ちょ、どした!?大丈夫?
この集落に寺はない。墓地は少し山を登った所にある。我が家から見ると、神社の斜め奥の方に位置している。だが通り道は全く別であり、墓地への道はぐねっと曲がっているが、車でも行けるくらいの幅と勾配である。
妹は寝てしまうことなく、しばらく休んでからの出発。
神社へはソロで出掛けたのだが、今回は賢者と狂戦士の二人パーティの気分だ。車で行くかと聞いたけれど、どっちでもいいと言うので、歩きで行くことにした。道中は緩い上り坂なので、神社への道よりこちらの方がピクニック感がある。
妹とは普段から『リーニエ』でやり取りするのだ。あのチャットみたいな感じでメッセージとか送れるやつ。欧州サッカーの事やアニメの事、そこから話が膨らんで姪と甥の話まで。特に、サッカーとアニメの話は良くする。これらは旦那とは話せないのだ。いや、趣味を隠しているとかではなく、単に合わないのだ。旦那は野球派、アニメはデスゲーム系が好きらしい。
今は今期のアニメの話をしながら歩いている。千年以上生きた魔法使いのアニメだ。
四十路の男と三十代半ばの女がアニメの話をしながら往来を歩いている姿について、中には心良く思わない人もいるかもしれないが……人とも車とも誰ともすれ違う事のない様に見える田舎道での、公序良俗に反する事もない内容の、趣味の話なのだ。許してくれ。
ちなみに人間は見ないが、獣耳さんはちょいちょい見かける。ほとんどが巫女服を着た女性だが、一人だけ作務衣を来た青年がもの凄い勢いで走り去って行くのを目撃した。
ん?茶色い兎耳の女の子がこっちを見ている。
いや、私ではなく妹を見ているのか?妹に用だろうか?でも妹は見えないはずだぞ?
敵意とかではなく、温かい感じなので危険は無さそうに見える。
とりあえず、妹にはバレない様に、兎耳巫女さんに向かって会釈をしてみた。だが、私の事など完全に眼中にない様子だ。無反応。私が兎耳巫女さんを視えているという事に気付いていないのかもしれない。
妹に伝えてみる、というわけにもいかないよな……。
……いや、別に禁止とかの注意は受けてないよな。
妹がそれを信じる信じないは別として、私が視える様になった事を伝えるくらいならば、してもいいかもしれない。
まあ、その辺も土地神様に会えたら聞いてみなければ。
今はごめん、うさちゃん。
アニメの話に一区切りついたとき、ススキの繁っている斜面へと差し掛かった。
この山のこの斜面には木が生えておらず、一面のススキが広がっているのだ。……ごめん、盛った。一面というほどの広さではなく50m✕100mくらいの範囲だ。キツい斜面なのでそこを登って行くことは出来ないし、自然のものなのでススキ以外の植物も生えている。
「あっ!ケイ!!!」
と声が聴こえてきた。クロの声だ。姿は見えないが、上の方から聞こえる。距離も離れていると思う。この斜面には木が生えていないから遠くから私を発見しやすかったのだろう。
ズザザザザザッ
うおっ、クロだ!ススキを掻き分けこの斜面を駆け降りて来ている!?
ダッ、ターン!
途中で大ジャンプ、そしてクルクルッと二回転して私のすぐ近く、道の下り側に着地。素晴らしいっ!ブラボー!!心の中での大喝采。あまりにも凄くて声が全く出せなかったのは助かった。妹隣にいるもの。
「ケイーーー!!また会えたねー!」
クロがガバッと抱きついて来た。勢いに負けて尻もちをついてしまう。クロは抱きついたまま、私の膝の上に跨って私の胸に頭をグリグリと擦り付けてくる。あれだ、所謂対面座位というやつに近い体制である。尻尾はブンブンと勢い良く振られている。
「ちょ、どした!?大丈夫?」
妹は突然尻もちついた私を心配して声をかけてきた。妹にはクロが見えないので、不自然に尻もちをついた様に見えたのだろう。心配してくれてありがとう。
でもここはとりあえず誤魔化しておかねば。ついでに時間稼いで先に歩いて行ってもらった方がいいだろう。
「あぁちょっと尻割れて四つになった。座ったついでに靴の中に入った石取り出して靴紐結び直すからちょっと先歩いてて〜。」
「そっか、わかった〜。」
妹はゆっくりと先に進みだした。
靴紐くらいだと妹は待っていてくれるだろうから、小休止の言い訳を並べている風を装った。
妹は普段からよく山菜採りなどをしているため、結構体力がある。そして自分以外の、普段山歩きをしない人にとっては山を歩くのは大変だと知っている。なので山では周りの人を気にかけてくれる。ただ、素直に疲れたと伝える人もいればちょっと意地を張ってしまう人もいる。「ちょっと疲れたから一休みする」と伝えれば妹も立ち止まってくれるだろう。だが今回はそれではまずいのだ。なので今回は『意地を張って妹に疲れたと言えず、あくまでも靴に小石入ったからだぞ?』風を装った。妹の優しさを利用してしまったのだ。すまん、妹。
そして私はクロに小声で伝える。「当たってるんですけど」と伝えるわけではないので、当然「当ててんのよ」とは返ってくることもない。そういう事を伝えるわけではない。
「ごめんね、今は妹と一緒なんだ。妹にはクロたちの事が視えないから、小声でごめんね。」
するとクロはハッとした後、妹の方を一度見てから、ショボンとする。狼耳も尻尾も、ヘタッと萎れてしまったかの様になった。
「ごめんなさい。ケイのことしか見えてなかった。」
「いや、いいさ。視える人に会ったのは私が初めてだって昨日聞いたし、その視える人が視えない人と一緒にいるっていうのも、ほぼ初めてだもんね。仕方ないよ。」
昨日会ったときは姉がいたのだが、すぐに家の中へ入っていった。
「うぅ、気をつける。」
クロから私への好感度はかなり高いと思われる(少しの時間車に乗せただけなのだが。)。ここは、しょぼんとするクロの頭を撫でてもいい場面ではないだろうか。
だが、私の身体は動かない。これは意気地なしだから……ということではなく、物理的に動かない。動けない。クロにがっちりホールドされている。身体はクロに抱きつかれたままなのだ。
そう、当たっている継続中。あ、立っていると言われない様に気をつけねばならない。




