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クロだよ?

 「あ、えっ、え〜っと……シートベルトは皆着けましたよ。」


 狐耳巫女さんは何とも言えない顔で伝えてきた。

 あ、これ、尻尾見たのバレてら。その上で気を使ってくれてら。これは反省しなければならない。これは、ではなく、これも、か。


「ごめんなさい。ところで、どこへ向かおうか?公民館より少しは遠くまで行けるけど。」


 気を使ってくれたので、一言だけ謝って、話を先へ進める。すると犬耳巫女さんかすかさず応えてくれた。


「ずっと遠く!ドライブしたい!!」


「ごめんね、今日は無理かなぁ。家族がご飯作ってくれているから。」


「そっかぁ……、そうだったね。時間あんまりなかったんだった。」


「次の機会があれば、もう少し遠くまで行けるから。また今度ね。」


「本当!?やったー!楽しみにしてる!!」


 犬耳巫女さんが一瞬シュンとしちゃったけど、すぐに気を取り直してくれた。良かった。

 犬耳巫女さんとドライブデートか!……なんて事を考えるのは可哀想か。四十路のおっさんとデート呼ばわりは言葉の暴力とすら言えるかもしれない。


 で、結局どこ行こう?


「駅の前の空き地の辺りはどうでしょう?あそこならば人も居らず、安心でしょう。」


 と狸耳巫女さん。JRの駅だけど電車の本数が少なく、乗降客も極めて少ない。駅前だけど人がほぼいない。そんな場所なのだ。

 なるほど、OK!と車を発進。


「あっ、前の席いいないいな〜!帰り席代わって〜!」


 と犬耳巫女さんが狐耳巫女さんにお願いしだした。真っ先に後部座席に座ったのは彼女なのだが、『車に乗り込む』事で頭が一杯で、どの席がいいかとかは全く考えていなかったのだろう。


「うん。ラスもそれでいい?」


 狐耳巫女さんは振り返り犬耳巫女さんに了承し、後半は狸耳巫女さんもそれでいいかと確認したのだろう。

 狸耳巫女さんは『ラス』というのかな。そういえば、狐耳巫女さんは『イズ』と呼ばれていたな。まだちゃんと名前聞いていなかったな。

 あ、そもそも私もまだ名前を名乗っていなかったんじゃなかろうか。


 今のうちに自己紹介しちゃおうかとも思ったが、犬耳巫女さんが「わふー」「ほわぁ」「ふいー」と、忙しなく前後左右の窓を見回し流れていく景色を楽しんでいる様子がルームミラー越しにも見えた。こんなにも楽しんでくれているなら着いてからでいいか、と思い直す。すぐ着いちゃうのだし、少しでも楽しませてあげよう。

 とか考えていたらもう着いてしまった。


 車から降りて話すのかと思っていたら、狐耳巫女さんから、車に乗ったままでも良いかと問われた。私は了承を返し、車から降りても立ち話になっちゃうもんね、とか思っていると、「では、結界を張りますね。」と続けてきた。

 なぬ、結界!!!結界という単語に魂が沸き立ってしまった。おわっ!?今何かが広がったのが解った。初めての感覚なので何かとしか言いようがない。


 一言に結界と言っても、術者の力量によってかなりアレンジが可能となるらしく、今回は『認識阻害』『防音』『時間減速』の三つの効果を付与したのだそうだ。

 ……すっげぇぇぇぇえっ!!!!!


「結界の事を知らないけど、それってめちゃくちゃ凄くないか!?」


 少々声が大きくなってしまったが、興奮してしまうのも無理はないだろう。効果ヤバい。狐耳巫女さんは澄まし顔をしつつも耳がピクリと動いた。


「そうですね、これほどの結界を張れる術者はこの里全体でもほんの一握り。若手でいえばイズナただ一人でしょう。」


「イズってとってもすごいんだよ!」


 狸耳巫女さんと犬耳巫女さんの言葉に狐耳巫女さんの狐耳がピクピク動いている。

 これは、良い。よし、もっと褒めるか……と思ったところで、パチンと響いた。


「そんな事よりも説明の方を始めましょう!」


 狐耳巫女さんが両手を合わせて音を出し、話を始めようとする。

 狐耳巫女さん、口角が上がっている。もしかしたら褒められて嬉しくてニヤニヤしちゃうのを隠す為に話を進めだしたのかもしれない。

 そういえば、狐耳巫女さんはイズでなく『イズナ』という名前なのか。

 あ、まずは自己紹介しよう。提案すると、そうでしたね、と了承してくれた。自己紹介を言い出した私からいこうかね。


「私は鷹山慶(タカヤマケイ)です。さっきの家の息子になります。大学から県外へ出ていて、帰ってきたところです。今日からまたここで暮らすのですが、いろいろ変わっていた部分があって驚いています。」


 ぺこりと頭を下げると、犬耳巫女さんがパチパチと拍手してくれて、あとの二人もつられて拍手してくれた。

 そして狐耳巫女さん、犬耳巫女さん、狸耳巫女さんの順で私に自己紹介してくれた。


「私はイズナと申します。名前の由来は、きっと想像した通りです。狐族では一番多い名前ですね。現在里にイズナは私だけですが、過去には複数人いたこともあるそうですので、どのイズナかわからなくなった時は、白狐のイズナと言えば私だとわかるかと思います。神使の役に就いております。あ、ジェントルマンの紳士ではないですよ。神の使いと書く方です。」


 パチパチパチ。えっ、シンシって、神使ってこと?漫画知識しかないけれど、かなりすごいんじゃないのかな?


「はい!クロはクロだよ!!狼族のクロだよ!巫女見習いだよ!車楽しいね!!」


 パチパチパチ。神使が気になったけれど先に進んじゃった。まぁ、深堀するよりも、まずはいろいろ説明受けなければならないし、そっち優先か。

 っていうか、犬じゃなくて狼だったのか。間違えない様気をつけよう。


「彼女は正確には、クロウという名前なのですが、」


「クロだよ?」


「……と彼女がいうので、クロで定着しております。」


 狸耳巫女さんが補足を入れてくれた。クロと覚えれば問題ないが、本名も教えてくれたのだ。

 狸耳巫女さん助かる。


「それでその……、私は……、ラスカルという名前になっています。」


 衝撃の事実。狸耳巫女さん助かるだけじゃなくて、狸耳巫女さんラスカル。いや、ラスカルということは、狸じゃなくてアライグマってことかな?

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