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一同が右手を突き出して元の構えに戻る単純な動きを繰り返している。


魔王「進め!」


「「せっ!はっ!」」


魔王「下がれ!」


「「せっ!はっ!」」


魔王「右!」


「「せっ!はっ!」」


魔王「左!」


「「せっ!はっ!」」


魔王が合図すると同時に一同が動作を繰り返していく。進めと号令されると前に進みながら右手を突き出し元の構えへ戻る。右なら右へ。左なら左へ。単純動作に見えるが足さばきや体重操作などが絶妙に難しく梵創者が覚束ない様子で旅団長の動きに喰らい付いていた。


魔王「足さばきを利用して自重を左右へ移動させろ。そうする事で防御魔法が突破された時に攻撃を外す事が出来る。この動きを怠るな!一撃でも敵の攻撃を喰らえば死ぬと思え!」


梵創者「ハイ!」


魔王「U字進め!」


「「せっ!はっ!」」


一同がボクシングで言う所のウィービングを行いながら前進して動作を繰り返す。ウィービングは身体をU字に描き上半身へ向かう攻撃を逸らすディフェンステクニックだ。簡単そうに見えるが実際にやってみると中々難しく梵創者の動きが更に覚束なくなっている。


魔王「難しいか?脚じゃなくて骨盤をしっかり落とすんだ。背筋は丸めずに前方をしっかり見ろ」


梵創者「コウ・・・デスか?」


魔王「筋が良いな。最初は慣れないだろうが繰り返していけば感覚で出来るぞ」


梵創者「ワカリました」


魔王「よし、U字下がれ!」


「「せっ!はっ!」」


魔王「U字右!」


「「せっ!はっ!」」


魔王「U字左!」


「「せっ!はっ!」」


魔王「2番教練用意!」


魔王が号令と同時に光の魔力球体を浮かび上がらせた。


魔王「今からこの球体から光線が放たれる。先程の動作を繰り返せば光線を避けられるが、少しでも動作を怠れば光線が直撃する。当たると相当痛いからしっかり避けてくれ」


梵創者「ハイ!」


魔王「U字進め!」


「「せっ!はっ!」」


一同がウィービングを行うと光線が真上を通り過ぎていく。直撃すれすれだ。


魔王「U字下がれ!」


「「せっ!はっ!」」


魔王「U字右!」


「「せっ!はっ!」」


魔王「U字左!」


「「せっ!はっ!」」


魔王「3番教練用意!」


魔王が熱魔法で模擬戦闘室の温度を上昇させていく。一瞬で摂氏五百度まで上昇し、まるで煮えたぎる油の中にいる様な状態になった。梵創者が慌てふためいている。


梵創者「うっ・・・あぁ!」


魔王「回復魔法を掛け続けるんだ。早くしないと身体が焼けるぞ」


梵創者「ハ、ハイ!」


魔王「まぁ、回復魔法使っても熱いのは変わらないけどな」


梵創者「アツ・・・イタイ!イタイです!」


魔王「そんな事言っても敵は待ってくれないぞ。ターン制のRPGゲームをやってるわけじゃないからな。構えを取れ!気合で乗り切れ!」


梵創者「ハ、ハイ!」


魔王「どんな環境下においても「王国軍式騎士型操作術」を使えば状況対処が可能だ。これはその環境に置かれても動作と精神を乱さない為の訓練だ。気を抜かずに行え!」


魔王「U字進め!」


「「せっ!はっ!」」


魔王「U字下がれ!」


「「せっ!はっ!」」


魔王「U字右!」


「「せっ!はっ!」」


ツキナ、旅団長、副旅団長の三名は汗一つ流さずに動作を的確に行っていく。温度による激痛に苛まれる事もなく涼しげな様子だ。それを見た梵創者が必死に喰らい付こうと動作を行っていく。


魔王「U字左!」


「「せっ!はっ!」」


梵創者「ウっ・・・!ぐうゥゥゥゥ!」


梵創者が光線を被弾してしまった。あまりの激痛にその場で蹲っている。肌が焼き爛れる温度の激痛と相まって苦しそうに呻き声を上げていた。


魔王「お前が戦う理由はなんだ?なぜ私に救助を求めた?なぜ王国軍への従軍を希望した?その理由を思い出して立ち上がれ!」


梵創者「く、グゥ!ハァ・・・ハァ・・・まだやれマス!」


魔王「いいぞ、優しさを強さに繋げられる者は伸びしろがある。そのまま成長しろ!」


梵創者「ハイ!」


魔王「良い目だ。I字進め!」


「「せっ!はっ!」」


一同がボクシングで言う所のダッキングを行いながら前進して動作を繰り返す。ダッキングは上体を屈める事で攻撃を外すディフェンステクニックだ。これもウィービング同様やってみると難しく梵創者が覚束ない動きで動作を行った。


