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ちゃんと美味しいよ

 まあ、考えてわからない事を考え続けるのはここまでにしようか。

 当初の予定通りご飯にしよう。朝作ったおにぎりとお稲荷さんだ。


 私は崖の縁側へと移動し地面に腰を下ろす。崖の縁ギリギリまでは怖いから行かない。その手前、並んだ木と木の間に座った。ここから我が家とその周辺の家々が見渡せる。崖から身を乗り出せば集落の家々の大半を一望できるかもしれないが、私の座る位置からは並ぶ木々によりそこまでは視界が開けてはいない。だが問題ない。今の視界も十分いい景色である。


 あぁ、いい天気だ。秋も深まってきたが、今日は少し暖かい。絶好のピクニック日和である。雨が降っていても今日お参りに来ただろうが、ご飯とお茶を持ってこようなんて思わなかったはずだ。本当に晴れて良かった。


 まずはお茶。水筒のフタにこぽこぽこぽっとほうじ茶を注ぐ。立ち上る湯気とほうじ茶の香り。はぁ、心が安まるなぁ。

 ずずっ、アツッ!!

 そうだよね、少し冷まさないと熱いに決まってるよね。心が弛緩しすぎていて油断してしまった。


 それはさておき、さあ食おうじゃないか。お稲荷さんは後にして、先におにぎりを食べよう。中身は梅干。母が漬けた自家製である。

 一口頬張る。私が自分で握ったデカいおにぎりなのでまだ中身に辿り着かない。今感じる味は米と塩と焼き海苔の味だ。米は新米である。それだけでも美味い。私が握ったものなのに美味い。

 ほうじ茶を啜り、息をはぁぁとはく。

 続いておにぎりをもう一口。今度は梅に辿り着いた。くぅぅぅ、酸っぱい。顔のパーツが真ん中に寄った様な顔になっているのが自分でもわかる。梅干といったらこの酸っぱさなんだよな。コレだよ、コレ。新米と梅干。これだけでもうご馳走だよね。

 ほうじ茶を啜る。はぁ、美味い。

 今この瞬間、私は世界で一番幸せなのかもしれない。




 かさっ。

 おにぎりを食べ終え、お稲荷さんを一口食べた所ですぐ近くで落ち葉を踏む音がした。音がした方向に顔を向けると、三本隣の木の影にさっきの可愛い狐耳の女の子がいて、こちらを見ている。

 あ、もしかして、神社の境内で何か食べる事がまずかったのかもしれない。初詣や祭りの時には境内に食べ物などの屋台が並ぶ神社もあるし(あるよね?)、馴れ親しんだこの集落の神社ならゴミを残さなければ大丈夫だろうと緩く考えていた。

 ……いや、責める様な視線ではない。これは、知らないおっさん(しかも自分を見ることが出来る珍しい)が何か食べていて、それが気になって見に来たのかな?


 ……


 ……


 ……


「お稲荷さんがあるんだけど、良かったら、食べる?」


 とりあえず聞いてみた。当然ながら下ネタではない。

 狐耳幼女は耳をピクンと動かした後、どうしようか迷っている様子だ。

 まぁ、知らないおじさんから食べ物を貰うのはヤバいよな。食べる食べないはおいといて、自己紹介だけはしておくか。


「僕は鷹山慶。ここのすぐ下に家があるでしょ?あの家。あそこの家の息子なんだ。ずっと県外にいたんだけど、昨日帰って来たんだ。」


 実家を指差しながら自己紹介。どこん家の何もんだと伝えて怪しい人物ではないよアピール。だがそれがまた非常に怪しいかもしれない。


「今日はこの神社に、帰って参りました~ってお参りに来たんだ。それでね、いい天気だから、ピクニック気分で食べ物を持ってきちゃったんだ。」


 言葉を重ねるほど怪しさを増している様な気もする。

 が、狐耳幼女は少し虚空を見つめたかと思ったらこちらを向き、トコトコと近付いてくる。おお、信用してくれたのか!?

 嬉しい反面ちょっと心配にもなる。


「大丈夫、みたい。」


 ん?何がだろうか?私か?

 近付いて来てくれたということは、お稲荷さん食べるかな?


「お稲荷さん、食べる?」


 お稲荷さんの入ったタッパーを見せる。タッパー内には個別でラップを巻いたお稲荷さんがあと一個入っている。


「僕が中身詰めたから大っきくなっちゃったけど、味は付けは母がしたから、ちゃんと美味しいよ。」


 コクンと頷く狐耳幼女ちゃん。可愛い。何でも与えてしまいたくなる衝動に駆られる。

 てか、今更ながら勝手に食べ物をあげちゃダメかもと思い至った。今どきは都会じゃなくても問題行動ではないだろうか。でも今更やっぱダメとは言えない。ここは田舎だからこんな事もあるんだと開き直ろう。……はい、今後は気を付けます。


 狐耳幼女ちゃんが私の隣に座ろうとするから待ったをかける。ちょっと待ってね!

 私は上着を脱ぎ地面に敷く。さあどうぞ、ここに座ってね。今日は暖かいし風もないので上着を脱いでも少し肌寒いだけですむ。


 座った狐耳幼女ちゃんに、コンビニで貰ったお手拭きの封を切って渡す。これで手を拭いてね。

 お稲荷さんのタッパーを狐耳幼女ちゃんの前に置く。ラップで包んであるから手で持って食べられるけど、箸いるかな?コンビニで貰った個包装の割り箸もあるよ。

 ちょっと考えてたけど、手で持って食べるみたい。デカいもんね、箸だと持ちづらいよね。もしかしたら私が手掴み(ラップ)で食べていたからかもしれないけど。

 あ、ラップぐるぐると巻き過ぎたね。こうやって、こうやって、はい、これで持って食べられるよ。


 狐耳幼女ちゃんは「いただきます」をしてから、はぐはぐと食べ始めた。可愛い。はぐはぐ食べてるの可愛い。心が和む。癒される。


 あ、お茶もあるよ、ほうじ茶。

 この水筒は少し大きめサイズの水筒で、フタとは別にプラスチックのカップが二つ入っている。私は一番デカいフタを使って飲んだが、カップの方にほうじ茶を注いで狐耳幼女ちゃんの前に置く。熱いから気を付けてね。

 なぜこの水筒を持ってきたかというと、家に小さい水筒がなく、この大きめの水筒しかなかったからである。

 狐耳幼女ちゃんはふぅふぅしながらお茶を飲んだ。可愛い。ふぅふぅ可愛い。


 そしてお稲荷さんを食べきった狐耳幼女ちゃんはこっちを向いて言った。


「ごちそうさまでした。美味しかったです。霊力もすごかったです。」


 と笑顔で伝えてきた。可愛い。


 って、来ましたよ霊力!

 その時、私の右手は狐耳幼女ちゃんの頭を撫でていた。

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