ここだよ〜
ちょ、ま、待て!待ってくれ!……いや、待って下さい。お願いします。弁明の機会を与えて下さい。
タマモちゃんがスーパー銭湯に行きたいと言ったから、行きたいねという話をしただけであって、一緒に入ろうねという意図は全く無かったんだ。タマモちゃんを男湯に連れ込もうとなんてしていない。行くとなったら、イズナさんやクロ、ラスさんだって行くはずだから、ちゃんと皆と女湯へと入って貰うつもりだった。
だから、誘導したとかそんなんじゃないのだ。信じて欲しい。
と、言い訳が済んだところで……
一緒にお風呂に入ろうじゃないかタマモちゃん!ぐへへ。
なんてさすがに言えないよ……。無理だよ……。
でも、こんなに期待に満ち溢れた目を向けられちゃったら、断るのもなぁ……。
どうすればいいんだ……。
イズナさん、助けて……チラッ。
するとバチッと目が合った。
「ダ、ダメです!!!」
良かった!イズナさんが止めてくれた。
「まだダメなんです!こ、ここここころの準備がまだなんです!」
イズナさんは顔を手で覆って部屋から飛び出して行ってしまった。
「あ、その、そうじゃなくて……。」
イズナさんがいなくなった虚空へと手を伸ばしてしまうが、そこにイズナさんはいない。
イズナさんも一緒にお風呂入ろう?と誘ったんじゃなくて、タマモちゃんを止めてほしかったんだ。
こうなったら、ラスさんに助けを求めよう。
「あの、ラスさん―――」
「クロも一緒に入るーー!!」
ラスさんに助けを求めようとしたらクロが一緒に入りたがってしまった。
それはダメ!ガチのヤバいやつ!!
「クロ、それはダメよ!いけないわ!」
同志ラスは鼻息を少し荒らげて……じゃなくて、クロの勢いを止める為に慌てて止めに入ってくれた。
「ケイさん、クロは私が止めておくので、早くお風呂へどうぞ!ここは私に任せて先へ行け!!」
えぇっ!?
「おにいちゃん、こっちだよ、行こっ!」
タマモちゃんに引っ張られて私も移動することになった。
状況に流されてしまっているが、混乱状態におちいっているので流れに抵抗できないのだ。
なんで誰も止めてくれないのだ!?いや、他力本願野郎の言う台詞じゃないのは解ってはいるのだけどね、どうしても叫びたくなるのだ。
イズナさんは勘違いしちゃっていなくなるし、クロは一緒に行くって言うし、ラスさんはクロを止めるだけじゃなくて行けって言ってくるし……。
ここは俺に任せて先に行けだなんてカッコいい台詞をなんでこんな場面で聞くことになるんだ。
春姫ちゃん、春姫ちゃん!助けてよ!!私はどうすればいいの?
「…………。」
春姫ちゃんが返事をしてくれない。
廊下に出て左に曲がり、すぐ右に曲がる。そのまま少し直進すると木の引戸がある。ここがお風呂なのかな?
「ここだよ〜。」
ガラララ……。
この引き戸は結構な音がする。玄関と違って後付ではないのに大きな音だ。これはワザと大きな音が出る様にしたのだろう。お風呂場だからかな?
って、ヤバいよヤバいよ!
「春姫ちゃん!どうすればいいの?私だとちょっと判断が出来ないよ!」
「いいんじゃないかの?イズナもラスも止めなかったわけじゃし。タマモも楽しそうじゃし。妾自身は肉体を持たぬ故に風呂入ったのはタマモと一緒に過ごす様になってからじゃし、詳しくないのじゃ。」
「おにいちゃん、お風呂嫌いなの……?」
「いやいやいや、お風呂大好きだよ!」
「良かった〜!」
春姫ちゃんがやっと答えてくれたと思ったら、テキトーな感じで返事が返ってきた。いや、まぁ、なんでもかんでも頼りにし過ぎてしまっているのは解るのだ。申し訳無い。しかし、一大事なのだ。さらに問い詰めたかったが、タマモちゃんへと交代してしまった。
あんな風に、タマモちゃんから心配そうな顔で聞かれてしまっては、下手な返事はできない。
「うん?うん、わかった。うん。」
突然タマモちゃんが何か言い出した。たぶん春姫ちゃんと会話をしているのだ。
トコトコトコと脱衣所へ入って行き、置いてあるカゴに手を突っ込み、中の何かを奥に、あっ、多分さっきまでタマモちゃんが履いていた袴の様なものを奥に押し込んでいた。そしてニヤッと笑ったかと思ったら、何かを引っ張り出して上部へ持ってきている?何だろうか。
「おにいちゃんも来てよ〜!早くお風呂入ろうよ〜!」
……ここまで来てしまってから「やっぱり一緒には入れないよ」だなんて言うのは、流石に無理だ。しょぼんとするタマモちゃんを想像するだけで胸が痛む。
よし!心を決め、私も脱衣所に突入する。
タマモちゃんはすでに服をパパっと脱いでいて、シャツとパンツ状態である。パパっと脱いでいるのに未だ全裸にはいたっていないのは、脱いだ服をちゃんと畳んで置いているからである。育ちの良さがこういった所でも出てくるなぁ。
私も服を脱いだらちゃんと畳まないといけないな。
「ん?そうなの?」
またタマモちゃんが春姫ちゃんと会話している。
「おにいちゃん、あのね、そこにあるタオルを使ってね。それから、使い終わったタオルはこのカゴに入れておいてね。」
「ありがとう。タオル借りるね。」
そうだ、着替えは仕方ないが、タオルは必要だった。春姫ちゃんが助けてくれたのだろう。ありがとう。
そうか、さっきタマモちゃんが何かをしていたのは洗濯物を入れておくカゴだったのか。なんとはなしにカゴの方へと目をやってしまう。
……!!!
こ、これは!
カゴの中身に目が奪われていると、そこへタマモちゃんが声をかけてくる。
「先に入ってるから、すぐに来てね〜!」
危ない危ない、あれは……イズナさんのものに違いない。あれで胸部を覆っているのだ。ついガン見してしまったが、タマモちゃんが声をかけてくれたから我に返る事が出来た。そしてタマモちゃんにはバレていない。ふぅ、良かった。そしてイズナさんごめんなさい。
と、安心しきってしまって、何も考えずに顔をタマモちゃんに向けてしまった。
そこには準備万全に整ったタマモちゃんがいた。