あっら〜あなたもしかして
はっ!として振り返る。しばしの間忘れ去っていた妹の存在を思い出したのだ。
すると妹は、なんだか暖かい目で私を見つめてきていた。
「そうだよね。お兄ちゃんにだっていろいろあるよね。」
妹は聖母を気取ったかの様な表情を私に向けてくる。
「やめろ、私を……私をそんな目で見るな!やめてくれ!!」
何よりも『お兄ちゃん』呼びを止めてくれ!ゾワッとしたわ!五臓六腑に鳥肌が立ったかと思ったぞ!!
「まずは心身をゆっくり休めてね。私は味方だからね、お兄ちゃん。」
「やめろぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」
お兄ちゃんはやめろぉぉぉっ!!
私は家の中に逃げ去ることしかできなかった。
さて、神社とお墓にお参りをした。
やっておかなきゃいけない事は……市役所への届け出いろいろかな。あ、車関連で警察署も行かなきゃね。これらは明日の午前中に行ってこよう。時間どれくらいかかるかわからないから、朝一受付開始から行こう。
あとは、本家やご近所さんへの挨拶もしなきゃね。それから区長さん家にも行っとくか。すでに私の姿は目撃くらいはされているだろうから、早目に行かなければ。
……今から行ってくるか。
手土産は、焼き菓子でいいか。前にいた場所の銘菓らしいやつ。私は20年くらい住んでいて知らなかったけど。
比較的若い世代の家にはプリンの方が良かったりするかな?
まぁとっとと行ってこよう。
行ってきた。……大変だった。
玄関先で挨拶して手土産渡して終わりの家もあったけど、逆に果物くれたりする家もあった。中に通してお茶を出してくれる家もあった。仏壇にお参りして、お茶を一杯だけご馳走になった家もあった。ありがたい。それらは良かったのだ。
大変だったのは中に通してくれた後、お茶じゃなくて酒を出して来てきた家があったのだ。そんなに話したことのない爺ちゃんなのだが、明るいうちから酒を呑むダシに使われたのかもしれない。帰り際に「そういえばアンタはどこから来たんだ?」「はぁ、そんな遠くから。今日これからそこに帰るのかい?それともどっかに宿とってるのかい?」「ああ、あそこん家の倅かぁ、言ってくれよ!」と言われたもの。もちろん最初に言った。話の途中で何か食い違う部分があった時も言った。大変だった。
あと、何軒か留守だった家があった。まあ当然留守の家もあるよね。そこへは暗くなってからまた行こう。
邪魔になってしまう時間帯かもしれないが、明日は予定がある。明後日になってしまうと今日訪問した家とで二日も差ができる。あの家には行ったのにうちには……みたいな事になったら大変だ。
まぁ、そこまでの事はないだろうが、こういうのはわざわざ積み上げる必要はないだろう。
それに時間を理由に玄関先で一方的にマシンガントークして手土産置いて去ってくることも可能かもしれない。「ちゃーっす!遅い時間にごめんねー。帰ってきたよーこれからまたよろー!これお土産ね。それじゃねー!」これならば10秒で終わる。たまには出してみますか、本気ってやつ!
ダメだった。
挨拶行った家の家族に多大な迷惑をかけてしまった。
出てきたおばちゃんに対しこちらがマシンガンをぶっ放そうとしたら、逆にガトリングをぶちこまれてしまった。「あっら〜あなたもしかしてケイちゃん?久しぶりね〜すっかりおじさんになっちゃったわね!」から始まり、「今年の夏は暑かったわね~!だからね……」「キャベツの値段がね……」「あのラーメン屋(市街地にあるラーメン屋)がもうすぐ店仕舞いしちゃうらしくてね……」など、いろんな話題をガトリングしてきた。一時間のガトリング。話の内容はなかなか興味深いものだったのだが、時間帯的に申し訳ない。
エプロンして菜箸を持っていたので、たぶん料理中だったんじゃなかろうか。
途中で何度も撤退を試みたのだが、尽く退路を潰されてしまった。
しまいには後方から家族が申し訳ないというジェスチャーをしてきていた。いや、こんな時間に来た私か悪いのです。本当に申し訳ない。
その家以外は10秒は無理だったが、2分くらいで終わらせることが出来た。でも、どの家も変な時間にごめんよ。
家に帰るとすでに両親とも夕飯は食べ終わっていた。
母がすぐに温め直してくれたので食べる。ありがたい。いただきます。
あ、姉と妹はとっくに帰ってしまった。酒呑み爺ちゃんの家にいる時あたりだ。挨拶回りが早く終わるようならば姉と妹が帰るときに私も市街地について行って、今晩の夕飯に寿司を買って帰るのもありかと思ったのだが、おじゃんになってしまった。時間がかかったのもあるが、少量だが酒を飲んでしまったから。
酒飲んで家に戻った後に母に謝った。ご飯作って下さいと、寿司を食べる口になっていたらごめん、と。寿司は後日買ってきます。え、蟹?あ、はい、わかりました。寿司じゃなくて蟹を買ってきます。




