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いえいえいえいえいえいえ!

 ……


 ……


 ……


 あまりの威力に一瞬意識を失ってしまったかもしれない。

 もしかしたら夢だったのかもしれない。そう考えれば辻褄が合う。どんな事が起きても夢だったら全て辻褄が合ってしまう。

 だって、若い娘にとって、四十路のおっさんと手を繋ぐなんてもはや罰ゲームだろう。


「あの、そんなに……お嫌でしたか……?」


 私はハッとしてイズナさんを見る。

 イズナさんは狐耳と尻尾をしょげさせながら、恐る恐るといった感じで話しかけてきた。

 やってしまった。気を失っている間を含め、どれだけの時間無言になってしまったのだろうか。会話の途中で、いや、こんな事を考えている場合ではない。


「いえいえいえいえいえいえ!そんなわけありません!!」


 平日の昼間に道路の真ん中でおっさんが大きめの声を出している。いや、過疎化集落基準だと私もまだ若者かもしれないが。でもそんな事に構っていられない。まあ実際あまり迷惑にはなっていないだろう。田舎だもの。

 獣耳さんたちには見られてるかもしれないが、そこはごめん。


「嫌なわけありません。その、なんというか、むしろ、とても嬉しいです。ただ、イズナさんにとっては罰ゲームみたいなものになるのではないかと思ってしまって……。その、よろしくお願いします!」


 今さらながら手を差し出す。


「罰ゲームだなんて思いません。……本当に嫌とかじゃないんですか?」


 イズナさんの言葉に私は力強く頷く。

 イズナさんはそれを見て、少しホッとしてくれた様子で手を繋いでくれる。そして短く何かを唱えて術を発動。何かが身体に浸透した様な感覚を受けた。


「術を発動させました。神社の敷地に入るまでは術は続継続します。」


 まだイズナさんは先程の事を気にしている様子。しょぼんとさせたいわけじゃないんだが、どうしたものか。ここは、もっとキチンと伝えよう。

 手を繋ぐ事を内心すごく喜んでいると知られたら、ドン引きされるか、気持ち悪がられるかもしれない。今の様に普通に接してくれている現状から変化してしまう可能性もあるが、このままイズナさんの心にシコリを残す事になってしまうよりはいいよな……。


「あの、イズナさん。」


 周りから見れば(視れない)手を繋いで、歩いているのでもしかしたらデートにも見えるかもしれない。とか頭によぎってしまう。

 そんな事を考えて現実逃避である。逃げるな卑怯者!

 私は意を決し、イズナさんに伝える。


「先程は勘違いさせてしまって申し訳ないです。本当に嫌とかそういうわけではないのです。イズナさんはとても美人だし、可愛いし、一昨日家に来られた時は見惚れてしました。まじまじと見るのは失礼かとも思ったのですが、どうしても目を離す事ができませんでした。イズナさんがシーって合図をしてくれた時も見惚れていたので頭が働いてなかったんです。それから、言動を見てみても、相手への思いやりを感じるものであり、暖かくて優しい娘なんだなぁと感じました。なので、イズナさんはとても魅力的な方だな、と思っています。そんな女性と手を繋ぐのは……私はこんな歳ですが、それでも心が踊ってしまうんです。」


 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!!

 自分でもキモい言葉だと自覚している。こんな事言われたら二度と近付いてきてくれないかもしれない。トラウマもんだろ。

 普通ならば良くて言いふらされて皆の笑い者、悪ければセクハラで慰謝料請求された上で仕事もクビのある意味伝説として会社内で語り継がれる、という感じだろうか。


 イズナさんは今どんな反応をしているのだろうか。

 怖い。確かめるのは非常に怖い。だけど、何のためにこんな事を言葉にしたのかを思うと、確かめないわけにはいかない。

 チラッ

 あ、イズナさんは向こう側をむいている。顔を背けられている。

 まぁ、そう、だよね。だけど手は繋いだまま。術のためとはいえ、拷問だよね。


 ……


 ……


 ……ん?


 ……あれ?

 イズナさんの顔が、赤い……?

 照れて、くれている?


 いや、そんなわけ、ないよね?


「……その、ありがとうございます。でも、それでは、なぜ、あんなにも間を開けたのですか?」


 イズナさんは顔を向こう側にむけたまま問いかけてきた。

 あんな事を言われたのに、ありがとうという言葉が出てくるなんて、なんて良い娘なんだ……。


「私は、四十路のおじさんと言われる年齢ですから、イズナさんみたいな若い娘にとっては、その、嫌悪とまではいかなくても、近付きたくない年代かなぁ、と思ったのです。術のためとはいえ、手を繋ぐというのは、嫌なんじゃないかなぁって。」


 言ってて気付いたのだが、相手が嫌がるのではないかと気遣う様でいて、その実、相手に嫌がられたら自分が傷付くからそれを怖がって避けたかったのではないだろうか。

 そして、相手をしょんぼりさせてしまったのだから、いやはやなんとも情けない。恥入るばかりである。


「……なんで嫌がるのですか?自分よりも経験を積んだ方に敬意を持つのではなく、嫌悪の対象にするのですか?」


 あっ、イズナさんがこっちを向いてくれた。疑問でいっぱいという顔をしている。さっきまでどんな顔をしていたのかは伺えない。


「う〜ん、いろいろと理由はあると思うよ。新しい物を取り入れる若者に対し、新しい物に疎かったり否定的な大人とか。自由にやってみたい若者と、口うるさく注意する大人とか。」


「助言をいただけるという事は有り難いものだと思うのですが……。人間社会は少し不思議に感じます。」


「あとは、今回みたいに手を繋ぐというか、身体が触れるということについてですが……若い女の子からしたら、おじさんは異性としての魅力がないですからね。だけどおじさんからは若い女の子を異性として見る。その違いや、普段偉そうにしてる癖にイヤらしい目で見てくるんじゃないという思いなんかもあるかもしれません。」


「恋愛事は個人と個人の事であって、年齢で差別するなどと考えたことはありませんでした。」


 恋愛、かぁ……。おじさん目線だと、恋愛というより、もっと生生しく性欲と言った方が正しいと感じるが、そこは、まあ、ちょっと、言えない。

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