まるで聖域ですね
一先ずは聞きたい事を聞けたかなと思う。過ごしているうちに何か出てくるかもしれないが、今度土地神様から呼ばれるらしいのでその時に聞けばいいだろう。
「一先ず聞きたい事は以上かな。いろいろ教えてくれて、ありがとうございました。」
ぺこり。
「いえ、最低限の事は伝えられたと思うのですが……、何分私たちを視える人に出会うのはこれが初めての事です。不十分な部分もまだあるかもしれません。」
「いえいえ、皆さんが原因というわけでもないのに、わざわざ私の為にしてくれた行動です。感謝しかございません。本当にありがとうございます。」
ぺこぺこ。
いや、本当に助かった。イズナさんたちが来てくれなかったら、姉や家族に桜や浮島など、私以外の人間には見えない物の話を続けるところだった。しつこくネタを引っ張り続けるやつと思われたりとか、本気でおかしくなったと思われる事態もあり得たかもしれないもの。
イズナさんたちが私に気付いてくれて助かった。いろいろ伝えてくれて助かった。良かった良かった。ありがたやありがたや。
そんなこんなで、さてそろそろ戻りますか、という流れになった。クロが助手席に座りたいと言っていたのでイズナさんと席を交代している時にラスさんが言った。
「乗った時から思っていたのですが、この車内、まるで聖域ですね。乗っているだけで力が湧いてきます。」
……あ、それって、本来は私の汗とか臭いとかがかなりヤバい状態って事じゃないだろうか。霊力だか霊気だかの影響で良い匂いに変換されている様だが、ちょっとビクついてしまう。
後部座席に着きシートベルトをしたイズナさんがそれに応える。
「そうですね。四季の里の一つであるこの里の聖域に匹敵するほどの凄まじさを感じます。」
「それって、良い事……になるのかな?」
まだ良く解らない部分なので恐る恐る聞いてみた。
「良い事、と断言できるほどの知識が私にはありません。ただ、私達にとってありがたい事、ではありますね。私達は自然界に存在する霊力を浴びる事により、自身の霊力の器をより大きく、より強固にしていきます。普通、自分以外の動物の霊力を浴びてもほぼ効果はありません。これは霊力の波長が違うからです。あっ、波長というのは霊力の指紋の様な物と思って下さい。ですがケイさんの霊力の場合、ケイさん固有の波長が感じられないのです。霊力的には、まるで大自然が凝縮して人間の形をとっている様にすら感じられます。これについても後日、土地神様からのお話で詳しい事が聞けるのだろうと思います。」
イズナさんが説明してくれたが、大自然……。なんか凄そうだな。大自然か。おっさんな大自然。
ラスさんはそれを聞き「あぁ!」っといった顔をしてこちらを見た。大自然で納得されたのか?それともラスさんも知らない部分でもあったのかな?
クロは「車の出発はまだかな?」といったワクワクした顔で待っている。
「しかも、身体への負担も非常に少なく、効率も良い様に感じます。龍脈と違い流れが無い為でしょうか。」
お、おおぅ。家の前での会話から『私の霊力=私の臭い』みたいなイメージなので、車内に私の汗と脂の成分が充満しているかの様で、空気の流れもなく常にモワッてるかの様で、ちょっと切なくなってしまう。
気を取り直して、帰路へとつくことにしよう。車の時計を見るとこの空き地に着いてまだ1分(デジタル表示の1分刻みなので正確には0分と2分の間か)しか経っていない。これがイズナ結界『時間減速』の威力か!効果を実感してみて、改めてすごいな。
「時間がほとんど経過してない。やはりこの結界はものすごい効果だね!本当にすごい。」
後ろを振り返り、イズナさんに伝えてみた。会って間もないイケメンでもないおっさんが後ろを振り返って顔を合せてくるのはちょっと可哀想かとも思わなくもないのだが、また耳がピクリと動いてくれることを期待してやってしまった。
ピクリ。
キタッ!やった!動いた!!
「意図しない事だったのですが、今回はこの車内の霊力のお陰で結界維持の霊力消費がほぼありませんでした。助かりました。」
ぺこっと頭を下げてくるイズナさん。耳ピクをもっと見たいのだが、話題を微妙にずらされてしまった。褒められると嬉しいけど、話題を変えたくなっちゃう感じかな。嫌がっているんじゃなくて、照れちゃうから話題を変えちゃうんだと思う。可愛い。でも違ったらごめん。
「私が何かしたわけじゃないけど、役に立った様なら良かったよ。では、戻ろうか。そういえば、皆さんはどこへ送ればいいのかな?また我が家まで行った方がいいのかな?」
途中まで言ってて気付いた。おっさんに住居を知られるのは嫌かもしれない。田舎で近所なんだから隠せるものではないかもしれないが、神域のみに存在する場所では簡単に行く事で出来ないだろうし、今日会ったばかりの私には知られたくないかもしれない……!と考えて慌てて最後の『我が家まで』を付け足した。
「クロはケイの家まで行くよー!荷物預かってるもん。」
「あ、そっか。」
クロの異空庫に荷物預かってもらってたんだった。忘れてた。
「私達もクロと一緒にケイさんの家までお願いします。結界も解除しますね。」
「了解です。おっ、今何か変わったのがそうかな?では、行きますね。」
また何か変わったのが解った。やはり何かとしか言えない。
イズナさんとラスさんも一緒に我が家まで行くとのことなのでさあ帰宅だ。