デモンズボール
「また熊が殺されたんだってさ」
弟のタケがネットのニュースサイトを見せてきた。画面には血まみれの熊の死体と、銃を持った猟師たちの姿が映っていた。
「ひどいな……」
俺は心底嫌な気分になった。動物好きな俺にとって、こんな光景は見るに耐えられないものだった。
「でもさ、人間に危害を加える動物は仕方ないんじゃない?」
タケはそう言って肩をすくめた。
「仕方ないって……動物だって生きる権利があるだろ。人間が勝手に住処を奪い、餌を減らしているのが原因だぞ」
サトルは憤った。
「じゃあどうすればいいんだよ。熊と仲良く暮らせるわけでもないし」
タケは反論した。
「そうだな……」
俺は言葉に詰まった。確かに、人間と動物の共存は難しい問題だった。でも、だからといって殺すのは許せなかった。
「もし手軽に動物を捕獲して安全な所に連れて行ければいいのにな……」
サトルはそうぼんやりと考えた。そうすれば、人間に迷惑をかける動物も安全に移動させることができるだろう。そして、動物も自然に近い環境で暮らせるだろう。
「手軽に捕獲できる? どうやって?」
タケが興味深そうに聞いてきた。
「そうだな…例えば、ボールみたいなものを投げつけるとさ、動物を閉じ込める檻のような物になって捕まえられるとかあればいいんじゃないか?」
俺は思いつきで言った。
「ボール?そんなこと出来る訳…」
それを聞いてタケは考えた。四半世紀前に魔物を捕獲して闘わせるゲームがかつて大人気であった。携帯電話を魔物に向けるとボールが飛んでいき捕獲出来るというシステムのゲームであった。捕獲した魔物を育てて闘わせると言うシンプルなものであったがモンスターがカワイイなどという理由も手伝い、当時は空前の大ヒットになった。
レトロなゲームな上に普段ゲームをやらないガリ勉の兄貴おそらく知らないだろう。
そしてタケは目の前の兄が天才であることを思い出す。
「サトル兄さんなら作れるのかな?エンジェルボール」
「エンジェルボール?何だそれは?」
タケがサトルにエンジェルボールについて説明する。そこからボールを飛ばして手軽に動物を捕獲出来るようにする装置を作れば良いだけだと気付く。非現実的なシステムではあったが、作成可能であると思い立ったサトルはすぐに動物捕獲玉を開発することにした。
3年後、サトルは頭を抱えていた。テレビやネットの誹謗中傷に連日晒されていたからだ。
「どうしてこうなった…」
サトルは嘆く、良かれと思って3年の歳月を掛けて動物捕獲玉を開発したのにこんな結果になるとは…
家の外壁には動物愛護法違反だの犯罪者製造機などとびっしり書かれていた。
サトルの開発した動物捕獲玉は画期的な発明だった。かなり難しい構造でサトル以外には誰も作ることは出来ない。それでも誰でも手軽に買えて誰でも手軽に使用出来た。それが問題であった。
メディアでは動物捕獲玉は連日取り上げられて、当初サトルは画期的な発明をした現代のエジソンと呼ばれた。だが半年程経つと状況が変わった。多くの動物捕獲玉が犯罪に悪用されたのだった。
コンビニ、スーパーでは店員に捕獲玉を投げつけて捕獲し、白昼堂々強盗が連日行われた。店員を捕獲玉で動けなくした後に犯行が行われたのだ。
だがそれはまだマシな方であり、凶悪なものになると誘拐事件にも使われ、被害者が多発した。更には捕獲玉に入れて、海に投げ捨てるなんてことをするやつまで出てきた。ここまで説明すれば動物捕獲玉がどれだけ危険な物かは誰でも理解できるだろう。
そんなこともあり、世紀の発明品である動物捕獲玉の評価はだんだんと消え始め、世間では開発者許すまじの感情が勝ってしまった。その結果、サトルは外を歩けなくなるまで追い込まれたのである。家は多くの人に落書きがされ、ネットの誹謗中傷は止まらなかった。
それから3日後、現代のエジソンが死亡したというニュースが流れて事態は収束することになった。
その後のメディアではサトルの死に関してはゲームをやる奴はやはり害悪だと責任転嫁をして、時が経つと共に忘れ去られてしまった。
後にその大事件は悪魔の玉事件と呼ばれるようになり、ゲームと現実の区別がつかない事は危険だと教訓を残すのみであったそうだ。
モン○ターボールってやばいアイテムだなとふと思ったので何となくで書きました。
ポ○モンは赤、緑位しかやってないので最近のシリーズでボールが悪用される内容があるのかもしれませんけど、それは知りません。
ポケ○ンはアニメのポリ○ン事件があった位から興味がなくなったので。