(後編)甘やかし従者と自立したい姫君
ある日、以前のように1人で帰っていると、一台の車が私の後ろで止まった。
車のドアが開いた音がしたと思うと、1人の男性が突然私の方へ向かってきた。
私の勘がやばいと告げていた。
私は走って逃げ出した。向こうも走って付いてきた。
やばい。追い付かれる――!
彼が私の身体をがばっとつかんできた。
そこで、彼の指の1本を、ぐいと反対側に折り曲げた。
「いててててて!」
手を離した隙に、彼の腹に肘鉄を食らわし、さっと逃げ出した。
良かった。何とか振りきれそうだ。
そう思っていたのも束の間、もう3人、屈強そうな男性が背後から現れた。
複数いたのか!
いくら鍛えていても、女性の私が敵う相手では無さそうだ。
どうしよう。
誰か……!
「待てい!」
私があせっていると、目の前に仮面を着けた男性が振ってきた。
「この女性には手出しさせない!」
声で分かった。
本郷玲だ。
「何だてめえ!」
「やっちまえ!」
本郷玲はかかってきた暴漢の頭にキックを一発くらわせた。
ぎょっとした別の暴漢の腹を蹴り、さらに次の暴漢の股間を蹴り上げた。
こんな感じで、彼は暴漢全員をやすやすと撃退してしまった。
暴漢たちは逃げ出してしまった。
「だ、大丈夫ですか!?そちらのお方!?」
「うん――ありがとう、本郷くん。」
「い、いえ、私は本郷では――。」
私は思わず彼に抱きついた。
「ひ、姫様……!はしたない……!」
「危険な目に合わせてごめん!」
「いえ、私こそ、出遅れてしまってすみません……!
以前から怪しい奴が校舎の周りにいたのは気がついていたのですが、なかなか対処できずに……。」
そうか。本当に彼は見守っていてくれたのか。
ふっとひと呼吸おいた後、私は話を続けた。
「――私、強くなれば、前世みたいに皆を失うことがなくなるんじゃないかって思ってた。でも、結局、こうして助けられちゃったね。
ありがとう。」
「……。」
本郷玲は私を抱き締め返した。
「……いいのです。前世も今も、私が姫様をお守り申し上げたくてしているのです。」
「もう姫様なんて呼び方はやめてよ。誰も傷ついてほしくないの。」
気がつくと私は泣いていた。
「――清澄さん。もう以前のようにお一人で抱え込まないでください。」
「でも――!」
「前世からあなたは人一倍責任感が強かった。今は姫ではないのだから、弱音をいくらでもはいていいんですよ。
今度こそ、私が、あなたも、あなたの周りの人もお守りいたしますから。」
しばらく私たちは抱き合ったままでいた。
◻️◼️◻️◼️◻️◼️◻️
「清澄さん!筆箱を忘れてますよ!」
「清澄さん!絆創膏です!」
「清澄さん!」
こうして、以前のような慌ただしい日々が戻ってきた。ただ、呼び方は姫様から清澄さんに変わった。
相変わらずうっとうしいのだが、私はたまには「ありがとう。」とお礼を言うようにしている。
それを見ていた友人にこう聞かれた。
「2人って……付き合ってるの?」
いやいや、それは断じて
「違うから!!」
私は強く否定する。
それでも、何だかたまに胸が苦しくなる。
――私がこの気持ちの名前に気がつくまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。
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