(前編)甘やかし従者と自立したい姫様
「あなただけでもでも……逃げてください!」
燃え盛る城の中、私は従者を突き飛ばして叫んだ。
「だめです、私と一緒に――!」
「いえ、この傷では、私はもう――。」
ガラガラガラ。
天井がくずれ、私を包囲する。
「姫様!姫様――!」
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ここではっと目が覚めた。
私は清澄さやか。日本のJKだ。
いたって普通の女の子だ
――前世の記憶があるところを除けば。
私は前世、異世界の姫だった。
平和な暮らしをしていたのも束の間、情勢のいざこざに巻き込まれ、齢17にして死んだ――。
とはいえ、前世の記憶があることは秘密だ。
「前世の記憶があるんだ!」と言っても中二病扱いを受けるだから。
というわけで、前世で得た教訓をもとに、平穏な生活を送っていた。
――あいつが転校してくるまでは。
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「今日からみんなの仲間になる、本郷玲くんだ!仲良くするように!」
教室はざわざわしていた。
「結構イケメンじゃない?」
「よく見ると胸板厚いなあ。」
「何部に入るのかなあ。」
そんな中、私は衝撃を受けていた。
一目で分かった。前世の私の従者だ。
最期の瞬間まで一緒にいた従者だ。
私と目があった瞬間、向こうも、はっという顔をした。
そして、彼は
「――やっと見つけた。」
と言った。
私が戸惑っていると、本郷玲は私の席へずんずんと近づいてきて、跪いた。
「姫様、ずっとお探ししておりました。
今世でこそ必ずあなた様をお守り申し上げます。」
教室中がしんと静まりかえった。
当たり前である。
急にクラスメイトに跪くなど、やべー奴である。
どうしようか。
マジで返事をすると私の平穏な生活が崩されてしまうかもしらない。
本音では「何を言っているのですか……?」という感じでしらを切りたいのだが、
前世のよしみもあるし流石に申し訳ない。
こ、ここはギャグとして乗っかるべきか……?
「お、お久しぶりです。私を覚えていてくださり光栄です。」
「もちろんです!二度と前世の過ちを繰り返さないようにお仕え申し上げます!」
「ありがとうございます……しかし、今は同級生として対等な関係です。前世のことは水に流して、仲良くしようではありませんか。」
「……はっ!ありがたいお言葉……!
ますます姫様に感服いたしました……やはり、どうかお守りさせてください!」
――しーん。
流石にギャグとして乗りきれなかったか。
教室はありえないくらい冷えた空気になった。
少し沈黙があった後、
「いや、どんなコンビやねん!」
というツッコミが誰かから入り、クラスがわっとわいた。
た、助かった……。
これで何とか平穏な日々に戻るだろうか。
――そう考えていた私が甘かった。
本郷玲は本当に私に徹底的に尽くし始めた。
「姫様!そちらに水溜まりが!」
「姫様!お腹は空いてませんか?マカロンをご用意いたしました!」
「姫様!教科書をお持ちいたします!」
彼は片時も私を離れず、缶コーヒーを買ってきてくれたり、
宿題を私の代わりに提出しに行ってくれたりしてくれた。
むしろ従者であった頃よりも献身的であった。
本郷玲は一瞬で「変な人」枠になり、
私までも友人以外からは「よく分からないけど偉い人」として遠巻きに見られるようになった。
――はっきり言って、少し迷惑だ。
学校では朝から放課後までべったりだし、
何なら登下校時にも付いてくる。
友人からも「大丈夫?ストーカー?」と心配される始末だ。
転校直後のくだりについて聞かれるときは、「何だろうね~?」と苦笑している。
ちなみに、何回も「私は守られなくても大丈夫だからやめてほしい。」と言っても彼は離れようとしない。
そして、うざいのだけれども、彼の従者っぷりはとても気が利いていた!