魔王「もっと膝の屈伸を使って素早く身体を屈めるんだ。身体全体をバネの様に使うのがコツだ」


梵創者「コウですか?」


魔王「そうだ。I字下がれ!」


「「せっ!はっ!」」


魔王「I字右!」


「「せっ!はっ!」」


魔王「I字左!」


「「せっ!はっ!」」


魔王「環境変化用意!」


魔王が熱魔法で模擬戦闘室の温度を下げていく。瞬間的に絶対零度まで温度が下がり全てを凍てつかせる場所へ様変わりをした。吐息の水分や血液までもが凍っていく。


魔王「いいぞ、そのまま回復魔法を使い続けろ。どんな状況下でもやる事は変わらない。構えを取り、防御を行い、状況に応じて回復し、周囲を察知する。それを様々な環境下や攻撃を受けた状態で動作を繰り返し、精神性を鍛える事でとっさの状況下へ陥った際に単純な動作が迷いを消してコンマ数秒の先にある生存を掴み取る事が可能となる。この理合を無意識に刻み込むんだ」


梵創者「ハイ!」


魔王「U字進め!」


「「せっ!はっ!」」


魔王「I字下がれ!」


「「せっ!はっ!」」


梵創者「ぐ・・・!うぅぅ!」


梵創者がとっさの動作変更へ付いて来れずに光線を被弾してしまった。だが激痛を堪え気合で構えを取り戻した。


魔王「U字右!」


「「せっ!はっ!」」


魔王「I字左!」


「「せっ!はっ!」」


魔王「環境変化用意!」


魔王が模擬戦闘室を毒ガスで充満させていく。硫化水素や一酸化炭素を混合させた即死性のある毒ガスだ。梵創者が疲労も相まって毒ガスを大きく吸い込み咳き込んでいる。肌が爛れ呼吸器官が溶け、内臓機能が停止されていき全身が苦痛へ苛まれていく。


梵創者「ゴホッゴホッ!ウゥ・・・アァ!」


魔王「喉へ物理障壁を展開しろ。それで毒ガスの吸い込みを防げる。回復魔法も怠るな」


梵創者「ゴホッ!・・・・ハァ・・・ハァ・・・」


魔王「大丈夫か?」


梵創者「マダやれマス!」


魔王「よし。環境変化には状況へ適切な対処を下す事を身体で慣れさせる意味がある。今から環境をどんどん変えていくから、自分が思う適切な対処を取ってみろ。間違っていたら私が修正を行う。覚悟はいいな?」


梵創者「ハイ!」


魔王「I字進め!」


「「せっ!はっ!」」


動作を繰り返す度に環境が変化していく。ある時は水中に。ある時はマグマの中に。環境を反射神経で理解してそれに応じた魔法で対処していく。


ー・・・気付けば約2時間程が経過していた。


魔王「これにて「王国軍式騎士型操作術」の稽古を終了する」


「「ありがとうございました!魔王様!」」


梵創者「ハァ・・・ハァ・・・」


魔王「ツキナ達は、まぁ息も上がってないか。梵創者は疲労困憊といった感じか?」


梵創者「ツ、ツカレました・・・」


魔王「初めてにしては良かったよ。新兵なら毒ガスを喰らった時点で精神的にダメになるからな。だが、この程度で疲れては旅団長の隣には立てないぞ?」


梵創者「マ、マダいけます!」


魔王「気合は結構だがまずは休め。環境変化に慣れないと身体が不調を引き起こす。これを飲みな」


梵創者「コレは?」


魔王「回復ポーションだ。臓器の働きを整える効能がある」


梵創者「ワカリました・・・ンぐ・・・ンぐ・・・」


副旅団長「既に旅団長の隣には私がいるのですが」


旅団長「そうですね。副旅団長が私のサポートを担えば安心出来ます」


梵創者「ムムムム!」


副旅団長「そんな威嚇されても・・・」


魔王「そうだな。副旅団長を追い越すのは厳しいぞ?伊達に数億人が所属する警邏旅団の副旅団長を務めてないし、勲章も持ってるだろ?」


副旅団長「はっ!『大銀少将位明界章』を賜っております!」


梵創者「ソレはどういう勲章デスか?」


魔王「少将としての力量と指導力を充分に備えており、全ての旅団以下部隊を導き世界を破滅の危機から救える実力の所持を証明する勲章だ」


梵創者「・・・副旅団長ってジツはスゴイ人?」


ツキナ「凄くないと副旅団長は務まらないっすねー」


魔王「まぁ、目標が高いのは良い事だ。頑張って追い越してみな」


梵創者「ガンばります!」


魔王「さーて、私は指令室に戻るよー」


ツキナ「あ、私も戻るっす!」


旅団長「私も戻ります。良い鍛錬になりました」


魔王「旅団長は鍛錬にならないだろ。汗一つ流してないしな」


旅団長「・・・良い暇潰しが出来たと訂正します」


副旅団長「基礎訓練程度は暇潰しと考えても差支えないのでは?」


旅団長「その驕りが足元をすくわれるかもしれないわよ?」


副旅団長「本気で言ってます?」


旅団長「・・・ありませんね。これは暇潰しです」


副旅団長「ですよねー」

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