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問題あるだろ!どうした!?

「こんにちは、イズナさん。」




 イズナさんは本に集中している為か、私と妹が帰ってきても全く気が付かなかった。

 妹が家に入っていった後、ついついイズナさんを眺めてしまった。気付いたら30分以上時が経過していた。夢中になってしまった。

 いや!存在するだけで世界を浄化させているかの様な姿なんだもの、見ちゃうよ!それに、ページを捲るたびに横に出した尻尾が波打つのだよ!?スタジアムとかで観客がするウェーブみたいな。当然私の心の中のスタジアムも無限ウェーブです。ふっくらもふもふ狐尻尾が波打つの、とても良い。


 はい。有罪。どんな言い訳を並べても有罪。

 四十路のおっさんに30分も眺められ続けるなんて、中学生年代の娘にはもはや拷問に等しいかもしれない。ほんとごめん。マジでごめん。でも事実を伝えて謝るより、伝えない方がいいかな。知らぬが仏というやつだ。いや、決して保身の為だけではない。実際問題「あなたをしばらくの間眺めていました、ごめんなさい。」と言われても困るよね?ね?心胆寒からしめてしまう事になるかもしれない。言い訳ぐだぐだぐだぐだ。


 まあ、そんな事は置いておいて……。

 イズナさんがあまりにも本に熱中している為、話しかけて邪魔するのも良くないのかな……?とも思うのだけど、我が家の庭にいるってことは私に用事があるってことだよね?来ている事に気付いているのに声をかけないというのも、何というかあれだよね。

 それにもし私に用がなかったとしても、また続きを読めばいいだけだよね。集中乱すのはごめん。


 という経緯(?)があり、帰って来てから30分もたってからようやくイズナさんに声をかけたのだ。




 私が声をかけるとイズナさんはハッとして本を閉じた。


「こんにちは、ケイさん。」


 座ったままでもいいのに、わざわざ立ち上がってから挨拶を返してくれた。


「土地神様が“一度遊びに来てほしい!”とのことなのでお伝えに来ました。クロが“さっき会った”と言っていたので、こちらの長椅子をお借りして待たせていただいていた、のですが……その、もしかして、私の方こそお待たせしてしまったのではないでしょうか……?」


 少し首をかしげ、不安そうに、私の表情を窺いながら質問してきた。ぐぅ。


「いえいえ、全然待ってないですよ!大丈夫ですよ。」


「そうですか、良かった。私は本を読むと夢中になって周りが見えなくなる事があるので、またやってしまったかも、お待たせしてしまったかも、と焦っちゃいました。」


 ホッと胸をなでおろす仕草をした後、笑顔を見せてくれた。ぐぅかわ。


「はい。イズナさんは本を読んでいる姿も絵になるので、30分眺めていてもほんの一瞬に感じられました。ページ捲る時に尻尾が動くのも可愛かったです。」


「えっ?それって……」


 あ、間違えた。

 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤゔぁいヤバい。


「そうそうそう、土地神様ですが、遊びに来い、ですか?先日聞いたとおり、召喚とかそんな雰囲気というより、もっとかなりフランクな感じになると考えればいいのかな?伺うのはいつでもかまいません。今からだろうと明日だろうと夜中だろうと、指定の時間に伺います!」


 さっきの失言を押し流すが如く怒涛の早口。

 あ、遊びに来いとかそんな感じだったら、手土産的なものも持って行った方がいいのかな。帰って来る前に買っておいた、以前住んでいた県の農産物を使用したプリンでもいいかな?


「はい。一緒にお茶飲みながらお話しましょうということですね。近所の家に遊びに行く、みたいなゆるいものと思って下さい。」


 危なかった……。私の失言を追求するより要件を伝える事を優先してくれた。助かった……。


「それで日時なのですが、土地神様はとても楽しみにしている様子で……明日でも、本当に大丈夫なのですか?」


「はい!問題ありません!!」


 大きな声で返事する。あ、そうだ、家の中まで聴こえてしまうかも。ヤバい。

 案の定、家の中にも聴こえていた様で妹が家から出てきた。


「問題あるだろ!どうした!?」


 はい、そうですよね。問題ありますよね。近所迷惑ですよね。

 姉の場合だと、あ?何してんだ?うるせぇな。と思って終わるだろうが、妹の場合は心配で出てきてくれるのだ。まぁ、近所迷惑だから止めろというのも含まれてはいるのだが。


「あぁ、すまん。あまりにも素晴らしいのでね、魂の叫びなのだ。以後気を付ける。」


 そう言って妹に背を向け空を見上げる。素晴らしかったのはイズナさんなのだが、視線を空に向けることにより「いい天気だから思わず叫んでしまった」のだと思わせる作戦。誤魔化してごめん、妹。背を向けたのは誤魔化してしまう罪悪感からだ。


「まぁ、確かにいい天気だけどね。暖かいし。」


 妹もこちらへやって来た。

 それを見たイズナさんは、ぴったりとくっついて来た。はふん。たぶんこれ、あててんのよ状態。でもわからない。

 だが、それがいい!!!


「明日の、時間はおやつ時、午後3時頃でもよろしかったでしょうか?」


 ヒソヒソと伝えてくるイズナさん。

 コクコクコクコクコク。

 妹のことは忘れて頷き五連。イズナさんは苦笑いを浮かべて、少し離れていく。いや、私がキモくて距離を取ったんじゃないくて、ぴったりくっついていたのから元の距離に戻っただけだよ。……たぶん。


「明日の午後3時にお迎えに参りますね。それでは失礼いたします。」


 ぺこりとお辞儀をしてから去っていくイズナさん。後ろ姿も良いものだ。

 沸騰した脳みそでは変なことしか考えられなかったが、冷静になって考えてみると……イズナさんの声は妹に聞こえないので普段通り声を発しても何も問題ない。なのにさっき近付いて来て小声で話しかけてきたのは、『間近であること』と『小声で話しかけること』の二重で私が普段通りの声を発しない様に気を使ってくれていたのだ。

 それをまた私はコクコク頷いて台無しにしてしまったのかもしれない。

 ……でもさ、ぴったりくっつかれたらおかしな反応しちゃうよ。

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