危険極まりない様に見えたけれど
「次に、ケイ様についてなのですが……」
話を遮ってしまうが、これだけは伝えておかねばなるまい。
「あの、イズナさん。私に『様』付けは不要です。様付けで呼ばれる様な偉い人物ではありません。ただの一般人です。普通に呼んで下さい。呼び捨てでもなんでもいいですので。」
むしろ呼び捨てがいい。いや、『ちゃん』が親しみを感じていいかもしれない。『くん』とかも面白いか。
というか、私の方こそ神使に対して様を使うべきか?……まぁ今更か。
「圧倒的な霊力をお持ちなのですが……はい、わかりました。では、ケイさん、と。」
良かった。
微笑みで返す。おっさんスマイルの刑に処したいわけではないのだが、ついやってしまった。
「それで、ケイさんについてですが……私たちを見られる様になったのはその膨大な霊力によるものと思います。ですが、なぜそれほどまでの霊力が一人の人間に備わっているのか、私には解りません。実は、私たちを見る事が出来る人に出会ったのはケイさんが初めてなのです。」
うんうんと、クロもラスさんも頷いている。彼女たちも私が初めてらしい。
「現世側でも大きな神社へ行けば、私達を見る事が出来る人物がいる事もあるそうですが、この神域と周辺には一人も居ませんでした。今日までは。ケイさんはかなり特殊な事例となるかと思いますので、後日の土地神様とのお話でそのへんの事も説明があるかと思います。」
特殊、なのか。ワクワクもするが、やはり自分の身のことなので怖くもある。もし自分が害ある存在認定されたら?とか、良くないモノに取り憑かれているのかも?とか、そんな感じだったらどうしよう。
「他に伝えるべきことって何かあるっけ?思い付く?」
と、イズナさんはクロとラスさんを見る。それにラスさんが答える。
「取り急ぎ伝えるべき情報は、ここが神域だという事、後日土地神様から召喚されるだろう事、それから他の人間には私達の事が見えていないという事、それくらいだと思うわ。後はケイさんから質問があればそれに答えていく形でいいんじゃないかしら。」
「そうね」とイズナさんは頷き、私の方に向き直り言った。
「ということで、何か質問があれば答えますよ。」
さて、何を聞くか。まずはアレか。
いや、スリーサイズではない。セクハラは良くない。私は数字で興奮は出来ないので興味は薄い。友人には「お前は想像力が乏しいな。」と哀れみの目を向けられたものだ。
帰って来たときから疑問に思っていた『桜っぽい木』、『宙に浮いた様に見える岩』、『見覚えのない道』について質問だ。
「まずは、あの桜っぽい木って本物の桜?満開に咲いてるやつ。帰ってきたら秋なのにここだけ桜が咲いててびっくりしたよ。」
「はい、あの木は桜です。本物ですよ。この神域は春の気が強い常春の神域なんです。なので年中満開に咲いています。神域側にだけ存在している状態なので、現世側では視る事ができません。」
「それって今はいいけど、もしかして来年の春になったとき、神域の桜と現世の桜の区別がつかなくなったりしちゃうかな?私が神域側の桜を見て、あの桜綺麗だなぁと言ってしまって、回りの人には見えず、は?みたいな。」
「おそらくですが、そのうち対象を見るだけで神域だけの物か、現世だけの物か、両方に存在するのもかが理解る様になるかと思います。」
そうなのか、良かった。これからずっと、視界に入ったものについて下手に発言できない人生になるかと思ってしまった。
「私たちは先天的に霊力を持っている者と、後天的に霊力を得る者がいます。後天的に霊力を得た者が最初はケイさんの様に視える物に戸惑う事が多いのですが、すぐに慣れて理解る様になるそうですよ。」
「良かったぁ。あ、ということは、宙に浮かんで見える岩や神社の方へ向かって伸びる道も神域だけにある物だということですか?」
「はい。そうですね。あの浮いている岩、私たちは浮き島と呼んでいるのですが、この神域を通る龍脈の影響で浮かんでいるのだそうです。私は何度か連れて行って貰ったことがありますが、プカプカしていて楽しい乗り心地なんですよ。」
「へえ!行ってみたいなぁ!!高くて怖そうでもあるけど。」
「はい、そのうち機会もあるかと思います。他の神域にはない、非常に珍しい物でもあるんですよ。」
ん?他の神域?あぁ、土地神様というくらいだし、他の土地には他の土地神様もいて、そこも神域だということかな。
「それから、『道』に関してですが、あの道こそが神社への正道となっています。現世の道は人間用の道ですね。私たちも使いますが。」
「えっ!あの道、危険極まりない様に見えたけれど、通って大丈夫なの?」
「ふふっ、見た目はかなり危険ですよね。でも大丈夫です。落ちることが無いように術が掛けられていますので、安全ですよ。自分の意志で強く落ちたいとでも思わない限り、道から逸れることはありません。」
ふふっがたまらなく可愛かった。ぐはっ。耐えろ。
危険な道は危険ではなかった。イズナさんの笑顔の方が危険である。
「クロは途中で飛び降りて近道する時あるよ!」
「クロ、あなたそれで怒られてたじゃない。」
「誰にもぶつかったりしないよ。」
「それもあるけど、あなたが怪我しないかも心配なの。それに小さい子たちが真似しても大変でしょ?」
「うー、そっか。わかった。もうやらない。」
「うん。ちゃんと解ってくれたね。」
クロがなんかクロっぽい事を言ってきたが、ラスさんに窘められた。クロは反省し、ヨシヨシと頭を撫でられている。……いいね!