな感じ。これも落ちない様にする術の効果なんだろう。
そういえば、スカイツリーにもガラス床みたいな所ってあるなかな?スカイツリーは行ったことないんだよね。
クロを連れて東京へドライブ……はさすがに遠いか。若い娘連れて泊りがけのお出掛けはダメだ、ダメ過ぎるだろ。
「この道、最初は怖いですよね。でも普通に歩ける。ここへ来たばかりの頃はとても不思議な気分でした。」
イズナさんが話しかけてきた。考え事はいいのかな?いや、これは私の様子を見て、話しかけてきてくれたのだ。優しさなのだ。
「恐怖で足がすくんだりせずに普通に歩けるのも、この道から落ちない様にする術の効果なんですか?」
せっかくなのでさっき思ったことを聞いてみた。
「はい、そう聴いています。他にも、突風が吹いてもこの道を歩いていればその風を受けない、雨が降っていても歩行者は濡れないなどの効果もあります。あとは、お酒を呑んで二日酔いになっていてもこの道を歩けば神社へ着くまでには酒気も抜けて元気になっている、なんてのも聴いています。」
「あはは、作った人は酒好きだったのかなぁ。でも、いろんな効果があってすごくハイテクな道なんだね。」
「はい。この道にかけられている術はかなり高度な術です。今ではこの道をモデルとしたものが国中の神域へと広まっています。私の産まれた冬の里にも似たものがありました。」
「冬の里もこんな感じの宙に浮いた様な道なのかな?」
「いえ、冬の里は普通の地面にある道ですね。神社の境内の道と、参道の一部にこの道の術を応用したものが使われています。」
「冬の里にはいつか行きたいなぁ。」
「はっはい!その、いつか、ご案内いたします!」
「ありがとうございます。いつか行く時が楽しみです。」
いきなりイズナさんが、なんというか、慌て出したというか、あたふたし始めた。
う〜ん……実は昔は中二病的な感じであり、故郷にはその過去を知っている人がたくさんいる、とか?
ないか。来ないで!とか隠したい!とかそういう感じではないし、あってもせいぜい小さい頃は野山を駆け回っていたとか、近所の柿をとって食ったとかそんなくらいだろう。
……勝手にわんぱく設定のイズナさんを想像してみたが、それも可愛いな。うん、いい。
「両親は冬の里におり、父は狐族の族長を務めています。冬の里へ行った時はケイさんにご紹介いたしますね。」
族長なのか。
狐族はもふもふ尻尾。イズナさんに尻尾を触らせてくれなんて言えないが、男同士ならば、何かの拍子にワンチャン触らせてもらえるかもしれない。この際、ワンチャンじゃなくキツネチャンでもコンチャンでもいい。
BL的な絵面になるかもしれない。いや、OLか?あ、イズナさんの父親ならば私よりも年下の可能性もあるだろう。その場合はおっさん呼びは可哀想である。
まあとにかく、是非ともご挨拶させていただきたい。
「はい、是非ともご挨拶をさせて下さい。」
「は、はひっ!」
そんな話をしていたら、坂道も終わり大きな鳥居の前へ到着した。