ちょうど小腹が空いたときにおやつが出てくるし、
眠気が襲い始めたときにアイマスクを持ってくる。
プロの芸である。
だめだ。このままでは平穏な日々を得られないどころか、
だめ人間になってしまう――(実際、彼のお菓子によって、少し太った)。
◻️◼️◻️◼️◻️◼️◻️
そうして一週間が経った頃、私は彼を校舎裏に呼び出した。
「本郷くん、もう私の護衛はしないでくださいませんか。敵はもういないのですから。」
「ですが――」
聞く耳を持たない本郷玲に対し、私はため息混じりで続けた。
「私は前世で「出る杭は打たれる」という教訓を得ました。だから我が国は滅びたのです。
今世では敵を作りたくないのです。どうか、このような目立つ行為はやめてください。」
「前世の教訓、ですか――。」
本郷玲は諦めていない様子であった。
そして少し考えた様子の後、反論を始めた。
「でしたら、私も教訓を得ているため、お仕え申し上げたいのです。」
「「命をとして主君を守れ」、とかでしょうか?」
「いえ、それはもっともなのですが、それではなく、」
それではないんかい。
うぬぼれたみたいで何だか恥ずかしい。
「「推しは推せる時に推せ」、です。」
「――は?」
本郷はぐっとした顔をしながら答えた。
「いえね、前世から私は姫様のファンなのですよ!そばでお仕えしているだけですごく幸せだったのですが、
姫様が亡くなられてしまうとは思わなくて!だから今世では姫様を大切にしまくろうと決めていたんです!」
「――はあ。」
私はぽかんとしてしまった。
「ですから、姫様とはいえ、そのお願いは聞きかねます。すみません。」
本郷玲はぺこりと頭を下げた。
仕方ない。奥の手を使おう。
私は、缶コーヒーを手にすると、一気に飲み干した。
そして、缶を素手でぐっと潰した。
バキバキバキッ!
「――私が前世で得た教訓は他にもあります。
その1つが知力・体力をつけることの大切さ、です。」
実際、その教訓をもとに、私は小さい頃から勉強と運動を頑張ってきた。
「もうあなたに守られるような弱い存在ではないのです。」
ここまで言えば大丈夫だろう……と思ったのだが、本郷玲は眼をきらきらと輝かせていた。
「か、かっこいい……。」
「――はぁ?」
本郷玲は早口で語り出した。
「前世ではどちらかというと可愛いタイプのお方でしたが、
かっこよさも付け加わるとは!
また新たな魅力の扉が開かれた気がする!」
「……。」
私は思わず言葉を失ってしまった。
「前世から姫様は努力家でしたが、武力も鍛えられるとは!
いやはや、感服の極みです!
ああ……あなたをお慕い続けていて良かった!」
もはやこわい。私の従者ながらこわい。
「やっぱりあなたは尊い!
私はどこまででも推し活をさせ続けていただきます!」
本郷玲は真剣な眼差しで私に宣言してきた。
そっちがその気なら……
「それでは私は、あなたを全力で撒かせていただきます!」
こうして、私たちの奇妙な鬼ごっこが始まった。
◻️◼️◻️◼️◻️◼️◻️
「さやか~。ちょっとお腹すかない~?」
「ねー。私もお腹鳴っちゃった~。」
「だよね~。」
ここで本郷玲が登場しようとする。
「姫様、それでしたら……」
しかし、彼が言い終わる前に、
「実は、私、今日コンビニでおやつ買ってるんだよね~!」
「おおー!みずき、気が利く~!」
こんな感じで先手を打っておくのだ。
そして、帰り道に彼が護衛に現れる前に、私はさっと走り出して路地に隠れる。
「姫様、お供いたしま……あれ?いない?」
廊下で彼の気配を察知したら、さっと隠れた。
「ひめさ……あれ?さっきまで皆さんとお話していませんでしたか?」
「うん、何かお手洗いだって~。」
こんな感じで、私は全力で彼の護衛を振り切った。
しばらくすると、彼は護衛を諦めたのか、姿をあまり見せなくなった(とはいえ気配は感じていた。多分見えない場所から「護衛」していたのだろう)。
「最近、本郷くんいないね?どうしたんだろうね?」
友達にもなぜか心配された。
流石に突き放しすぎただろうか。
でも、彼にももう前世にあまりとらわれないでほしい。
これで良かったのだ。
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